麗衣サンと小碓クンが付き合っているなら俺は御二人の愛人でも妾でも良いっすよ
「えええっ! ……この子、女子だったの?」
亮磨に殴られて尚、俺の腕に引っ付いて離れないミオは170センチ近い身長と言葉遣いから男子かと思っていたが、何と女の子だったとは……。
「ああ。ゴメンね。自己紹介遅れていた。俺は赤銅澪って言うんだ。良く男子と勘違いされるけど、一応女子何で夜露死苦!」
麗衣や姫野先輩もイケメン的な美少女だが、女子としては長身の二人にも増して澪は更に背が高く、一人称が「俺」である事もあり、男子にしか見えなかった。
俺達が言葉を無くしていると、澪は頬を掻いた。
「あーこの反応は……やっぱり男子と勘違いされていたかな?」
澪はポリポリと頭を掻いてこちらの認識を把握した。
「まぁ、正直言うとそうだけどね……勘違いしていて悪かったね」
「いや、何時もの事だし気にしてないから良いっすよ。男役も女役もどっちもOKなんで」
「男役も女役もOKって何だよ……」
麗衣が呆れていると澪は言った。
「本当は麗衣サンと小碓クンが付き合っているなら俺は御二人の愛人でも妾でも良いっすよ。いっその事、三人でエッチとかしても良いっすよ」
何その魅力的な提案!
……何て一瞬正直に思ってしまった俺は自分に対して自己嫌悪を感じた。
「おい! 赤銅! お前妹にどういう教育しているんだ!」
麗衣は自分の下品さを棚に上げ、亮磨を怒鳴りつけた。
「あー……それについては返す言葉も無いが、一応それでも俺と兄貴達よりはまともな方だぜ」
亮磨は赤銅兄弟の中ではまともな部類で、半グレとつながりがある鍾磨や薬物中毒の葛磨に比較すればまともかも知れないけれど……。
今の女子中学生って、ここまでアグレッシブなのが普通なのか、それとも澪が異常なのか?
たった一年前は中学生だった自分だけれど、澪の事が全く別世代に見えてしまった。
そんな俺の内心など知る由もない澪は俺だけでなく、麗衣の腕にまで捕まった。
「ねーねー麗衣サン! どーせ小碓クンの事が好きでも気持ちを伝えられないんでしょ? だったら俺が間に入って二人を繋げるから、俺と繋がって、小碓クンを俺に繋げさせてよ♪」
繋げるって一体ナニを繋げるつもりだ?
「馬鹿。女ならテメーを少しは大切にしろ」
麗衣は澪の頭に軽くチョップした。
「良いか? 恋愛でも格闘技でも性急には上手く行かねーんだよ。テメーがあたしや武の事を好きだって気持ちは良く分かったけれどよぉ、相手の事も知らないで自分の勝手な気持ちを押し付ける。こんな一方的なのは本当の恋じゃないだろ?」
「あっ……ああ。そうだね」
格闘技以外の事で珍しくまともな事を言い出した麗衣に対し、澪は神妙な面持ちになっていた。
「だからよぉ。先ずは相手に少しずつでも理解してもらうように時間を掛けてでも努力するんだ。相手の良いところも悪いところも知って、その上で悪いところも受け入れられて、一緒に居たいと自分も相手も納得出来る様なら始めて思いが通じるってモンだろ?」
何か如何にも良い事を言っている風だけど、麗衣が誰か異性と付き合ったことがあるという話も聞いた事が無いんだけれどなぁ……。
しかし、そんな事は露知らず、澪は麗衣を絶賛した。
「へぇー。さっすが麗衣サン! その通りだよね!」
「物分かりが良いな。そういう訳でお前とは付き合えねーけど、気持ちだけありがたく受け取っておくぜ」
麗衣はなるべく澪を傷つけない様に上手く振った様に見えたが、澪はこちらが予想外の事を言い出した。
「じゃあさぁ、時間をかけてでも俺の事を理解してもらいたいからさぁ、俺を麗に入れてくれよ!」
オイオイそう来たか。
