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ヤンキー女子高生といじめられっ子の俺が心中。そして生まれ変わる?  作者: 麗玲
第3章 ヤンキー美少女の下僕は脱見習いを目指しました
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最強の女から攻撃の躱し方とカウンターを教わった拳

「今までガードの説明をしたけれど、はっきり言ってこれだけでは使い物にならないと思って頂戴」



「え? じゃあ今までの説明は何だったの?」



 俺は無駄な努力をさせられていたのかと思い、思わず不満を口にした。



「まぁ落ち着いて聞いてね。さっきも少し話したけれど、パターンが決まっている受け返しならとにかく、どんな攻撃をされるか分からない実戦じゃ相手のパンチの速さに合わせるのは難しいんだ。しかも受け返しみたいに軽い攻撃じゃなくて本気の攻撃を受けられると思う? スパーリング経験を積まないと実戦で使えるレベルにはならないと思った方が良いよ」



 考えてみれば総合格闘技の試合等では、せいぜい牽制のジャブをパリングする程度で、パンチを巧みにガードしている選手は殆ど観た事が無い。



「確かにそうだけど……、だったら猶更今までの話が無駄って事じゃ?」



「無駄じゃないよ。本当は相手に攻撃されたら躱してカウンターで返すのが一番理想だけれど、どうしても躱せない場合があるから、ガードも覚えておく必要があるんだよ。ガードだけ、あるいは回避のテクニックだけじゃなくて両方合わせて覚える事に意味があるの」



 強くなる為に近道は無いという事か。



「成程。確かにそうかもね」



「とにかく実際、やってみれば納得してくれると思うから。じゃあ、ダッキングの説明から始めるね。ダッキングはボクシングの場合上体を落としてパンチを躱す事を指す場合が多いけれど、これだとミドルキックに合わされる可能性が高いのでキックボクシングじゃ推奨されていない事は知っているよね?」



「ああ……そう言えば、昔、K-1で元ボクシング世界王者の崔龍洙選手と魔娑斗選手が試合をした時、崔選手がダッキングして頭を下げた直後、魔娑斗選手のミドルキックが顔にまともに入ってダウンをとられたシーンの動画を観た事あるね。だからキックボクシングの試合じゃあまり使われていないんじゃなかったっけ?」



 この事例を取り上げて、ボクサー風の上体を下げるダッキングがキックボクシングでは御法度という事は当時よく言われていたらしい。



「そう。だからキックボクシングのダッキングというと頭を下げるんじゃなくて、一般的に上体を横に避けてパンチを避ける事を指す場合が殆どみたいね。まぁその事を踏まえて、今回はキックボクシング風のダッキングの話をしようと思うけれど、まだ入門クラスじゃこの辺はやっていないよね?」



「うん。少なくても昨日体験した限りではやらなかったと思う」



「じゃあ、説明するよ。と言ってもお前は格闘技詳しいらしいから細かい説明はいらないとは思うけれど」



 勝子は再びボクシングよりもやや高めのスタンスに構えた。



「ダッキングってさっきも言った通り、簡単に言えば上体を横に逸らして真っすぐのパンチを避ける事だけれど、上半身の動きだけで避けると、次の攻撃につながりずらいから、膝を使って柔らかく避けるのがコツなの」



 勝子は膝の力を脱力させ、ゆらりと上体を左右に動かした。



「この時、体を連動させて後ろ足と後ろの肩を捻るの。頭を横に一つ動かすぐらいで、攻撃を自分の肩の上を通すように避けるのが理想的だよ。じゃあ、やってみようか。構えてみて」



 勝子に言われ、俺はオーソドックススタイルの構えをとった。



「今から分かりやすいようにモーション大きくして遅い右ストレートを打つから、ダッキングで躱してね」



「分かった。お願いするよ」



「準備は良いかな? じゃあ行くよ」



 勝子は少し振りかぶり気味にスローな右ストレートを打ってきた。


 俺は肩を捻り左に頭をずらし、勝子のパンチを躱した。



「ちょっと、動きが大きいかな? ずらすのは頭一つ分を意識してね。あと、本当は相手をしっかり見ながらギリギリのタイミングで避けるのが理想だけれど、実戦では難しいと思うから、相手の肩回りを見て、肩が動いたらダッキングした方が良いかもね」



 こうやって注意を受けながら、勝子はパンチのスピードを少しずつ上げつつ、暫くの間反復でダッキングの練習を行った。




              ◇




 慣れてきたところでダッキングの練習は一旦終了とし、勝子は補足した。



「そうそう。今までやってきたダッキングやパリングの練習だけれど、動体視力を鍛えるのと防御の練習用に現役プロや元選手の格闘家やボクサーがパンチを打ってくれているところを撮影した動画が探せばあるから、家ではそういうのを参考にして反復練習するのも良いよ」



 そのような動画類がどの程度実戦で効果があるのか分からないけれど、少なくても動体視力は鍛えられるかもしれない。


 何より対人で練習できる環境など限られているので、家でも練習できるのは大きい。



「じゃあダッキングの練習はこれぐらいにして、次のステップに進もうか。まずは今まで教えた方法の応用でカウンターを取る方法を教えるよ。お前も構えてみて」



 いよいよこれからが本番と言ったところか?


