思い出せ〜私!
自宅に着くとすぐに自室に入り、紙とペンを手に取りイスに腰掛けた。
とにかく情報を整理しよう。ええっと、これはお姉ちゃんが貸してくれた、『七色の奇跡〜オーロラ姫のご加護〜』のゲームの世界のようだ。
この世界には魔法がある。水金地火木土天の7種類の魔法の適性があり、その適性が多いほど良い仕事につける世界だ。
そして、私は主人公特典で全適性持ち。この国の王族ですら6種類しか適性がないので、さすが主人公ってところだね。
7つのうち天は特別で持っている人がほとんどいない。というか持っていると判明しているのは私だけという、本当に珍しい特性だ。
それから攻略キャラクターについて。
メイン攻略キャラクターはさっき会ったニコラス王子。金髪緑眼の正統派イケメン。
第二王子だけど、兄の第一王子より適性が一つ多かったために次期国王になるべく育てられている人。なんでも卒なくこなし、皆からの信頼も厚い。だけれど、実は適性以外は兄の方が優秀な事を気にしている。そして次期国王だからこそ寄ってくる人たちのおべっかに辟易して誰も信じようとしない人だ。
そんな彼を救うのは明るく彼を特別扱いしない天然主人公。だから選ぶ選択肢は、え?これ正解?と少し不安になるものが多かった。
2人目は宰相をしている父を持つノーマン。
銀髪に薄い碧眼のメガネキャラ。
常に冷静で物静か。
だけど2人っきりになると「君は黙って言うことを聞いておけば良い。」が口癖なクールな俺様。
次の宰相になるべく父親から政治、貴族社会の裏のあれこれを学んでいるため純真無垢な子に惹かれる。と、お姉ちゃんはいってたけど、言うことを聞くタイプが好きなんだと思う。
ま、Sな俺様はMっけのある子じゃないと上手くいかないよね。
3人目は騎士団長を父に持つフェニックス。
オレンジの髪に茶色の目の正義感溢れる筋肉キャラ。
曲がった事が嫌いな少し強引な性格。
弱々しい守ってあげたくなる子が好き。
単純だから1番簡単だとお姉ちゃんが言っていた。
4人目は、ニコラスの幼なじみで公爵家跡取りマーキス。
薄い茶色で柔らかくウェーブした髪の毛に目も薄い茶色。女の子の扱いが上手で見た目通り物腰も柔らかい
。勝手に周りに女の子が寄ってくるナンパキャラ。
簡単になびかない強気な返答をすると好感度があがる。
そして私、ゲームの中では聖なる泉を見つけた功績で貴族になった平民と紹介されていた。
だがしかし実際は、父は王都の城壁のすぐ横、すごく痩せた土地ばかりの貧しい村の村長だった。痩せ地でなかなか野菜は大きくならず、村長といえど豊かではなく山での採集でなんとか食べていくような村だった。
ところが、開墾するため地面に埋まっていた大きな石をどけようと鍬で石を叩いたらヒビが入り、そこから温泉が湧き出てきて状況が一変。その温泉が治癒能力のある特別なお湯であっという間に実家は聖地という名の温泉地になった。そして後継である兄さんがその温泉を利用してホテル業に観光業にとひと財産を築きあげた。
そのおかげで平民育ちの私が貴族の学校に通うことになったのだ。
だがしかし、両親は根っからの農民で全く貴族らしくない。私も貴族としての教育を受けず、裏山で遊んで過ごした幼少期のおかげで淑女とは程遠い娘に育っている。そのため学校では元平民とクスクスされている。
そんな私に声をかけてくれるのは、攻略対象の4人とジュリアンヌ様だけだ。
ふー、さて今はどこまで進んでるっけ。
えっと今は…2年!!
あれ?攻略キャラとのイベントやったっけ??
思い出せ思い出せ…
あっ!やってる…やってるよ私……
入学式に思いっきり転んでニコラスと出会うシーン。
サッと手を出す王道イケメンに微笑まれ、差し出された手。
「お怪我はありませんか?」
1 あ、はい。ありがとうございます…
2 わぁ!大丈夫です!!1人で立てます!
3 あはは!学校の豪華さにビックリしてたら転んじゃいました。
質問に答えずに意味わかんない言い訳の3。ちゃんと好感度高い返答を答えちゃったよ私。そしてそのままエスコートしてもらって入学式に向かって皆から注目されたんだった。
フェニックスとの出会いもあったねぇ。
ジュリアンヌ様に頭を下げて朝の挨拶をしたら、
「貴族は挨拶の時に頭を下げてはなりません。しっかりと相手の目を見なければ侮られますわよ!そんな平民のような態度を学園内でされたら…」
と注意を受けた時に恐縮していたら助けに入ってくれたんだった。
「なにをしている!複数で囲んで1人を責めるなど、恥を知れ!」
その一声で彼女たちはサッと踵を返し去っていった。
1 (泣きながら)怖かった…
2 助けていただきありがとうございました。
3 大丈夫ですわ。これくらいなんともありません。
はい!
