殲滅の為の一手
「 『狂弾』‼ 」
開戦の一手は僕の【狂魔法】だ。
僕には接近戦をする手段がない。
故に、10m以内の範囲に入られたら負けだ。
『狂弾』は一番前にいたゴブリンに当たり、死んだ。
そのあとも『不狂視弾』を連破して放ちオークやトロール、コボルトを10体以上殺した。
だが足りなかった。
圧倒的な数に押され拮抗すら許されない。
魔物たちは僕が殺した魔物を踏みつけ、越えながら距離を詰める。
それを僕は後ろに下がりながら『狂弾』を連続で放つ。
でもそれは追いつめられるまでの小細工でしかない。
考えろ‼どうしたらこいつらに勝てる。足りない物は何だ?
わかってる。すべてが足りない。
だけど、そんな状況でも拮抗まで持ち込めば僕が有利になる。
何十体と殺した魔物の力は僕の力へと変わる。
でも足りないものが減るだけでまだ足りない。
この場を切り抜けるには、殲滅力が、必要だ。
僕の力は【狂魔法】しかない。
知識にはそんな都合がいいものはなかった。
(だからどうした‼)
無いのなら作り出せばいい。
(そのための頭脳だろう‼)
考えろ、僕が作り出せる、最高の一手を‼。
今を、未来を勝ち取る、至高の手段を‼
思考は加速している。心は燃えている。
そんな間にも魔物の襲撃は止まらない。
そしてついに、僕の安全を保障する範囲を超えてきた。
「⁉」
拙い、これで危険を冒さなくてはならなくなった。
安全なんてもうどこにもない。
そんな中で、僕はたどり着いた。
今を掴む、【狂魔法】に。
思えば簡単だったんだ。僕の力は【狂魔法】、それ以外にはない。
それに気づいたからこそたどり着けたんだ。
「 『狂拡弾』 」
滅紫色の太陽が顕現した。
光っているわけではない。
その太陽の周辺を黒紫色をしたモヤモヤしたものが漂ったいてその様はまるでフレアだ。
でかさは大体半径100m位だ。
「さあ、狂気と絶望を堪能しろ」
僕は右手を魔物たちに向け、開いていた手を握った。
そして、『狂拡弾』はその意志に応じ、何百という『狂弾』を放った。
そのすべては外すことなく当たり、魔物たちへと平等な死を与えていく。
それでも少しも怯む様子はなく、逆に進行速度と士気が上がったみたいだ。
その様子を見て僕は油断をせずに前を見据えた。
だからか気付かなかった。
後ろから迫りくる魔物の存在に。
「・・・・ガッ⁉・・な、んだ??」
腹部から強い痛みを感じた。
慌てて見てみると腹には穴が開いていた。
後ろにはそれをしたと思しきナルマーがいた。
なぜ??警戒はしていたはずだ。『狂拡弾』の制御の為、他の【狂魔法】や【能力】は使えていなかったが五感での索敵はしていた。
いや、違う。
ナルマーだけは探知系【能力】ではなく本来の【能力】である『隠れし闇』を授かっていたんだ。
つまり、隠密系【能力】を持っている魔物もまた大量にいるんだ。
「う⁉」
今度はウザイラに背中を引っ掻かれた。
どうやら見余っていたみたいだ。
未踏破区域の魔物は〈漆黒犬〉だけじゃなくても強い。【狂魔法】が強力過ぎて勘違いしていた。
・・・・・・・・最近、勘違いが多い気がする。
おっと、拙い。
少し狼狽えたせいで『狂拡弾』の制御が上手くいかずに消えてしまった。
やれやれ、これも僕が未熟な証拠だ。
ただ、このままでは本当に死ぬので攻撃を仕掛けてきた魔物に『不狂視弾』を放った。
やはり隠密系【能力】授かった魔物は見えない攻撃には耐性はないようだ。
あの隠密の高さと速さに探知まで加わったら僕の勝てる確率がなくなる。
今はもう勝てる確証なんてないんだけど。
その時、傷の痛みが徐々にだが取れていくのを感じとれた。
多分だが再生系の【能力】を手に入れたのだろう。
(っほ、これならまだ戦える。)
ここまで苦戦しているのは単純に戦闘不足と【狂魔法】の練習不足だ。
ここにあるのは戦闘だ。なら戦闘不足もそれ以外もすべてここで告服すればいい。
制御力が駄目ならここで上げる‼
僕は『狂拡弾』を使いながら『隠れし闇』と『認識阻害』を発動
した。
だが何故か以前よりも隠密性が高くなっている気がした。
っと、そんなこと今はどうでもいい。
それと、魔物を『狂拡弾』で殺しているのでそれに合わせて僕の力が上がっていく。
・・・・気付いたのだが魔物を殺しても制御力までは奪えないらしい。
ウザイラの『認識阻害』を初めて見て、ようやく本来の使い方が分かった。
多分だが、ウザイラは『認識阻害』を使い自分を空気と思わしたのだろう。
空気はどこにでもある。だから僕は違和感を覚えられなかったんだろう。
でも、僕も同じ使い道をするわけではない。
僕は『認識阻害』で最前列にいるゴブリンを僕とすべての魔物たちに認識させた。
必然的に魔物たちがすることは決まっている。
僕と認識されたゴブリンの抹殺だ。
全魔物がそちらに気を取られているうちに僕は安全圏に避難した。
これで前に戻り、拮抗に持ち直した。
