長女 磯野若菜 小3
4月、新年度。
私は小学3年生になった。
今年も・・・・。
4月になると記憶がリセットされ、あたかも新学年になった気分になる。
でもそれは幻で、私は何年たっても小学校3年生のままだった。
私は何年も気づかずに過ごしていた。
でもある時気づいた。
私や私の家族、それから私や家族とかかわりのある人は、年を取らないけれど、
私とかかわりのない人は、成長していくんだ。と。
「若菜ちゃん。次体育だよ」
保健室の先生が呼んでいる。
体育なら、行くか。と体操着に着替えて校庭に向かう。
体育は運動になるか出よう。
毎年、同じ内容の授業に出るのが馬鹿らしくなった。
でも体育なんかは年によって微妙に違うし、運動にもなる。
だから、行く。
国語や算数は毎年同じ。
4年生から難しくなるとかお兄ちゃんから聞くけれど、4年生なんて来やしない。
体育が終わると保健室に戻り、自分の本を開く。
「小学6年生 算数」
もうここまで進んだ。授業を聞かずに自分で勉強している。
インターネットのおかげで先の学年の勉強ができるようになった。
うちにwi-fiがきてから、私は様々世界を知った。
そして、私と私の周りが、ずっと同じことを繰り返していると気づいた。
すごく、びっくりした。
お父さんやお母さんに聞いても、お兄ちゃんに聞いても、先生や友達に聞いても
誰に聞いても相手にしてもらえない。
インターネットの世界は衝撃的だった。でも新しい世界。
勉強したら、何か変わるかな。新年度になったらリセットされるのかな。
成長を求めて、私は学んでいる。
「あなた、何年生?」
そう聞かれ顔を上げると、見たことのない髪の長くて背はずっと高い女の子。
「3年生」
「でも6年生の参考書、どうして?」
「それは・・・」
私がどう答えようか迷っていると
「ごめん、若菜ちゃん。保健室のお友達増えたから、この子と席となりでいいかしら」
用語の先生が机と椅子と私の隣に置いた。そして彼女が座った。
「私、5年3組 神楽坂ひな。あなたは?」
きれいな子、大人っぽい お兄ちゃんと同じクラスなんだ・・・・
「3年1組 磯野若菜」
「・・・磯野って、磯野克己の妹なの?」
神楽坂さんは驚いた様子で、席を立った。
「そうだけど・・・」
「磯野とかかわったら、進級できない。私、帰る」
神楽坂さんは教室を出て行った。
保健の先生は、どこかにいったようで、保健室にはいない。
そうこうしていると保健室の扉があいた。
「お兄ちゃん」
一人分の給食のお盆を持った、お兄ちゃんが立っていた。
「神楽坂さん、給食持ってきたよ・・・・って若菜、また保健室にいるのかよ」
「だって、授業をきいても仕方ないじゃないの」
保健室登校しているのは、家族には話している。
「神楽坂さんは? 俺、日直だから給食持ってきたんだけど」
「さっき、でていった」
「え~。もう帰ったのかな。最近、あんまりいないんだよね。俺早く給食食べたいな。。。」
とお兄ちゃんは給食を空いている机に置いて、去っていった。全く相変わらずいい加減!
もう、給食の時間か、私も教室に行って給食食べようかな。
最近できた。おしゃれなおうち。
三階建てで、屋上がある。いいな、うちはいつまでも平屋。今時ありえない。
そんなおうちのドアが開くと出てきたのは・・・・
長い髪の神楽坂さん。一緒にいるのはお母さんだろうか。車庫にある車に乗って行った。
この家は神楽坂さんの家だったんだ。
それから、保健室では神楽坂さんをみかけない。
教室に戻ったのかな。それならいいんだけど。
3年生の私は、5時間目で授業が終わる。5年生以上は6時間目まであるんだよね。
お兄ちゃんがいないのは静かでいいから、早く帰ろう。
通学路から少し外れたところにある神楽坂さんの家、なんとなく気になったから、今日は少し遠回りをして帰ろう。
私の前を通ったのは
あ、あの制服って名門F女学園の、って神楽坂さん・・・・
あれ? まだ小学生では? お兄ちゃんと同じクラスでしょ。 今でも。
「神楽坂さん・・・?」
私は思わず声に出した。違うかもとは思ったけれど。その人は私を見て、
「磯野の妹?」
「そう、久しぶりですね」
「そうね。私は小5から、F女学園の中学1年に」
「え????」
私は混乱した。
あれから神楽坂さんに聞いた話。
学校に行かなくなって、塾に行って猛勉強。同じ小学校のいない遠い塾に。
小学校の人とかかわらない場所に行って、成績表の必要のない、試験の結果のみの学校を受験すれば、進級する世界に戻れる。
ある塾に行ったらそういわれたので、その塾に入った。それでF女学園を受けた。
磯野ももし、進級したいのなら、受験してみるのもありかもと。
受験して、合格したら、いきなり中学1年になる。
小学5年の林間学校や、小学6年の修学旅行は経験できずに中学に進級する。
少し葛藤はあったけれど、ずっと小学3年生のままよりはきっといい。
私もF女学園を目指すことにした。
通える範囲で、成績表の必要のない学校は他になかったから。