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25. カフェで先輩と雑談してまったり過ごす。いい休日になった

「誠一郎は部活もアルバイトもなくなって、今は暇してるの?」


「まあ、そうなりますね……でも」


 僕は玖瑠美の背後に回りこむと、パーカーのフードを持ちあげて被せ、次の言葉を聞かれないように、フードの上から耳をふさぐ。


「妹がVTuberになりたいって言っているから、なんとかしようと思っているんです。だから、暇じゃなくなる予定です」


「そっか。仲のよろしいことで」


「……お兄ちゃん、普通に聞こえてる」


「そこは聞こえなかったフリしとけよ。僕が恥ずか死したらどうするんだ」


「一人じゃ生きていけないから私も死ぬ」


「重い、重い、重い。ネタかガチか分からないからやめて。そこは『もう、電気代節約のためにお兄ちゃんと一緒にお風呂に入らなくていいから嬉しい!』って言って先輩を驚かせるとこ。先輩のリアクションを引き出して、そこを弄って」


「そんな。初対面の先輩を弄ったりできない……。あ。寒い日はお兄ちゃんのお布団に入ってまーす。電気代節約!」


「やめろ、馬鹿! 本当のことを言うな!」


 僕は玖瑠美の口をふさぎ、先輩に『今の即興コント、どうです?』という視線を送る。


「二人とも気づいてないと思うけど、今、めちゃくちゃそっくりなドヤ顔してるぞ……。あははっ……。やっべ、つぼ入った。はははっ……!」


「お兄ちゃんと似ているって言われるのは、本気でつらい……」


「やめろ。本当につらそうに言うな。こっちもダメージ大きい」


「あははっ。やっぱ、イベントじゃなくて誠一郎や玖瑠美ちゃんと一緒に来て良かったよ」


 先輩が笑ってくれて嬉しいというか、妙な充実感がある。

 去年、鍛えられたというか、鍛えさせられたからなあ。成長を見せることができた達成感、かな。


 部活に行くと「今日、学食ランチが生姜焼きだったんだけど、それをテーマにして、帰るまでにショート動画の台本、書いて」とか「新しいペン買ったの? よし。それでコントしよう」みたいなノリだった。とにかく、日常の些細なことからでも話題を拾って広げられる力をつけるように教えられた。


 僕達はブラブラ歩き、玖瑠美が作ってきたお弁当を公園で食べようかとしたんだけど、昼食を取るにはちょっと早い。でも外は寒い、


 ということでカフェに入った。


 もちろん先輩が奢ってくれる。


 さすが先輩。入り口付近で待てばいいのか席取りをすればいいのか、カウンターで注文すればいいのか、何も分からずにオロオロとする上山兄妹をエスコートしてくれた。


 先輩はカウンターに行き、メニューが理解できずに狼狽える兄妹に「甘いのがいいよね? 期間限定のストロベリーラテがあるよ」と、的確な提案をしてくれた。


 先輩は手早くトレーを取り、おしぼりも用意してくれ、たったこれだけなのに、気の利く女感を醸しだす。


 僕達はカフェの奥に向かった。


 そこは窓際の席で、ソファと椅子がある。


 あれ。こういうとき、どっちに座るんだっけ。なんか、高校受験の時に面接対策でマナーについて調べたら、それっぽいことが書いてあったような気が……。


 駄目だ。分からん。


 あ。そうだ。受験で面接したばかりの妹ちゃんがいる。


 ほら、お前、先に座れ。僕は隣に行くから。


 しかし、玖瑠美もどこへ座ればいいのか分からないのか、僕にちらっと視線を送って、まごまごしている。


「好きなとこ座りなー」


 先輩がそう言ってくれたので、僕は妹とアイコンタクトを取り、座った。


 僕は椅子に、妹はソファに。


「違うだろ! 並べよ! 先輩が困るだろ!」


「えっ」


「大丈夫。困らないって。女子で並ぶよ」


 先輩はソファに腰を下ろして妹と並んだ。


「ゲストに寛いでもらうのがマナー、っていうか気遣い。友達同士で来てたら、そういうの要らないでしょ」


「なるほどーなつ」


 腰を落ち着けた僕達は先ずは飲み物で喉を潤した。


 さて。何を話そう。


 先輩と会うのは久しぶりだけど、SNSでたまにメッセージを交換するし、月に一回か二回くらいとはいえオンラインゲームに誘われているから、それほど久しぶり感もない。


 まあ、遊ぶのが夜になるし、部屋の壁が薄いからゲーム中は無言になるので、会話は久しぶりだ。


「お姉ちゃんは何をしている人なんですが? 学生ですか? 社会人ですか?」


 さすが、妹ちゃん。僕だったら微妙に聞きづらいことを、あっさり聞いた。


「んー。さっき言わんかったっけ」


「仕事が忙しいって言ってましたけど、社会人とは言っていません。じょ、じょう、じ、女児トリック」


「言いたいのは叙述トリックね。疑わなくても、社会人だよー」


「えーっ。女子大生かと思ったー。軽音部とか入ってそう」


 頭を見ながら言うな、頭を。そして、僕と同じこと思ってて草。


「女子大生でもある」


「えー? どういうことですか?」


「んー。社会人学生ってやつ。昼は社会人。夜は大学生。仕事と勉強で大変だよー」


 先輩は姿勢を崩し、背もたれに体重を預ける。


「なんのお仕事してるんですかー?」


 だから、頭を見ながら言うな……!