その間にあのゴブリンは殺された。
僕はゴブリンから『認識阻害』を解き次は体長2m程度のオークにかけた。
狙い通りオークに魔物は攻撃していたがオークもやられっぱなしではない。
「うがあああああああああああああああああああああああああ‼」
雄叫びを上げながら拳を振り下ろし体長120~150cmのゴブリンやコボルトを叩き潰した。
だが自分以上の体躯をもつ4mのトロールを叩き潰せない。
トロールを倒すのを諦めたオークが拳を振り下ろしながら他の種族の魔物を叩き潰している時、トロールがオークを殴り飛ばした。
突然のことで上手く対処できなかったオークは無様に地面を転がった。
倒れている途中にゴブリンとコボルトが数十体いたのだが運悪くオークの下敷きになった。
その隙を魔物たちは見逃さない。
ここぞとばかりにオークを喰らっていく。
それにつられている間に僕の『狂拡弾』の攻撃は続いている。
【狂魔法】と【能力】の同時使用にもだんだんとだが慣れてきた。
腹の傷はもう治ったので僕は新しい【狂魔法】を試してみることにした。
そこまで難しいことをするわけではない。
・・・・・できるのかわからないだけで。
僕は最も手前にいたゴブリンに近づき体を狙う様に右腕を引き絞った。その右手には滅紫色の魔力――【狂魔法】の魔力――が絡みついている。
その右手をそのままゴブリンへ向けて殴りつけた。
ゴブリンはいきなりの衝撃を受けて2~3m吹っ飛んだ。
だがそれで終わることを僕がするはずはない。
ゴブリンは困惑しながら痛みに耐えているかのような雰囲気を出している。
ただ、それも数秒だ。そして、すぐさま死んだ。
僕がしたことは見た通り、単純明快だ。
【狂魔法】はいわば当たれば死は免れない即死魔法だ。
僕は遠距離攻撃は出来ない。
ピンポイントで当てるには姿を隠してそこそこの距離まで近づいての攻撃しかなかった。
だが〈漆黒犬〉を見てからそれさえも躱されると感じた。
ならば躱せない距離で必ず当たる攻撃を出せばいい。
そこで考え出したのが【狂魔法】の魔力を使った超近距離からの攻撃。
僕も攻撃を受けるのは請負だがそれは【能力】で何とかなるので実質デメリットは何もない。
そんなこんなで実験は終了した。
(これは使えるな。でも僕には接近戦がない。それじゃ少し心許ないな。)
やはり、この攻撃は武術と合わせて初めて本領を発揮する。
(もう少し接近戦を積極的にしよう。)
ん?おや、オークはもう喰われたみたいだ。
(ここで一気に畳掛ける。)
僕は『狂拡弾』の攻撃速度を上げた。
「っく!」
さすがに慣れたと言ってもこれ以上無理矢理上げると【狂魔法】か【能力】のどちらか、もしくは両方が制御できずに消えてしまうだろう。
継続して『認識阻害』で魔物を僕と認識させ、僕は『隠れし闇』で隠れる。
攻撃をくらわない様に辺りの警戒も怠らない。さっきの二の舞はごめんだ。
そして、見える範囲での魔物の殲滅は終わった。
すぐさま僕は『狂拡弾』を解除し、『狂わされし虚偽』を展開し、逃げた魔物、僕をまだ狙っている隠密系【能力】を持つ魔物を捕捉する。
逃げた魔物は15体、僕を狙っている魔物は24体。
(結構多いな。)
〈漆黒犬〉の作った魔物だからもっと執拗に狙ってくると思っていたんだが、もしかすると距離が離れると独立的に行動するのかもしれない。
とりあえず僕を探している魔物を先に殺すか。
僕は『隠れし闇』にかぶせて『空間狂偽』と『認識阻害』を発動した。
これにより僕を見つけることは困難となった。
それに合わせて空気を僕と認識させたものを見えやすい場所に配置させた。
敵の位置は『狂わせれし虚偽』で判明している。
そのまま狙い撃つのもありだとは思うが数が多すぎる。
遠距離からの狙撃の練習をしたい。
その為に
(5体まで減らす。)
魔物たちは狙い通り食い付いてきた。
それを僕は『不狂視弾』で間引きしていく。
1体、3体、5体、8体、10体
ここまで倒した魔物を見てまだ生きている魔物たちは狙われていることに気付いたようだ。
だが、もう遅かった。
狙われやすい場所まで飛び込んできた魔物は僕の『不狂視弾』で殺している。
残っているのは飛び込んで来なかった魔物だけだ。
(残り、14体)
明らかに予想した数より多いが・・・まぁ、いいか。
早速練習していこうと思う。
勿論使うのは『不狂視弾』だ。
見てしまう『狂弾』での狙撃なんて真っ平ごめんだ。
(一撃目!)
外れた
二撃目
外れた
三撃目
当たった
(ふぅ、ようやくか。)
三回中一回とは、これは酷い。
少なくとも百発百中で行かないと、ここぞと言える時に外すなんてできない。
全員殺すまで僕の狙撃練習は続いた。
結果はそこそこで、最後の方は4連続外さなかった。
・・・・・逆に言うとそれまでは外しまくったんだが。
まだ逃げた魔物は残っているがまた今度でいいだろう。
「おっわった~~~~~~~~~!」
そう言って、僕は意識を失った。