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いつかの幸福  作者: Retisia
3/11

【能力】


未踏破区域とそこ以外の境界線が存在している。



未踏破区域に入る者は誰しもがその境界線を越える。



そして感じるのだ。



今まで居た所と未踏破区域は()()()()()()




その何かはまだ誰も知らない。




境界線を越える前から感じる恐ろしく強い気配、おそらく魔物だろう。




だがそれでも私は知りたいのだ。




何故この先からだけ異様な場所とかしているのか。




















と、昔の私は思っていた。



そのことを考えていた昔の私を殴り飛ばしたい。



あそこは人が立ち入っていい場所ではない。




私についてきた調査隊の皆は死んでしまった。




なぜ死んだのかは、わからない。



一瞬だった。



未踏破区域の境界線を越え、しばらく歩いていたら、強い突風が吹き、そして意識を落とした。



目を覚ました時には私が通った境界線の前に倒れていた。体を起こし辺りを見るとみんな死んでいた。



最強と言われた魔物と互角に戦える私でさえ何もできなかった。



それは人類では未踏破区域に立ち入ることは出来ないということだ。



私は前途ある若者の無駄死にをさせないためこの本を残す。


                

  ✖✖✖✖年〇月△日、イグリア・カートナル著 『禁断の区画』一部抜粋




♦♦♦


それが盗賊が唯一持っていた、未踏破区域の知識だった。


ふざけているとしか思えない本の内容だが本当のことらしい。


そしてその未踏破区域に僕はいる。そこでこの本の感想を言いたい。



「これ・・・・・マジの奴だ。」



今、僕は結構なピンチに陥っている。


「ガアアアアあああアアアアアアアアあぁぁぁぁ‼」


「シャアぁぁぁぁっぁぁァぁぁァァァぁぁぁ‼」


目の前には見上げなければ顔が見えない魔物たちが殺し合いをしている。


1体はいわゆるゴリラ型の魔物だ。全身深緑の毛で覆われていているのに膨れ上がった筋肉が異常なほどに自己主張している。あんな拳で殴られたら僕は即死だ。


もう1体は蛇の魔物だ。皮膚は藍色で鱗が輝いて見えとても堅そうだ。そして長い、少なくとも200mはあるはずだ。目算では測れない。


これを目の前にしてあの本を否定するのは難しい。こんな化け物がいるんだ。一瞬で敵を屠る魔物がいてもおかしくない。


()()()()()()で見ている僕は苦笑した。


僕は何故この様な状況に陥っているのかを振り返った。



♦♦♦


僕は夢で刻まれた【狂魔法】についての知識を使い、盗賊を覗く時に使った空間を狂わせ姿を隠す【狂魔法】、それを改造し、『空間狂偽(エリア)』に昇華させた。


『空間狂偽』は五感のよる察知、魔法による探知を受け付けない、そんな能力になった。だが『空間狂偽』を見破る魔物もいずれ出てくるだろう。もしかするとそれもすぐ起きるかもしれない。だが、たらればを言っていても何も始まらない。

やれることはやっておこうの姿勢で行こうと思う。


そんなことを決意し、『空間狂偽』を使い未踏破区域の森を歩いていたら・・・


「ぢゅ・・・ぢゅじゃ‼」


とても気持ち悪い魔物に出会った。

全身緑色で全長は30㎝程で丸っとしている、そして、なりより顔がキモイ。

もうどんな顔なのかは語りに尽くせない。きっと顔さえ良ければ愛玩動物として人気を誇ったのではないかと思うほど可愛い図体をしているのだが、顔が全てを台無しにしている。

しかも鳴き声が”ぢゅ„ってもっと別のがあってもいいと思う。

なんで態々その声選んだんだろう。


僕はこの魔物を”ナルマー„と名付けることにした。


(こんな冒涜的な生き物でも魔物だし、殺そう。)


そう思い【狂魔法】の魔力を出そうとした時、イグリア・カートナルの本『禁断の区画』の言葉を思い出した。


(もしかして、あの話に載っていた魔物はこいつなんじゃ?)


