駅にて
私はヒトミさんの一周忌で新潟から群馬の伊勢崎に向かおうと駅の古びた腰掛にいた。ヒトミさんとは私の恩師で、学生の頃からよく面倒を見てもらっていた。しかし、私にちょうど孫が生まれたときに輪廻転生といった風に逝ってしまった。
ちょうど近くの工場の酷い音が響いたとき、大きなつばの帽子をかぶり、髪を紅い紐で結わえた女性に声をかけられた。「この電車は伊勢崎に向かいますか」と。続けて「あの、申し訳ございません。この電車は伊勢崎に向かいますか」と言うもので、私は「あぁ、ええ。伊勢崎に向かう電車であっております」と応えた。彼女は微笑して時々顔を両手にうずめて肩を震わせていた。私は堪らなくなって声をかけようようとしても言葉がうまく出てこず、あぁだのえっとだのとぶつぶつ言っては狼狽えていた。そうするうちに彼女が口を開いた。「どうもありがとうございます」とだけ言って後には黙ってしまった。私にはその静寂が何とも耐えられずに訊いた。「どうしてそんなに笑っていらしたのですか」彼女はしばらく懐かしそうにあの工場の先を見つめていた。私も何も言わずにただ同じように見つめていた。彼女は日系人らしくない茶色の髪をくるくると巻いてゆっくりと口を開いた。