この時を待っていました。
誤字報告など、宜しくお願いします。また、感想や評価、ブックマークなども宜しくお願いします。
「エレナ・フォン・アーレン、貴様との婚約をここにダンフォナ王国王太子、サラク・フォン・ダンフォナの名において破棄する!そして、貴様はこの王国から追放する!」
何故かドヤ顔で一方的に婚約破棄を告げて来た王太子を私、エレナ・フォン・アーレンは無視しました。当然です。今、私はイーデル学園の卒業パーティーの始まりの挨拶を首席生徒として、しようとしたところだったのです。因みに、このパーティーには学園の全教師は勿論、この国の国王夫妻がいらっしゃいます。しかも、私達の代には去年から隣国、マラーヴィの王太子、ディヴァン様が留学生として来ていますので、隣国の国王夫妻もいらっしゃいます。マラーヴィは、戦と政治、どちらも優れているので敵にしたら最後、徹底的にやられます。この国は、私が何故かマラーヴィの両陛下に気に入られたので大丈夫ですが、逆に私が酷く扱われたりすると滅びます。因みにこの国の両陛下にも、私は気に入られておりますので、いつも二つの国を行ったり来たりして畏れ多くも政治に口出ししたりお話しさせていただいたりしております。
改めて淑女の礼をして、
「この度は、」
と切り出すと
「おいっ!人の話を聞け!俺は、王太子だぞ!」
と、また邪魔をして来ました。主賓席におられる二つの国の両陛下が、社交界に出るものとして尊敬すべき素晴らしい笑みを浮かべながらブチギレていらっしゃります。まぁ、お気に入りである私の晴れ舞台を空気も読まず邪魔している人間がいたら、キレて当然です。
閉話休題
ガタッ
あら、我が国の両陛下が立ち上がりました。マラーヴィの両陛下はなんとか耐えていらっしゃるご様子です。腐っても他国の王太子であるサラクと対立すると、国際問題になってしまいますからね。
「サラク!いい加減にしなさい!エレナが挨拶をしようとしているのがわからないのですか!それでも、エレナの婚約者なのですか!」
王妃陛下が静かに、ですが怒りを込めて仰いました。流石の王太子でも、理解したようです。ですが、
「お母様!この者は我が愛しきベルを虐めたのです!許せません!」
またもや空気を読んでいない発言をしてしまいました。仕方がありません。私がお相手して差し上げましょう。
「陛下、少しよろしいでしょうか。」
申し出ると、怪訝な顔になられましたが、一応お許し下さいました。ここで邪魔されるわけにはいかないのです。
「殿下。私が行なった「虐め」とやらを、ご説明ください。あ、一応確認しますけど、「ベル」とやらは、第三学年のD組にいらっしゃる特待生のベルさんでお間違い無いでしょうか?」
というと… 王太子殿下は興奮して
「惚けるな!いいか、お前はな!ベルの学園からの支給品を破壊する行為をして、教師達を脅し課題を増やさせ、補習もさせた!そして、先週は彼女を階段から突き落とした!」
またもや意味不明なドヤ顔で、まくしててきました。彼に呆れつつ
「証拠は御座いますか?」
と聞くと
「まず、俺と同じ様にお前に失望していたフィーフ・フォン・イクセに支給品が破壊された事を相談したら、証拠を見つけたのだ!フィーフ、説明しろ。」
共犯者に丸投げしたようです。王族として、責任感がなさすぎるのではないでしょうか… いつの間にか、現宰相の息子である宰相候補のフィーフ様が殿下の側に…
「エレナ嬢、私は残念ながら、貴女の不名誉な素行を暴く事になってしまいました。貴女とは、同じ公爵家の子供として親しくしていた為、今でもこの事を疑ってしまいます。ですが、世の中の為にここで貴女を断罪します。私は殿下から相談され、その瞬間に謎が解けました。何故ならば、壊された支給品の中には、生徒証があったからです。あれは、本物かどうかを識別できる機能がついた魔導具なので、とても硬いのですが…そのようなものを破壊できるような物を買えるような財産の持ち主は、公爵家か王族くらいしかありません。その公爵家も貴女の家と私の家のみです。つまり、貴女が犯人なのです。」
まぁ、これだけトンチンカンなことを言ってしまったので、宰相になることはあり得ないでしょう。あまりにも愚かで、無表情な仮面が取れてしまいそうです。なんとか、仮面を保とうと頭の中で奮闘していると、次期近衛騎士団団長であるセルクス・フォン・トーナ様がいつの間にか前に出ておりました。
「エレナ嬢!私は、教師が貴女に脅されている所を目撃しました。それとも、次期近衛騎士団団長である私の証言が信じられないとでも?」
か弱い令嬢を脅してしまった時点で、一番位の低い兵士になる事は確定されてしまいました。
「ふんっ。これで分かったか!貴様の悪事は全部暴かれたのだ!」
得意げに殿下は仰いました。
はぁ。つい溜息が出てしまいました。そして、面倒臭くなってしまったので、
「畏まりましたわ。私は、追放されます。それでは、御機嫌よう。」
逃げる事にしました。我が国の両陛下が慌てていらっしゃいますが、気に致しません。私はマラーヴィに行って冒険者になるのです!小さい頃お母様に読んでいただいた絵本に描かれていた冒険者がかっこよくて、憧れていたのです。
この時を待っていました。
今、エレナ・フォン・アーレンは死に、冒険者エレナが生まれたのです。
セリフを一部変更致しました。