最強の魔物と同格の存在を一瞬で倒した魔物、その考えに行き着いたと同時に僕は思った。



こいつ倒せばもっと強くなれんじゃね?、と。


だがただ【狂魔法】の魔力を出すだけでは駄目だ。そもそも能力の差が開き過ぎている。そのまま攻撃しても躱されるだけだろう。


必要となるのは攻撃速度と不可視性能もしくは不可避性能だ。


生憎と不可避性能のあてはないが()()()()ならある。


【狂魔法】の魔力を放出し直径5cmまで圧縮する僕はこれを『狂弾(きょうだん)』と名付けた。


これで速度は稼げたはずだ。


だがまだ足りない。肝心の不可視性能を付けなければならない。


そこで僕は『狂弾』の表面を『空間狂偽(エリア)』で覆い『狂弾』の姿、そして魔力を隠した。



その攻撃の名は



「・・・『不狂視弾(ノーティア)』」


見えない『狂弾』がナルマーに放たれた。


予想通り『不狂視弾』はなかなかの速度を出しながらナルマーに向かっていった。


すぐそこまで来ているというのにナルマーは気付かない。


そして、遂に『不狂視弾』はナルマーに当たり、身体に侵入した。


「じゃじゅぢゅ・・うあぁぁぇあ・・・あいうづ⁉」


あとは盗賊と同じ道をナルマーは辿った。


「・・・ふぅ、何とかなったか。」

こんな余裕そうな雰囲気で常に緊張感を張り巡らしている僕は今回のことに安堵した。


実際、かなり危ない橋を渡っていたのだ。


あんな見た目なのに相当な力を持っていた。・・・あんな見た目なのに。


あのまま【狂魔法】の魔力を放出するだけでは多分、いや、確実に躱されていた。その後に起こるのは蹂躙だけだったろう。


ここで夢で得た【狂魔法】の知識が役に立った。あれがなければナルマー遭遇事件――ちょとかっこよく言ってみたかった――で死んでいたと思う。


「・・・おっ!おお」

どうやら倒したナルマーの力を奪って僕の力になったみたいだ。


ここまで力を奪ったと感じたことは一度もなかった。盗賊を殺した時ですら感じなかったのに。


それだけナルマーの力が飛び抜けていたという証拠だろう。


「よく勝てたな。」

これが僕の偽らざる気持ちだ。


「ん?」


視界の左端に白い三角形の物が点滅している。


どうやらこれは僕の瞳にあるみたいだ。いくら頭を動かしても左端から動かないのだから。


「なるほど、これが・・・」

僕は白い三角形をずっと意識していたら目の前に半透明の物が出てきた。


「・・・‼いくら知識として知っているとはいえ、驚くものだな」


僕はこの原因を知っていた。そうでなければ相当動揺していただろうな。


その〈ヨータム〉――半透明の物――にはこう書かれていた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


仮名称・ナルマー


種族・魔物


【能力】


隠れし闇(ハイド)』・・・隠密性を最大限向上させる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





〈ヨータム〉の役割は相手から奪った【能力】を伝えることだ。


盗賊を倒してもでてこなかったのは【能力】を持っていなかったからだろう。


そんなことよりナルマーの【能力】は地味だが相当ヤバイ。


今回倒したナルマーは他のナルマーと比べて隠密が下手だったのか?


それなら出てきたのがあいつで本当に良かった。



そんなことはいいとして早速使ってみよう。



・・・・・・・・えっと、どう使うんだっけ?



拙い、使い方がわからない。



と、とりあえず強く意識してみよう。多分これでできる・・・・と思う。


するとまるで世界から隔離されたかのような感覚を感じた。



「これが・・・『隠れし闇(ハイド)』、ははっ、これはなかなか。」



優良過ぎる【能力】だ。


ふざけている、こんなの笑い話にしかならない。


閃いてしまった予測を笑い飛ばそうとしたができなかった。



「此処の魔物は、全員・・・・・・・・・・・・・・【能力】持ち?」



この予測が正しいのなら、ナルマーの【能力】は強い部類には入らない可能性が出てくる。



なっ・・・笑えないだろ?