 説明をしながら構える勝子に合わせ、俺も構えを取った。



「一番の理想は敵に攻撃させないでこちらから攻撃をして倒すのが理想だけれど、残念ながら使う相手にはそうは行かない。今までガードするか躱す方法を教えてきたけれど、何時までも攻撃を防ぎ続けられる訳じゃない。だから相手に先手を取られた場合、ずっと防御しているんじゃなくて、すぐに反撃する方法を教えるよ」



 勝子はオーソドックススタイルの構えから、少し前足を横に開き、説明を始めた。



「先に攻撃されたら、まず前足を横に踏み込んで、パリングで相手の攻撃を沿えるようにしていなして躱す」



 そして勝子は体を横に倒しながらスウィング気味のパンチを打つ仕草を行った。



「攻撃を躱すために横に踏み込んでいるから、反撃する時、真っすぐ突いてもパンチが抜けるよね? だから体を開き気味にして右スウィング、あるいはロングフックとも言うけれどこのパンチを打つ。パリングとダッキングをしながらカウンターの一撃を放つイメージで良いと思う。少しやってみようか? 受け返しの要領で右ストレートを打ってみて」



 俺が右ストレートを軽く打つと、勝子は掌で俺の拳を沿えるようにしてパンチの軌道を逸らし、身体を横に倒すと、何時の間にか打たれていたのか?


 俺の眼前に勝子の拳が止まっていた。



「……凄いね。これ、まともに喰らったら相手はぶっ倒れるだろうね」



 喰らっても居ないのに、俺の背中に冷汗が流れるのを感じた。



「まぁ綺麗に決める為にはパリングと攻撃を躱す動作の連携を取得しないと駄目だけどね。じゃあこれの練習もやってみようか。今度は私が軽めの右ストレートを打つから、今の方法でカウンターを返してみて」



 こうして勝子の指導を受けながら、先手を取られた場合にカウンターで返す練習を繰り返した。




              ◇




「大分良くなってきたね。パリングとダッキングの組み合わせだから安全性は高いし、お勧めのカウンターだけど、今度はもう少しアグレッシブな方法を教えるよ。交叉法って言葉聞いた事あるかな?」



 剣道か中国拳法か何かで聞いた事があるような気がするけれど、詳しい内容は知らなかった。



「えっと……武術関連の言葉だっけ? 聞いた事があるような気がするけど、意味までは分からないな」



「交叉法って言うのは相手の攻撃を受けてから返すという動きじゃなく、相手と差し違えるように一撃で合わせる動きの事だよ。例えば総合格闘技のパンチが得意な選手を思い出してほしいけれど、あまり打撃のガードとかしないで、相手とほぼ同じタイミングで攻撃してカウンターを取る場合が多いでしょ?」



 そういえば総合の場合、パンチでダウンを取るシーンは大体相手の攻撃を相打ちか、同じタイミングで打たれた攻撃を躱しながらカウンターの様な形でパンチを打っている場合が多かったような気がする。



「小さなグローブだとガードが難しいので交叉法で攻撃しないと難しい。基本的に裸拳で行われる喧嘩でも共通しているよね。だから攻撃を待つより、攻防一体で先に攻めた方が良い。まぁ姫野先輩みたいに『後の先』が得意な人も居るけれど、実戦レベルでは相当な修練が必要だからね」



 姫野先輩は赤銅葛磨の攻撃を悉く捌いてからカウンターを喰らわせていたが、あの域に達するのは時間がかかるだろう。



「じゃあ、具体的な方法を説明するよ。やり方としてはさっきのカウンターと少し似ているんだけれど、相手を待つのではなくて、スリッピングしながら相手の懐に飛び込んで、右ストレートを打つ。簡単に説明するとこれだけだけど」



 勝子は頭の位置をずらしながら低めの体勢で右ストレートを打つ姿勢を取った。



「相手が同じタイミングでパンチ打ってきた時にそのまま右ストレート打つとこっちもまともにパンチ貰っちゃうけれど、スリッピングしながら打てば頭の位置が安全な場所にずれているし、体重移動でパンチの威力も増すよ。これもやってみようか?」



 先程の様に勝子と俺はお互いに構えて向き合った。



「先ずはお前が右ストレート打ってみて。本気でも良いよ。私が手本を見せるから」



「分かった。じゃあ行くよ」



 万が一という事もあり得ないので、俺は勝子に向かって右の『キレのある』ストレートを放った。


 すると勝子の頭は視界から消え、刹那の瞬間で入れ替わる様に視界は勝子の右拳で塞がれていた。


 心なしか、拳風で髪がふわりと逆立ったような気がする。



「……寸止めとは言え生きた心地がしないね」



「麗衣ちゃんにも教わったからだろうけど、思ったよりパンチが早かったから、少し本気のスピード出しちゃったからね♪」



 俺最速のパンチでもこの様だ。


 もし勝子と喧嘩したら一撃で沈むという事だろう。


 分かっていた事とはいえ、こんな小さい女子にも劣るという現実を突きつけられ、改めてショックを受けた。


 そんな俺の気持ちなど知る由も無い勝子は説明を続けた。



「このテクニックの利点は同じ姿勢で顔面への右ストレートだけじゃなくて、右ボディストレート、ロシアンフックに打ち分けられるんだよね。例えば顔面へのストレートと思わせて右ボディを打って意識を散らして、ガードが下がったら顔面へ野球のボールを投げる様な感覚で打つロシアンフックで強力なダメージを狙うという方法もあるよ」



 同じ姿勢で三種類ものパンチを打ち分けられれば相手はさぞかし幻惑させられる事だろう。



「成程。それは効きそうだね」



 麗衣との関係ではライバルと言える勝子との実力差には愕然としたが、落ち込んでいる暇など無い。


 今は少しでもこの最強の女から技術を吸収する事を考えよう。



「ストリートの場合注意するのは、ボディストレートでアバラにパンチを当てた場合、裸拳だと拳を痛める可能性もあるから、ボディストレートはあくまで意識を散らすのが目的で軽めに打った方が良いかも知れないね。じゃあ先ずは顔面への右ストレートのパターンからやってみようか」



 こうして俺はヘッドスリップから右ストレート・右ボディストレート・ロシアンフックの三パターンを練習した。


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