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17. 里中先輩、親に捕まってて草。それはそうと、神谷さんと会話したらまたクソな選択肢が出た

 神谷さんと別れたあと僕は教室に戻って鞄を回収し、いつもの癖で間違えて配信部の部室の方へ向かってしまった。


 途中で気づき、Uターン。


(オラがUターンで、オラウータン! こんにちは。上山誠一郎で~す!)


 あっ。いつもの癖で、入室時の挨拶を考えてしまった。


(いつか僕が第二配信部的なのを作って見返してやるからな……。勇者パーティーを追放される付与魔術時の如く再起してやる……! それにしても、あまり早く帰ると玖瑠美に心配をかけるよなあ……。図書室で時間を潰すか)


 僕は図書室に行き、適当に新着図書を手にして読んで時間を潰した。


 下校時刻のチャイムが鳴ったので帰ることにし、廊下を歩いていると、学校に馴染まない人影が視界に入った。


 二月なのにアロハシャツを着た金髪パンチパーマの男だ。茶髪生徒――僕に三〇万円払えって迫った里中先輩――の髪の毛を掴んで引っ張って、生徒指導室に入っていく。

 里中先輩、俯いてて、めっちゃ涙目!


 ドアが閉まるのと同時に野太い男の声で「うちの息子がすみませんでした! 就職先への連絡だけは勘弁してくれませんでしょうか!」と聞こえてきた。デケエ声だ……。


 まあ、覗き行為は未遂だし、大きな処分にはならないだろう。


 僕が三〇万円たかられたことに関しては、向こうが教師に僕の名前を出さなければ黙っておいてあげよう。多分、先輩は三〇万円恐喝の件を隠したいだろうし、僕の名前を出さないはずだ。


 あの人よりも……。むしろ僕的には配信部の方が許せないからな。


 川下先輩の就職が取り消しになればいいのに……。あ。というか、就職じゃないのか。VTuber事務所に所属する個人事業主だから、卒業するけど就職ではない。それじゃあ、学校で問題を起こして停学や退学になっても、本人が黙っていれば事務所に伝わることはない……。

 だったら、炎上して勝手に自滅してくれないかな。なんてことを考えながら、昇降口に向かった。


 昇降口を出て校門手前の丁字路で、右側から来る人と、偶然のタイミングで合流した。


 僕とぶつかっても当たり負けしないパワーを誇る、女子柔道部員の神谷さんだ。


 制服の上に部活用らしきジャージを重ねていて、短髪と相まっていかにも部活少女って感じだ。寒いんだし、下もジャージを穿けばいいのに……。


 今日、最も会話した相手だから、無視するのは気がひける存在だ。

 女子に話しかけるのは緊張するけど、まあ、リアルでも現実でも僕が先輩だし、メロン艦長も『先輩から声をかけるべきっしょー』ってコラボのときとか言うし……。


「お疲れ様」


「ひゃ、ひゃい。上山先輩もお疲れ様です……」


 神谷さんはうつむき気味に、上目づかいで僕を見てくる。


 頬がやや赤い。部活後にメイクをしているのだろうか。


 それとも、冬に頬が赤くなるタイプだろうか。


 僕達は並んで歩きだす。


 神谷さんは僕の方をちらっと見たかと思うと、さっと視線を逸らした。


 なんか様子が変だ……。


 もしかして。


「やっぱり体調が優れない感じ?」


「い、いえ、大丈夫……。です……」


 ん?

 凄い小声だ。元気がない?


「……洗濯当番で適当したこと、怒られたの?」


「あっ……。そ、それは、その……。はい。大丈夫です……」


「練習で失敗した?」


「い、いえ……」


「……なんか、さっきと性格違わない?」


「そ、そそ、そんなことないです」


 神谷さんは指で前髪を掴んで引っ張って、せわしなく弄っている。


「……なんか微妙に遠くない?」


 掃除の時間に会ったときは『距離の詰め方えぐっ。もう友達かよ』ってくらいの真横を歩いていたのに、今はなんか気づいたら三メートルくらい離れている。学校内の広い通路の端と端という、限界の距離だ。

 この距離は、配信の立ち絵だったら『おいおい。ポコラ~。お前、艦長のこと避けてんじゃねえー!』って茶化すところだけど……。


「く、臭いから……」


「ご、ごめん……」


 ぐふっ……。後輩女子から臭いって言われてしまった。めちゃくちゃ心が抉られる。


 知らなかった。僕って臭いんだ。

 妹が洗濯物を一緒に洗うことを拒絶してこないし、寒いときに『重ねるのにちょうどいいし』と僕の服を着たりするから、臭いなんて思いもしなかった。油断していたぜ……。


「ま、まま、待ってください。臭いのは私で……! 部活後なので……! その……!」


「あ、はい」


 そういうことか~っ。でも、めちゃくちゃ返答に困る真相~っ。


 運動部だから冬でも汗をかくのは当然だろう。けど「臭くないよ」って言っても言わなくても失敗な気がする。ここはスルースキルの発動だ。


 ピポンッ♪



 A.「大丈夫。ぜんぜん臭くないよ」


 B.「汗の匂いは頑張った証だから、恥ずかしがらなくてもいいよ」


 C.「臭ッ。もうちょっと離れてくれない?」



 っざっけんな!


 なんなんだよ、このいきなり出てくる選択肢!


 しかも毎回、Cが論外で、実質二択。しかも、ABどっちも、僕が絶対に言わないような台詞がピックアップされてる。くっそ。メロン艦長、助けて……。


 そうだ。メロン艦長だ。こういうとき、メロン艦長ならなんて言う?


 Bだ。艦長は、乗組員の努力を褒めてくれる!