これは早急に強くなる必要が出てきた。



僕は『隠れし闇』と『空間狂偽』を同時に使用した。



「これなら基本的にはばれないはずだ。」



・・・・・・それを見破ってきそうな魔物も未踏破区域には居そうだけどな。


「よし、行くか」


移動を開始した。



♦♦♦


次の魔物が現れるまでそこまで時間は掛からなかった。


その魔物は僕より大きかった。


当然だよね、だってまだ6歳だもん。


そいつは猿の魔物だ。ナルマーと続いてこの魔物の顔はうざったらしく、顔を見ているだけでいらつく。これがあいつの狙いなら僕は術中に嵌まっていると言うことになる。

そのことを考えると果てしなくイライラして仕方がない。


未踏破区域の魔物はおちょくっているとしか考えられない。



僕はその猿の魔物に”ウザイラ„と名付けることにした。


由来はご覧の通り、≪うざ≫くて≪いら≫いらするからウザイラだ。

最悪のネーミングセンスだと思う。ここら辺は追及しない様に、・・・・意外と気にしているところだから。


閑話休題


ウザイラは僕には気が付かない。落ち着いた様子で木の上で木の実らしきものを食べている。



クソ、いちいちイラつく食べ方しやがって!


そう思ったが落ち着くことにした。



やはり『隠れし闇(ハイド)』と『空間狂偽(エリア)』の2重隠蔽は相当な隠密性を出しているみたいだ。


気が付かないウザイラだがこいつもかなりの力を持っている。少なくともナルマ―より遥かに優れていると感じる。


だが気付かなければこちらの物だ。とっとと片付けてしまおう。



「『不狂視弾(ノーティア)』」


狂気の不可視弾が発動し、ウザイラの顔面にクリーンヒット‼


いや~、ウザイラさん相当にキテいらっしゃいますね~~。頭は末期でしょうか??大変不安でございます。・・・・・ふざけてみたがウザイラのうざさには勝てないことが分かった。


やはり一発で勝負はつき、うざい顔のままうざい倒れ方で死んだ。


死んでからもうざいとは。


ま、まさか、ウザイラは、その手の極致に至っているとでもいうのか‼⁉


イライラ回避のためにやっていたが自分にイライラしそうになったので止めた。


「やっと来たか」

ようやくウザイラの力と【能力】の掠奪が終わったみたいだ。


やはり相当な力を持っていたらしくナルマーの時のように強くなっていく感覚があった。


「さて、【能力】の方はどうなってるかな。」


僕は結構楽しみにしている。

是非とも探知系の【能力】が欲しいところだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


仮名称・ウザイラ


種族・魔物


【能力】


認識阻害(ブライト)』・・・相手が発動者を認識するのを阻害及び発動者と認識できなくする。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




・・・・・これはまた、評価のしずらい【能力】だ。


これは『隠れし闇』と違って隠れるのではなくてまさしく見えなくしてしまう【能力】というわけだ。しかも別の物として認識させることも可能にするみたいだ。


・・・・・・強力な【能力】であることは間違いない。


ない、んだけど、求めてたものと違うというがっかり感がある。


・・・・・・・探知系が欲しかった。


というか、【能力】が隠蔽系に偏り過ぎな気がしてならない。


不満はないが文句はある、そんな感じだ。



・・・・・・ま、まぁ使ってみようか。


隠れし闇(ハイド)』と同じ感じで発動すればいいんだな。


早速使ってみたが何も感じなかった。


なんでだろう?


使えていることは感覚的にわかる、だが『隠れし闇(ハイド)』のような世界に隔離された感じの逸脱感がないのだ。

『隠れし闇』が異常なだけ?それならウザイラはナルマーより弱いのか?そんな大きな差は感じなかったが。



「こういうものなのかな?」


そう納得することにして、僕はまた歩き始めた。








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