暴走族との衝突
「おやぁ~? 今度は団体さんのお出ましですかぁ?」
麗衣は緊張感の無い声でそう言った。
嫌な予感がして再び扉に注意を向けると、顎に大きな絆創膏を張った棟田を先頭にズラズラと不良と思しき生徒達が屋上に出てきた。
茶髪のもの、金髪のもの、リーゼントにオールバック、坊主。
明らかに校内の爪弾き者達のご一行である事は一目で分かった。
棟田の仲間を含め、合計八人が険悪な雰囲気でこちらを睨みつけてきた。
その中で恐らく代表格的な坊主頭の男が前に進み出て麗衣に声をかける。
「おい、お前が美夜受とかいうズベ公か?」
「あ? ズベ公って何だよ?」
刹那、麗衣は不快そうな表情を浮かべたが、すぐに愉快そうな表情に変わり口撃を返した。
「オッサンもしかして昭和生まれか? 一体何年留年してんの?」
実際に坊主頭はとても高校生には見えない老け顔をしており、坊主頭の顔は険しくなった。
「あはははははっ!」
麗衣は目に凶悪な光を込める坊主頭の男を全く恐れる事も無く笑い出した。
坊主頭は険しさが増す顔を横に向け、隣に立つ棟田に確認した。
「おい。棟田! 本当にこんな女にやられたのか?」
麗衣とは対照的に余程坊主頭の事に恐れを抱いているのか?
棟田はおどおどとした様子で答えた。
「はっ……ハイ! 間違いないです」
棟田は坊主頭に対して、俺と接している時とは正反対の態度だった。
「情けねー野郎だな。授業フケて昼間っから男とヤッてるような女にシメられるなんてよぉ?」
「め……面目ありません」
「てゆーか、テメーラよぉ、グダグダうるせぇよ」
麗衣は痺れを切らしたのか、棟田と坊主頭のやり取り割り込んだ。
「キタネーツラが雁首揃えて何の用だ?」
麗衣の台詞に棟田と坊主頭以外の不良達が口々に汚い言葉で罵りだした。
「何だとコラァ! ぶち殺すぞ!」
「調子こいてんじゃねーぞ! このブス!」
「殺されてーんかあ? ゴラァっ!」
「犯すぞこのアマぁ!」
だが麗衣は一切動揺する様子を見せなかった。
「大の野郎どもがクセー息巻き散らしながらグダグダ喚くんじゃねぇよ。どうせ、そこのクソ雑魚のお礼参りにでも来たってとこだろ?」
麗衣は棟田を指さした。
「お仲間に聞かなかったか? ソイツの恫喝の音声は録音してあるって?」
だが、坊主頭は酷薄な表情を浮かべながら答えた。
「それがどうしたんだ? 俺には関係ない」
「何だと?」
今まで優位に話を進めていた麗衣の表情が始めて濁る。
「コイツが退学になろうと、逮捕されようと俺には関係無い」
坊主頭は麗衣の表情の変化を見て始めて満足したのか?
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら、棟田の肩に腕を掛けた。
「寧ろ不良なら、その位箔を付けなきゃな? なぁ……、そうだろ? 棟田?」
「はっ……はい」
棟田は唇まで青褪めた表情で答えていた。
そのおびえきった表情から、棟田の返答が本心では無い事は明らかだった。
「テメー……仲間を見捨てる気か?」
少しでも棟田を同情しているのか?
それよりも坊主頭の酷薄さに怒りを覚えたのか?
いずれにせよ、怒りを露わに歯軋りをしながら訊ねる麗衣に対し、坊主頭は答えた。
「仲間? コイツが? はははっ! コイツは俺の後輩のパシリなんだよ! 俺の権力と威光に縋って、粋がっていたいだけだぜ!」
「……とゆーことは、テメーはさぞかし、お偉い方なんだろうな?」
「俺は鮮血塗之赤道の特攻隊長。赤銅三兄弟の三男。赤銅亮磨だ」
これは暴走族の名前だろうか?
そういえば最近駅付近、二十四時間経営のファストフード店の駐輪場に屯している連中が居て、騒音で喧しいが連中がこの暴走族なのだろうか?