「汗の匂いは頑張った証だから、恥ずかしがらなくてもいいよ」


「え?」


「キザなことを言ってごめん。でも、メロン艦長なら神谷さんの努力を褒めてくれるよ」


「……はい。ありがとうございます!」


 掃除の時の元気な声に戻った神谷さんがスキップするように近づいてきて、隣を歩き始める。


 とはいえ、掃除の時間よりかはやや距離が遠い。


 僕が女性VTuberだったらここで「くっさ! お前、くっさ!」と狼狽えて、オチをつけて笑いを誘う場面だ。


 しかし、空気が読めない僕でも、リアル女子にそんなことは言わない。実際、別に臭くないし。


「先輩は何部ですか?」


 来た! この質問! 人から何部か聞かれることなんてないと思いつつも用意しておいた答えが、僕にはある!


「ビビデ、バビデ、部ぅ~♪」


「ビビデ、バビデ、ブゥ~♪」


 神谷ちゃんノリいいな! そういや女子高生ってたまに教室や路上でもいきなり歌いだすよな!


「実際は何部なんですか?」


「配信部だよ」


 と口にしてしまってから、退部になっていたことを思いだす。


「あ。訂正。配信部だった……」


「もう引退して受験勉強なんですか?」


「あ、いや……。そういうわけじゃなく……」


 校門を出て左に曲がると、神谷さんも同じ方向へ来た。


 となると、会話はまだ続く。


 俺のターン!

 手札を捨てて、山札からカードをめくる!

 会話カード『部活』ッ!


 くっそ。トークデッキが弱すぎて、神谷ちゃんに使用可能な話題が、部活トークしかない!


 適当なことを言うのも正直に言うのも気がひける。けど、後輩相手に情けないことを言うのも気がひける。


 一般道路の歩道だから幅は狭く、僕達は強制的に友達の距離で並んで歩くことになる。神谷さんが車道に出てしまわないように、僕が車道側に立つ。


 会話せずに歩くのは不自然だし気まずい距離だ。


 早く何か言わないと選択肢が出てきてしまうかもしれない。だから、僕は都合のいい事実のみ切り抜いて説明する。


「配信部は来年から女子がタレントをするから、杞憂民潰しのために男の僕はクビになったんだ」


「あっ。彼氏って誤解されるやつですか」


「うん。柔道部って、全国大会を主催するような、柔道連盟みたいな組織があるでしょ?」


「はい。あります」


「配信部にも、そういう感じの組織があって、そこが各学校の配信部の活動実績に応じて、AランクとかBランクとかつけるんだけど」


「ゲームみたいですね」


「うん。多分、ゲームみたいなノリを意図的に導入しているんだと思う。……で、うちの配信部が今、調子がよくてAランクに認定されて。そんな時期だから、女性タレントの周りに男性スタッフがいるのは避けたい、みたいな」


「えー。なんか、それ納得できなくなくないですか?」


「『なく』が多くない?」


「先輩は一年生の頃から部活を頑張ってきたんですよね? それなのに二年の最後で辞めちゃうなんて勿体ないです」


「うん。でも、しょうがないし……」


 神谷さんがさっきより聞き上手になっているというか、こっちの言葉を上手く引き出してくるというか、やはり、印象が違うな……。部活後で疲れているのかな?


「今日は何をしていたんですか?」


「やることないから図書室で読書」


「あ。だったら、柔道部に入りませんか?」


「無理よりの無理のかたつ無理。僕の運動能力じゃ柔道なんて無理だし、二年の終わりから気軽に始められるものじゃないでしょ?」


「男子じゃなくて、女子部のマネージャーです」


「マネージャー? それって、選手のスケジュール調整したり、動画にゲスト出演したり、ポンコツエピソードを提供してタレントのトークデッキを強化したり~?」


「はい。そういうのです」


「VTuberかよ! 違うでしょ。ドリンクを用意したり、おにぎりを用意したり、掃除したり練習試合を他校に申しこんだり備品の不足がないかチェックしたり、洗濯……は女子だから無理だとして、なんか、こう、運動部のマネージャーってそういうのでしょ。やったことないから知らないけど」


「あははっ。そうでしたっけ」


「そうだよ」


「でも、部のチャンネルを作って練習の様子とか試合とかを配信しようって話はあるんです」


「あ。そうなんだ。女子柔道部に僕が入部するわけにはいかないけど、動画サイトの登録方法とか動画のアップロード方法とか、そういう雑用なら言ってくれれば手伝うよ」


「本当ですか? 期待しますよ? 女子柔道部みんなメカ音痴ですし」


「うん。メカ音痴ってフレーズが出てくる時点で、想像以上の機械音痴でヤバ過ぎ謙信……」


「でも、別に先輩が女子柔道部に入ってもいいんじゃないですか? 野球部のマネージャーは女子ですし。部活のマネージャーは性別が逆じゃないんですかわらのさねみち」


「野球部の例しか分からないからなんとも……」


「うちは部活必須ですし、行くところなかったら是非、来てください」


「誘ってくれるのは嬉しいけど、そこは、ほら。神谷さんが良くても他の部員が男子を嫌がるかもしれないし」


「そこは確かめて杞憂民潰ししておきます」


「あ、はい」


「それじゃ、私はこっちなんで!」


「あ。うん。お疲れ様」


「お疲れ様です!」


 神谷さんはペコリというよりギュンッと頭を下げると、ダーッと走っていった。


 元気だなあ。


 女子柔道部のマネージャーをする自分は想像できないけど、配信の手伝いみたいなのならしてもいいかも。


 あ。振り返った。またギュンッ、してダーッした。

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