1-1『奴隷都市の闇』
暗い空より更に黒い路地裏を歩く人影が二つ。
「「……」」
大男であるルージュと少女であるアリスだ。
二人は深くローブを被っているが何かを背負ってもいた。
次第に一軒の寂れた石建築の建物を発見し、そこに入る。
埃が溜まっていたのか先導したアリスがモロにそれを被ってしまった。
「……うえぇ」
埃を被った為見るからに不機嫌そうな声を出す。
先導させたルージュはその呟きを聞きアリスの頭にハンカチを乗せる。
そして二人は目的の場所に向かう。
……そこは風呂場だった。
ルージュが何処と無く手を叩くと備えられていた鏡が光り出した。
そして鏡の前に近づき指を指して合言葉を言った。
「お前は誰だ?」
呟いた瞬間鏡の輝きは消え失せ床から音がしてきた。
二人はジッとそれを見つめていると床が浮き開かれた。
正しくは隠されていた穴が床を外した事で露わになったと言えるだろう。
そう考えていると浮いた床から白装束が姿を現わした。
「入れ」
二人は持ち出しの鞄から仮面を取り出し被った。
ルージュは烏のアリスは犬の仮面を被るとお互いの顔を見合わし頷いて穴に入っていった。
音を立て元に戻された風呂場は再び静寂を取り戻す。
途端夜空に『青色の火花』が打ち上がった。
それに同調するかのように天井に張られる蜘蛛の糸が吹き荒ぶ風に吹かれ散らされた。
◇◇◇
5人は薄暗い長大な通路を歩いている。
近接武器を持った白装束、弓矢を持った黒装束が二人の背後にそして最前列に二つの色を別けた服と灰色の三角頭巾を被る男が先導している。
地下な為冷えた空気が身体を撫でる。
その道中別の家から入ったのであろう他の者達も頭巾を被り別の穴から出てきた。
例に漏れず皆が仮面を被りローブを羽織っている。
「ヤベェ。チャンピオンじゃん」
「アリス姐さんもいるぞ……!」
アリスの顔に被るベールと犬の仮面を見た男達が驚いている。
此処では二人は珍客ならしい。
「何だ……?あの血みどろな鼠は?」
「は?」
酷いデザインを指摘されたアリスは怒りの声を滲ませるが横に居たルージュが小突き黙らせる。
その様子を見ても浮き足立つ者達は言葉を続ける。
「強いルージュさんのサインが欲しい……」
耳がピクリと動く。
前を歩きながら横目を見ている。
それと少々鼻息が荒い。
そんなルージュを仮面の下でアリスはジト目で見る。
何故かどんどん足音が遅くなっている。
その様子に困惑を隠せず動揺している背後二人。
だが、相方の一言で元に戻る。
「やめろって。アリス姐さんの方が強いのは知らない訳ないだろが」
「……そうだな」
「は?」
ルージュはアリスにエルボーをかまされた。
「着いたぞ」
灰色の男が通路にある無数にある扉の中でも一番最奥の扉に二人を立たせる。
慣れた感じで入ろうとする二人に対し背後から声が掛かった。
弓矢を持ってる黒頭巾の男だ。
「じ……実は僕もチャンピオンのファンだったんです」
そう言い慌てた様子で弓と筆を差し出した。
墨の代わりに腕を斬り血を流した。
「……奇特な奴だな」
言いながら筆に血を濡らしサインを書く。
「此処に居る奴らは皆そうですよ」
振り向くと白頭巾が紙袋に包まれるソレを差し出していた。
受け取ると灰色の男が扉を開けた。
「私からの差し入れだ」
その言葉にアリスは尻尾を振り感情を現した。
そして二人は下層に入って行った。
◇◇◇
……奴隷都市グランゼーラには『2つ』の施設がある。
一つは此処奴隷都市経済の最奥地
『地下奴隷市場』。
そこでは毎日闘技場で殺す(あや)為の奴隷が調達される他に次期チャンピオンとして成り上がる為の特訓場として機能する。
……そしてもう一つはグランゼーラの心臓部。
この悪徳の街を悪徳足らしめる地下の楔でもある。
これら二つの施設は地下に潜んでおり蜘蛛の巣の如く街中に通路を張り巡らせる。
先程の風呂場もその入り口の一つだ。
……喧騒な音が徐々に近づいてくる。
それは眼前に現れた大きな扉の内側から聞こえてきている。
同じように来ていた仮面達は此処にはいない。
居るのは二人だけだ。
「「……」」
意を決して二人は大きな扉を協力して開けた。
眼前に豪華絢爛な施設が広がった。
そこは白を基調とした研究所だった。