「あ? 珍走かよ? どこかで聞いたダッセー名前だな?」
気のせいだろうか?
麗衣は赤銅が暴走族のメンバーだと聞き、赤銅を睨みつける眼光の殺気が更に増した様に見えた。
「とぼけんじゃねぇぞ! 最近暴走族潰しで話題になっている女がリーダーのチームがあるって話だが、お前『麗』だろ?」
不吉な予感がする。
もしかして『麗』って『麗衣』の『麗』なのか?
「ああ。そうだぜ。あたしが『麗』のリーダー美夜受麗衣だ」
嫌な予感は当たってしまった。
麗衣が暴走族を潰すようなチームに所属していて、しかもリーダーって事か?
にわかには信じがたいが、先程棟田を一撃で沈めた腕力や、俺に指導するぐらいの格闘技術がある事を考えれば、事実の可能性が高い。
「ダセーのはそっちじゃねーか? 自分の名前の漢字をチーム名にするなんてよぉ?」
赤銅の指摘に対して、麗衣は不機嫌そうに答えた。
「あたしが付けたんじゃねーよ。てか、んな事はどうでも良いんだよ。クソ雑魚のお礼参りじゃなきゃ何の用だ?」
「ああ。棟田の事はおまけみたいなモンだ。でも、おかげで正体不明だった『麗』を炙り出せて良かったぜ」
赤銅は麗衣に迫り、威圧するかのように眼を細めた。
「俺達に狙われる理由は分かるよなぁ? お前らが鮮血塗之赤道のメンバー四人をやったって事は分かってんだぞ?」
まさか。麗衣が理由も無くそんな事をするはずがない。
だが、俺の考えは麗衣の発した台詞であっさりと否定された。
「さぁな? ハエみたいに、うるせーだけの半端モンの害虫なんか、何処で何匹潰したかイチイチ面倒で覚えてねーよ」
信じたくないが、麗衣の返事はやったのが自分だと肯定したようなものだった。
麗衣は赤銅の威圧にも臆する事無く睨み返していた。
「それにしても情けねーよなぁ? 女にやられて、数を集めて仕返しか? それが別の珍走に伝わったらどうするんだ?」
「それに関しては俺も思うところはある事は認めてやるぜ」
意外と話が通じる奴なのか? ならば麗衣も喧嘩しなくて済むのではないか?
だが、そんな甘い考えは赤銅の次の台詞に掻き消された。
「だが、女だからって許すつもりはねぇ。キッチリとケジメは付けて貰わねーとな。だから、場所を改めて、同じ人数の代表を決めてタイマンで決着を付けようや」
幾ら麗衣が強いからって暴走族とタイマンなんて危険すぎる。
こんなバカな話に付き合う必要はない。
そう言って俺は止めようと思ったが、麗衣が予め腕で俺を遮って答えた。
「OK。それで良いぜ。で、時間と場所は何処にするんだ?」
正気じゃない。何故か麗衣はやる気であった。
「今日の午後8時。立国川公園で良いな?」
「ああ。分かったぜ」
「言っておくが、身元が割れているから逃げ場はないぜ?」
下卑た視線を麗衣の体の上から下まで舐めるように這わせ、赤銅は言った。
「フケたらタイマンで負けた方がまだマシだったと後悔するような目に合わせてやるからよぉ……」
舌なめずりをした赤銅が何を言わんとしたのか察した麗衣の瞳が剣呑に光る。
赤銅はそんな麗衣の視線を受け流すように背を向けた。
「オラっ! お前ら行くぞ!」
赤銅に促され、不良達は「逃げんなよぉ?」「逃げたら殺すぞ!」「フケたら犯す!」等口々に言い残しながら屋上から去って行った。
今後、徐々にヤンキー漫画っぽい話になります。
ヤンキー漫画との違いは暴走族側視線じゃなくて、暴走族と敵対する側の視線であるところです。
ヤンキー漫画で苛め等被害を受けた側の復讐や反撃がメインの話ってあまり無いと思うので書いてみようと思いました。
聖地が一番似た感じですかね? この作品も自分の経験も踏まえつつ、ある程度格闘技をフォーカスした内容にするつもりです。ラブコメとの融合も……頑張ります(小声)