「こういう誰が聞いているか分からない所では言えないお仕事。……ベッドの上で二人きりの時なら教えてあげるよ」


「うち、お布団だから無理……」


「うちの妹、来年から高校生だし、メロン艦長の配信とか見てるし、そういうの普通に意味が通じちゃうんでやめてください。今のは清楚ぶって意味が分からないフリしただけです」


「お兄ちゃん。私、本当に分かんなかった」


「ライアー」


 僕は低い声で、妹を指さす。


 玖瑠美は怯えたような顔をすると、手で鉄砲を作り、自分のこめかみに当てる。

 そして、発砲し、机につっぷした。これが哀れな嘘つきの末路だ……。


「あ。そうだ。先輩『はい』か『いいえ』で答えてください」


「んー? 唐突過ぎん?」


「お姉ちゃんのお仕事は、某テーマパークでネズミのマスコットキャラクターの中に入るお仕事ですか?」


「ピンポイント過ぎる! 確かに世界有数の、人に言えないお仕事かもしれないけど! 答えはいいえ!」


「人に言えない……。あっ……。もしかして、白い粉と関係が?」


「いいえ!」


「それじゃ、ドーナツに白い粉をかける仕事じゃないんですね……」


「ドーナツ屋でバイトしていたことはあるけど、まかないが『抜いた真ん中』だからやめたんだよ。真ん中はカロリーゼロじゃないから」


 凄え、さすが先輩。


 僕がツッコミを誘導したことにしっかり気づいて反応してくれたし、ボケも返してくる。


「今の僕の質問って、正解ですよね?」


「そう。ちゃんと、タレントが面白く答えてくれそうな質問をする。それ、正解」


 先輩の口癖「それ、正解」を聞き、一瞬ここがカフェではなく、配信部の部室かと錯覚してしまった。


 僕達が一緒に部活の空気を懐かしんでいると、死んだふりしていた玖瑠美が起き上がり「はいっ」と手をあげた。


「ドーナツ食べたい!」


「ぷふふふっ」


「あはははっ」


 先輩と僕は笑いだした。玖瑠美は特別面白いことを言ったわけじゃないんだけど、タイミングが良すぎるし、声が無邪気すぎて、それが妙にウケる。


「ここ、ドーナツあったけど、白い粉、かかってるかなあ。買ってくるよ」


「あ。すみません」


「大丈夫大丈夫、可愛い妹ちゃんのためだもん。奢るって」


「そうじゃなくて、僕も。真ん中のお願いします」


「分かった。任せろ」


 先輩は頼もしくレジカウンターに向かった。


 まあ、社会人だし、後輩に奢るお金くらい持っているだろうから、遠慮はなしだ。


 しばらくして先輩がトレーを手にして戻ってきた。


「玖瑠美ちゃんどうぞ」


「ありがとう!」


 ドーナツの載った皿が玖瑠美の前に置かれた。まん丸で揚げてあるやつ。多分、中にクリームが入っている。そして、白い粉がかかってる。


「誠一郎もどうぞ」


「ありがとうございます」


 取り分け用らしき皿、つまり、何も載っていない皿が僕の前に置かれた。


「ほれ、まんなか」


「あ、はい……」


 なるほど。僕にはドーナツの真ん中、つまり穴をくれたのか。


 先輩は真ん中に穴が開いたタイプのドーナツが二つ載った皿を自分の前に置いて座った。


 ……それ、一個くれるんだよね?


