〇んこ
この物語はノンフィクションです。
2015年、秋。
「昨日、真美子とヤッたわ。」
「ウソ、マジで!?」
「夢の中でな。」
「は?なんだそれ。」
「死ねよ。」
電車内で、男子中学生が談笑している。朝の電車は、通勤、通学の人間で埋まり、振り返ると知らない人間の顔が眼前に現れる。
「でさー、その夢の中で、真美子の〇んこがめっちゃエロかったわけ。」
「それってお前の妄想だろ。実際に見たわけじゃないし。」
「誰も見たことないんだから、妄想かどうかわからんだろ。」
「いや分かるだろ。〇んこに正解ってなんだよ!」
大声で談笑する男子中学生の隣で、サラリーマンが顔をしかめる。その気持ちは痛いほどよくわかる。なんて不埒で恥知らずなガキ共だ。公衆の面前で、それも周りに聞こえるような大声で「〇んこ」を連呼してやがる。親の顔が見てみたい。どうせどうしようもなく低学歴で、クソみたいな人生を歩んできたんだろう。
「(ん…?あの制服、うちの付属校の制服じゃねーか!?)」
はい恥ー!わが校の恥!日本の恥!世界の恥!そもそも大声で「〇んこ」を連呼するところが終わってるし、「〇んこ」っていう言い方がもう終わってるー!下品極まりないんだよ。「女性器」っていうんだよ。おしゃれな奴は「vagina」って言うんだよ!これだから男子中学生は困るわー。下品だわ。考えが下品だわ。「〇んこ」とか「〇んこ」とか、そういう思考に至るのがもうガキだわー!
「(おや?)」
下半身に違和感を感じる。何だろう。虫が這いまわるような感覚。自然と内股になる。んん?おかしいな。こんなことはありえないはずなんだけど…
「(〇んこが、痒い…!?)」
痒い。とんでもなく痒い。今すぐかきむしりたい。え、何で?なんでこんなに痒いの?性病にかかってんの?まだ童貞なのに?
「(そういえば、性病の病原菌ってどこから出てくるんだろう?セッ〇スしたらうつるっていうけど、突き詰めていくと最初に性病の病原菌を持ってるやつがいるわけで…)」
いや、そんなことは今考えることじゃない。問題はこのかゆみをどうするか、だ。答えは明白。掻くか、我慢するか。
「(いや、我慢するしかないだろ!公衆の面前で自分の恥部をかきむしるわけには行かない。そんなことをした日には日本中、いや世界中の笑いものだ。痴漢冤罪、社会的死、死刑判決になってもおかしくない。)」
「てかさ、真美子ってパイ〇ンなのかな?夢の中ではツルツルだったわけだけど。」
「知るかよ!てかお前真美子の〇んこに夢見すぎ!ぜってーボーボーだよ!」
ぎゃはは!
「(うるせーんだよ死ねクソガキ共!〇んこの話ばっかしてんじゃねえよこっちは〇んこのことで頭いっぱいなんだよ!お前らと違って人生の瀬戸際にいるんだよ!)」
いや、しかし。
「(ポケットに手を突っ込むふりをして、ズボン越しに〇んこを掻いてしまえばバレずに済むんじゃないのか…?)」
いける。電車内で制服を着ているごく普通の高校生。大丈夫だ。誰も見ていない。そもそも国民全員が見ているTVのCMで、大きな声で言ってるじゃないか。「なっつーはこっかんがかーゆくなるー!」って。今は秋だけど、男ってのは股間が痒くなるもんなんだよ。そう、ごく自然な現象なんだ。
「あっ…」
治ったわ。そういやこういう突発的な痒みって、〇んこに関係なくたまに出てくるもんなんだよな。こんなことに一喜一憂して騒ぐなんて…いや、高校生だって〇んこの痒みには騒ぐよな。普通だよな。
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