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ヤンキー女子高生といじめられっ子の俺が心中。そして生まれ変わる?  作者: 麗玲
第2章 ヤンキー美少女の下僕は格闘技とチーマーを始めました
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美夜受麗衣VS赤銅亮磨(1)

「トップバッターはあたしが行くぜ。良いよな?」


 麗衣は勝子と姫野に言った。


「うん。良いよ。頑張ってね」


 勝子は偶像を見つめるような瞳で麗衣に言った。


「まぁ、あまり無茶はしないでくれたまえ。今は事実上三対二で有利だから。相性が悪いと思った直ぐに僕達のどちらかと変わりたまえ」


 身長差や体重差。手足の長さ、経験。バックボーンとした格闘技や武術。オーソドックススタイルかサウスポースタイル……取り上げてゆけばキリがない。

 様々な相性があり、どんなに強くても相手と相性が悪いと格下相手に不覚を取る場合もざらにある。

 姫野が言いたいことはそういう事だろう。

 もっとも男と女の性差があるというだけで、素手で殴りあうという行為において相性は最悪と言わざるを得ないが。


「心配するな。あたし一人でさっさと二人ともボコってくるからよ」


 麗衣は青のジージャンを脱ぎ勝子に渡す。

 ジージャンを脱ぎ、腹部とへそを露出した黒のスポーツブラとホットパンツ姿の麗衣はあたかも女子格闘技じょしかくのユニフォームの如く様になっていた。


 麗衣は公園の中央に行くと、赤銅亮磨あかがねりょうまが待っていた。

 手に持つ二つのオープンフィンガーグローブを亮磨に渡し、麗衣は言った。


「ほらよ! 仕込みがないか、ちゃんと調べとけ!」


「別に仕込みがあっても構わねぇけどなぁ……まぁ、決めたことだし、調べてやるよ」


 亮磨は面倒くさそうな様子で、主にオープンフィンガーグローブのナックル部を中心に折り曲げし、柔らかさを確認した。


「オラ! 確認したぞ! 問題はねぇ!」


 亮磨は麗衣にオープンフィンガーグローブを投げて返した。


「人の物は大切に扱え、って親に言われなかったか?」


 文句を言いながら麗衣はオープンフィンガーグローブを両腕に通した。


「じゃあ始めるぜ。良いな?」


 麗衣はオープンフィンガーグローブの握りを確かめると、両拳をこめかみの高さに上げ、左拳を少し前にやり、左足を前に、爪先を相手の正面に向け、やや前傾姿勢に構えた。


「ああ。かかって来いよ」


 亮磨は両拳を顎の位置に構え、左拳を少し前にやり、左足を前に、爪先を内側に麗衣よりも前傾姿勢に構えた。

 麗衣は亮磨の構えを見て、亮磨に言った。


「テメー……使()()だろう?」


「ああ。ボクシングをな」


「そうかい。ボクシングか。じゃあ、良い実験台になって貰うぜ!」


 麗衣は距離を詰め、左拳による先制のジャブを放つ。

 亮磨がボクシングを使うというのは本当なのか?

 亮磨は麗衣のパンチをスウェーという頭を後ろに動かしてよける技術であっさりとかわした。


「やるじゃねーか」


 麗衣はそう言って、立て続けに左のジャブを連打するが、全てスウェーとダッキングという膝や腰を落としてパンチを避ける技術でひょいひょいとかわしてしまう。


「パンチおせーな。お前も何か使うみたいだけど、女子格闘技じょしかくじゃこんなものかよ?」


 亮磨は麗衣のパンチの打ち終わりを狙い、左ジャブで麗衣の顔を突いた。


「くっ!」


 麗衣は軽く、後ろによろめく。

 やはり、使()()()()()では男子の方が圧倒的に有利なのか?

 男子にとって只のジャブでも、女子にとっては右ストレートぐらいの威力に感じるのかも知れない。

 打たれた麗衣の頬は赤くなっていた。


「……この野郎!」


 麗衣は頭に血が上ったのか?

 強引にワンツーを放つが、ダッキングで躱される。


「まだだ!」


 更に、麗衣は亮磨のサイドに踏み込み、肩の裏を見せるように身体を振ってタメを作り、前足に体重を掛け、腹と腰を回しながら拳を立て、半円を描くように左フックを放つ。

 俺には裸拳で殴ることによる骨折を恐れ、フックは教えなかったけれど、オープンフィンガーグローブで指が守られている為、多少は骨折のリスクが低いと考えて、フックを使ったのだろう。

 死角から放つ左フックの威力は絶大で、ボクシングの試合においては高いKO率を誇る。

 だが、それは当たればの話だ。


「セオリー通りだな」


 亮磨は膝を曲げ、ウィービングというフック系からのパンチをくぐる技術で、麗衣のパンチを避けた。


「まだだ!」


 麗衣は返しで更に首をもぎ取らんばかりの力強い右フックを放つ。

 当たれば強力極まりないフックの連打だが、亮磨はまたしてもコンパクトなウィービングであっさりと避けてしまった。


「ボディががら空きだぜ」


 亮磨はパンチを掻い潜り、サイドへ踏み込む。

 亮磨は拳を胸の高さに置き、身体を振ってタメをつくり、前に出た肩の力を利用して身体を回し、腰のあたりまで下げた右拳を麗衣のスポーツブラの下部のむき出しのへその部分に右のボディアッパーを打ち込んだ。