「いや待てよ! お前、鮮血塗之赤道のメンバーだろ? ウチとは一時的に同盟関係にあるとはいえ、自分のところを抜けてまで暴走族潰しのチームになんか入るつもりか?」
「そのことならね、鮮血塗之赤道は麗との約束で解散が決まっていたけれど、せめてものケジメとして邊琉是舞舞とは決着を付ける為に解散を先延ばしにしていただけだから、今日で鮮血塗之赤道は解散だから気にしなくて良いよ」
「えっ。そうだったのか?」
天網に邊琉是舞舞とのタイマンを邪魔されてから、鮮血塗之赤道の今後については聞かされて居らず、また麗衣にとっても俺が亮磨の世話になった為、約束していた解散については何となく曖昧にしていたが、そんな事を決めていたのは初めて聞かされた。
「お前等を追い込んだあたしが言うのも筋違いかも知れねーけど……本当にそれで良いのか? 赤銅?」
麗衣は赤銅に尋ねた。
「男に二言はない。安心しろ。約束通り鮮血塗之赤道は解散させる。邊琉是舞舞にきっちりお礼参り出来たし、最低限の矜持は守られたからな。それに兄貴達の行為に仲間を巻き込む事に疑問を感じていたのは前言った通りだ。だから潮時なのさ」
以前、亮磨は半グレと絡んでいる鍾磨や薬物に手を出している葛磨の事に関して仲間を巻き込みたくないと言っていた。
もしかすると俺達の件とは関係なしに、何らかの方法で鮮血塗之赤道を解散させる事を考えていたかも知れない。
「そうか。解散については分かったぜ。でもよぉ……、女とは気付かなかったとはいえ、お前の妹まで病院送りにしちまっていた何て、すまねぇな……」
例え暴走族相手でも女子には優しいのが麗衣らしい。
「まぁ、俺ら幹部の妹だしウチ等の事実上のナンバー4だから、やられたって聞いた時はそりゃメンバー全員激怒して麗を探し回ったけどな。ご覧の通りこの阿保はやられた事に関してはケロッとしていて、寧ろ自分をやった女に惚れちまったって言うんだから世話ねーぜ」
だから学校で始めて亮磨に会った時、あれだけ麗に関して怒っていた様だが、それは亮磨達の勇み足だったという事か……。
「阿保って何だよぉ~兄貴だって麗衣サンに負けたんだろ? イテテテッ!」
昭和の時代に「梅干し」と言って両拳で頭の両側からグリグリと押し付ける軽い体罰があったらしいが、亮磨は澪の頭をまさしく梅干しで締め付けていた。
「まぁ、見ての通りの阿保で無節操な変態だが、格闘技のセンスは俺より遥かに上だ。上手く手綱を握りさえすればお前等の戦力になるとは思うぞ。どうだ? 澪を麗に入れてやってくれないか?」
上手く手綱を握れって本人の前で言うのもどうかと疑問に思ったが、戦力としてみれば少なくても俺よりはずっと強いのは間違いないだろう。
「正直ウチは人数不足だからな。確かにコイツの強さは魅力的だ。でもよぉ……大事な妹にあたし達みたいな危険な目に遭わせて良いのか?」
麗衣が亮磨に尋ねたが、代わりに澪が答えた。
「麗衣サン。俺はアンタらが何をしているか十分承知しているつもりだよ。だから危険な時は俺がケツ持ちするからさ」
「アホぅ! あたし達は族じゃねーからケツ持ち何かねーよ!」
「酷いなぁ~兄貴も麗衣サンも人の事を阿保阿保って。ケツ持ちってものの例えだよ。もし麗のメンバーがピンチになったら俺が盾になるって事」
「あのなぁ……仮に麗に入れたとしても一番年下のお前にそんな事させられるかよ」
「お願いだよ。取り合えず今すぐ付き合ってくれって言う気持ちは封印するからさ。せめて俺にチャンスをくれよ。必ず役に立って見せるからさぁ~」
「……麗衣君。良いんじゃないのか?」
麗衣が尚も困惑の表情を浮かべていると、クロカンの中から姫野先輩が出てきて麗衣にそう言った。