 パクッ。


 僕の熱視線を浴びたドーナツは、先輩の口によって、その一部を削り取られた。


「そんなに見られると食べづらいんだけど」


「お兄ちゃん。女の子が食べているところジロジロ見るの、良くないよ」


「女の……子?」


「あーあ。あげようと思ってたのに。高校卒業したらもう女の子扱いしてもらえないのかあ。悲しいなあ」


「あ、いえ。綺麗な大人の女性に対して、女の『子』というのは失礼かと思いまして」


「こっ、こいつ、こんなこと言えるメンタルに成長していやがる……。一年経ってないのに、人はここまで成長できるのか……?! 玖瑠美ちゃん。こいつ、彼女できた?」


「絶対にない。彼女ができたら、絶対に間違いなく私が気づく」


「それじゃ、コンビニ前で外国人に襲われたとき、頭を強く打って……。すまねえ。こういうとき漫画だったら『いい医者、紹介しようか』って言うんだろうけど、生憎と脳の医者と知りあわない……!」


「うーわ。ひどい言いよう……」


 まあ、先輩がそう言うのもしょうがないか。


 ぶっちゃけ、僕がまともに会話できる女子なんて、玖瑠美と先輩だけだったからな。


 最近、そこにユウが加わって、僕の対人コミュニケーション能力が急激に鍛えられている感ある。異世界で半裸の銀髪美少女とうぇっへーいしてたら、現実世界の女性との会話のハードルがヤバい勢いで下がった……。


「普段から配信脳を鍛えろ、という先輩の言いつけを守っているから、言えただけですよ。今のは、先輩後輩の関係を表現する場面だったでしょうし」


「うん。いい配信脳だ。ほら。ご褒美。お食べ」


 先輩が僕の方に手を伸ばし、ドーナツを差しだしてきた。


 食べかけの方だ。


 僕が受けとらずにじと目を向けると、先輩は、にまあっと目を細めて笑う。


「間接キッスが恥ずかしいのかな?」


「そんなことないですよ」


 僕はお手拭きで指を拭いてからドーナツを受けとる。その際、先輩の指に触れてちょっと恥ずかしいけど、表情には出なかったはずだ。平静を装う。


 そして、玖瑠美の目の高さにドーナツを掲げる。


「はい。それじゃ、次は、一・五、いきますねー。はい」


「右!」


「次は、これ」


「下!」


「それな! 玖瑠美! 一瞬で視力検査だって気づいてあわせる、それが配信脳!」


「いぇーい! 褒めて!」


「いぇーい! じゃあ、ご褒美~」


 こうして、間接キッスが恥ずかしかった僕は、ごく自然にドーナツを妹に譲渡した。


 先輩は笑って、手つかずだったドーナツを半分に千切って、僕にくれた。


「でもさ、実際、誠一郎ってファンタジー漫画でいうところのバッファーでさ。配信部がAランク認定されたの、ほとんど誠一郎のおかげでしょ? 今日のイベント、まわるの? 川下は声はいいんだけど、女ファンと繋がりたいって態度を隠せないんだから、台本とか司会で上手いこと転がさないと、いつか失言で炎上するでしょ」


「一応、僕は今日まで手伝いたいって言ったんですけど、要らないって言われて……。自信たっぷりだったから大丈夫だと思いますけど……」


「お兄ちゃん。Aランクって何?」


「えっと。全国に配信部は一〇〇〇個くらいあって、今も増え続けているらしいんだけど、それらを競い合わせて成長を促すために、日本高等学校配信部活連盟……正式名称がこれであっているかはうろ覚えだけど、とにかくそういうところによってランク付けされているの。それで、活動実績に応じて、S、A、B、C、D、Eランクが与えられて、Sは今のところ〇校。Aランクが一〇校」


「全国に一〇校しかないの? お兄ちゃんの配信部、凄いんだ」


「うん。リアイベやって会場チケットが一〇〇枚売れるくらいだし。まあ、ほとんどお姉ちゃんが土台を築いた感じだけど」


「いやいや、頑張ったのは誠一郎でしょ」


「いやいや、先輩のおかげですって、本当に。僕はお姉ちゃんが敷いたレールの上をトロッコで走っただけですから。いよっ! お姉ちゃん、いよっ!」


「えー。もー。照れるなー。あー……。ここって、ドーナツのテイクアウトできたっけ」


「わざわざお土産までありがとうございます。いよっ!」


「いや、これから行く知り合い用のガチ土産」


「あ、はい……」


 そう言いつつも先輩はカウンターに向かった後、テイクアウトの箱を、大小二つ持って戻ってきた。


「もしかして男ですか?」


 相変わらず玖瑠美はぶっこんでいくなー。


「ぶー。仕事先の女だよ。一緒にいてくれなきゃ嫌って言われちゃってさー」


「先輩は男よりも女からモテるタイプですよね」


「セイちゃん、相変わらず、しれっとぶっこんでくるなー」


 先輩は小さい方の箱を僕達にお土産として持たせてくれた。


 午後から用事がある先輩と別れて、僕は玖瑠美と電車に乗ってアオンモールに行った。


 最初にフードコートでお弁当とドーナツを食べた。玖瑠美の手作りホットサンドの中にウェハースチョコが入っていてビビッたけど、意外と美味しくてさらにビビッたわ。


 それから、モール内のお店をぶらぶら散策した。

 アオンモール最高。一日中遊んでいられるわー。

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