「うっ!」


 傍から見ても麗衣の息が一瞬止まった事が分かる。

 そして、一旦腰まで引いた右拳をほぼ直角に麗衣の顎に突き上げた。


「がはっ!」


 同じ手によるパンチの二連打をダブルというが、右のボディアッパーから右の顎へのアッパーカットが綺麗に決まってしまった。


 麗衣の目は色を失い、糸が切れた人形の様に前のめりに崩れ落ちた。


「麗衣!」


 俺はタイマン中である事も忘れ、麗衣の元へ駆け寄ろうとした。


「待ちたまえ! まだ勝負は終わっていない!」


 姫野先輩は腕を広げ、俺の行方を遮った。


「でも……」


「麗衣君を信じて見ていたまえ。ほら、見てごらん」


 姫野先輩の指先を視線で追うと――


「はぁ……はぁ……」


 信じがたい事に麗衣は男子のボクサーのパンチをまともに受けながらも立ち上がっていた。

 まさか立ち上がるとは思っていなかったのか? 亮磨は多少驚いたように言った。


「へぇ、驚いたな。マイク・タイソンのダブルを受けて立ち上がるなんてよ?」


 確かにボディアッパーからアッパーカットのダブルはタイソンの得意技であり、それを真似たという事なのだろうか?


「はぁ……はぁ……てっ……テメーのヘボパンチでマイク・タイソンを語るんじゃねーよ」


 麗衣は憎まれ口を叩いた。

 まだ、心は折れていないという事だろうか?

 だが、ここまでの攻防で実力の差は誰の目から見ても歴然としていた。


「なら、ヘボかどうか嫌になるほど、このパンチをテメーの体にぶち込んでやろうか?」


「やれるもんならやってみろよ!」


 何とか息を整え、構えると麗衣は再び亮磨に襲い掛かる。

 ワンツー。しかもツーの方は俺に教えたツーの右ストレートの引きが早い『キレのあるパンチ』だろう。

 だが、この高速ワンツーも亮磨にパリングやブロックといったガード技術を使わせる事すら出来ず、スウェーとヘッドスリップという頭の位置を動かすテクニックのみで躱されてしまった。


 そして、懐に飛び込んだ亮磨は間髪入れず左ボディストレートを麗衣の腹に見舞い、続けざまに右フックで麗衣の顎を打った。


「なっ!」


 麗衣の腰はガクンと落ち、地面に両膝を着いた。

 意識が飛んでいるのか、虚ろな目の焦点がずれている。

 そして、スローモーションのように地に突っ伏した。

 もう、これ以上続けるのは危険だ。


「いいぞ特攻隊長! かっけーぜ!」

「あんまり顔は殴って変形させないでくださいよぉ? 後でヤルんだし?」

「あーでもよぉ、首絞めたり、痛めつけながらヤルのも良いかもな?」

「馬鹿言え! ()()にならねーだろ!」


 既に勝負は決したと判断し、欲望に駆られたギャラリーが盛り上がるが、俺にとっては地獄絵図に過ぎなかった。


「止めろ……もう、これ以上は止めてくれ!」


 俺は自分がやられているかのような呻き声で言った。

 このままでは麗衣は完全に壊されてしまう。

 俺は惚れた女が成す術も無く壊される事に耐え切れず、涙がこぼれてきた。

 そんな俺に対し姫野先輩は声をかけてきた。


「小碓君。これは君が飛び込もうとしていた世界何だよ。目を反らしちゃいけない」


「別に俺は族にもチーマーにもなるつもりじゃ……」


「違うね。麗衣君に関わるという事は、こう言う事だよ。それを恐れて麗衣君は君を遠ざけたんだよ」


「それはとにかく……もう麗衣はボロボロじゃないですか! これ以上やったら、下手したら死にますよ!」


「止めるのかい? 僕達はそれで良いかも知れないけど、うるはが敗北したら麗衣君はここに居る暴走族全員からレイプされて、その上半グレの組織で売春をやらされるのだよ? それでも良いと言うのかね? 君は」


「なっ……そんな事。警察に言えば……」


「それはそれで麗衣君は暴走族潰しをやってきた過去があるから彼女が逮捕され、少年院に送られる事になるだろうね。まぁそっちの方が最低限売春はしなくて済むからマシだろうけど……でもね。それは麗衣君のやりたい事を妨げる事になるんだよ」


「やりたい事って?」


「暴走族の壊滅さ。麗衣君の目的は鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードなんてちっぽけな暴走族を潰すだけじゃない。存在する暴走族全ての壊滅だよ」


「馬鹿な……そんな事不可能に決まっている!」


「多分、麗衣君だってそんな事は分かっているよ。でも、せめて目に映る族は全て潰したいのだろうね……ほら、麗衣君を見たまえ。勝負はこれからだよ」


「なっ……」


 信じられない事に、再び麗衣は立ち上がり、ファイティングポーズをとっていた。

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