私、泣きました。そしてヘナヘナっと座り込みそうになって、体を支えて貰いました。
さっきのニコラスとの出会いの時の天然っぽいキャラどこいった!?私〜!!
男ごとに態度変えるなんて素でやってたら、そりゃ入学以来ずっと女友だちいないはずだよー!
というか、ジュリアンヌ様!彼女、挨拶の仕方教えてくれただけなのになんで悪役っぽく扱われてるの?私が悪いのに申し訳なさすぎる。
ノーマンとの出会いは……
トントン!!
「ソフィー、新しくホテルで出すデザートの試作ができたんだ。一緒に食べないかい?」
「やったー食べる食べる!」
「裏庭に用意をしておくね。」
「はーい、父さん。着替えたらすぐに行くね。」
サッと制服を脱いで楽なワンピースに着替えて急いで向かう。
早くおやつ食べたいな。今日はどんなのだろう。季節のフルーツが乗ってたら最高!
そんな事を考えながら裏庭に行くと、父さんと母さんが並んで裏庭に作った家族専用足湯に足を浸しながらデザートを食べていた。
「うむうむ、これはなかなか…」
「あなた、こちらのも美味しいですよ。おまけに見た目もかわいらしい。」
「そーだね。君がそう言うならきっとそちらの方が良いんだろうねぇ。」
「おまたせ!わぁ、苺のデザート?綺麗なピンク色ね!」
3人であーでもないこーでもないと話しながら食べていると兄さんがやってきた。
「こちらでしたか。僕も入れてください。」
そう言って兄さんも足湯に浸かった。
兄さんは普段通り明るく振る舞っているが、少し顔色が良くない。
土地持ち男爵として周辺の村も統合して任されることとなり、貴族としての振る舞いの勉強もあり毎日遅くまで起きている。身体を第一に、とも思うが兄さんが村民のことをすごく大切にしていて、村民も豊になった事をすごく喜んでいて兄さんへの期待が高い。観光業が落ち着くまではと奮起している兄さんを見守るしかできないのが現状だ。
4人でゆっくりと温泉に浸かっていると紫の闇がどんどんとオレンジ色の空を押しやって太陽が最後の力を振り絞って眩しく光った。
夕食ができたと呼びに来たメイドに着いて4人で室内に戻った。
あーお腹いっぱい。デザートの試食のすぐ後に夕食だったから流石に苦しい。
でも、家族揃って食べる夕食は楽しくて嬉しくて、つい食べすぎてしまう。
このまま今と変わらず生活していく事はできないのだろうか。
布団を鼻までかぶりもう一度ゲームのことを思い出していた。
前世の実は、とにかく身体を動かすのが好きだった。このゲームも入院中借りてはいたが、1回王子ルートのハッピーエンドを見たのみなのだ。
逆に姉はインドア派でゲームをやり込むタイプだった。なので、ゲームをしている横で喋る攻略本よろしく、選択肢などを教えてくれて、1番難しいと言われた王子を難なく攻略できた。
だけれども、言われるまま選んでいたのでぼんやりとしか覚えていない。
一応、各々のキャラにハッピーエンドとバッドエンド、それからハーレムルートもあったはずだ。
あー…こんなことになるならひたすら聞き流さずにちゃんとお姉ちゃんの話聞いておけば良かった…!
たしか物語は3年間の学園生活。1年目で攻略キャラクターたちとの出会いイベントがあった。そのイベントで選択肢を間違えると以降そのキャラは出てこない。出会いイベントで正しい選択をした後は様々なイベントで好感度を上げ、2年目以降で主人公のステータスを調整して狙った相手好みに育てる。好感度、ステータス調整ともにうまく行くと2年の終わりに悪役令嬢を学園から追放して3年目は甘い時間を楽しめる!!失敗すると、2年の終わりに友情エンドでさっさと終わってしまうそんなゲームだった。
それから3年ラストに悪役令嬢が第一王子と手を組んでこの国を乗っ取ろうとするんだった。
その2人を倒したら悪役2人を国外追放にしてハッピーエンド、失敗したら温泉を奪われて、攻略キャラと地方に追放され農民にされるんだった。
温泉を奪われる……えっ!?家族はどうなるの!?