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異世界怪奇バスターズ 邂逅編、魔の洋館の謎を暴け!

 ・・・などと筋違いなことを三流雑誌記者のノラサワ氏がのたまう。

 目の前に顕現した女人の御霊を、あろうことか”宇宙人”などとほざきおった。よりにもよって拙僧が、未知との遭遇に感涙しているなどと世迷言もいいところよ。

 この右眼から流れる涙は、感涙などではなく無常の涙。輪廻したこの異世界でも、無念を秘めた御霊が救いを求め彷徨うという諸行無常ゆえ。そして左目は得心の涙か。

 やはり拙僧は、御仏の救いを為すためこの異世界に呼ばれたのだ。


 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前


 慈悲の念を込めて九字を切ると、我らの前に立ち塞がっていた御霊、恐らく地縛霊であろう女人は天へと昇っていった。世のすべてを恨むような形相から一変、なんとも救われた良い表情を浮かべながら。

 やはりこの異世界でも、御仏のご加護は有るのだ。感謝の意を込めて南無阿弥陀仏と唱える。

 その威光を目の当たりにしてさすがに感じ入ったのだろう。腐れ縁の二人、インチキ記者と石頭科学者は五体投地のように地に平伏して拙僧を讃えたのであった。


 ということでオオツカ氏、続きは任せた。

 ~イベントエリア第九区画 森の洋館スタジオ~


「ねえねえ! お兄さん!」


 箱が呼びかける。


「どうしたハコ。 段取りの確認か。 それとも台詞の練習か」


 騎士は振り向きながら答えるのだが、相棒が口にするであろう言葉には予想がついていた。鬱蒼とした森と曇天の空模様に囲まれた洋館に来てから、もう何度目かの言葉だ。


「どう? 似合う? 曲がってない? 変じゃないかな?」


 相変わらずの高いテンションで姿見を覗く金髪頭には、メイドが頭に付けるホワイトブリムが乗っかっており、ニヤニヤと笑みを浮かべては仕切りに位置を調整している。ミニイベントのチョイ役とは言え、メイドを演じられることが箱には嬉しくて仕方がないようだ。


「ええ、とっても似合ってますよ。 お転婆メイドって感じで可愛いです」


 溜息をつく騎士に代わって、女性の良く通る声が返って来た。ミニイベントに関わるスタッフ三人のうち最後の一人だ。

 彼女の名はオリビア。比喩表現ではなくまさに透き通る肌に銀の長髪、メリハリのあるモデル体型の四肢を、これまた透き通るような純白のイブニングドレスで包んでいる非物質型NPCだ。整った顔立ちにどこかのんびりした笑みが印象に残るだろうか。しかし駆け出しながらもその特性を活かし、SFチックな無機質ホログラフから背筋の凍るような悪霊、果ては宇宙意思の思念体といった難しい役まで演じて見せる実力派でもある。

 仕事の打ち合わせの合間に、すぐさま仲良くなった箱と談笑していたところによると、有名になっていつかはラノ通­・・・『攻略情報誌ラノベリオン通信』の巻頭グラビアを飾れるようになるのが夢だとか。

 そんなオリビアに褒められて箱の表情が一層華やいだ。


「ホント!? やったー! お転婆メイドだって! 凄いでしょお兄さん!」


「ああ、良かったな。 段取りと台詞もその調子で頼む」


「大丈夫だよう! このお転婆メイドに任せてよ!」


 少々はしゃぎ過ぎの気がある箱に釘を刺す。

 とは言ってもスタッフNPC三人のささやかなミニイベントだ。洋館の主人である貴族と、彼に仕えるメイド。そして館に取り付いた悪霊。洋館の前を通りかかった主人公(プレイヤー)がメイドに呼び止められ、貴族に請われて悪霊を退治するという単純明快なあらすじである。

 台詞回しも複雑なものではなく、ある程度は流れで行える大雑把なもので、更に言うとメイド役たる箱娘に割り当てられた必須の台詞は数が少ない。


『そこの御方! どうか助けて下さい!』

『ご主人様! お客様を連れて参りました!』


 最悪この二言さえ言えれば、後の台詞は忘れても問題の無い役どころなのだ。



 内容:お試しミニイベントのスタッフ

 職場:イベントエリア第九区画 森の洋館スタジオ

 時間:一日

 報酬:一万二千GP

 特記:洋館の貴族役 メイド役 各一名



 個々のプレイ内容がラノベとして文章化される異色のソーシャルゲーム”ラノベリオン”は、いわゆる基本無料系である。ゲームをプレイするにもラノベ化された文章を閲覧するにも、対価を求められることは無い。

 しかしラノベリオン世界を存続させ、発展させるためには当然ながら利益が必要であり、その多くはユーザーによる課金によって賄われていた。

 もちろん出版化にこぎ着けた多くの作品、その中からアニメ化された成功作品。そして劇場化にまで至った一握りの大成功作品がもたらす版権や、グッズ売上その他諸々の利益も決して馬鹿には出来ない。しかし何分、ユーザー課金は利益率がけた違いに大きいのだ。外世界の連中に分け前を持っていかれることもなく、ラノベリオン世界の内部で発起完結出来る課金収入が間違いなくこの世界を支えていた。そしてその支えを盤石にするため、運営NPCは今日もユーザーの射幸心を煽りまくっては更なる課金を促し続ける。


 さて、強力な武器防具が手に入るお馴染みのアイテム課金や、望んだNPCを作中に追加するキャラクター課金に並んで”イベント課金”と呼ばれるものがラインナップに存在する。

 望んだイベントを物語に発生させるという少々特殊なものであり、他のゲームで例えればイベント追加のダウンロードコンテンツが近い存在だろうか。しかしその意味合いは、プレイ内容が物語として書き残されるラノベリオンにおいては他と比べ物にならないほどの重要さを持つ。他のゲームのようにイベントを消化して終わり、と言う風には終わらない。

 空から羽根の生えた女の子。魔法学校にテロリスト。王宮の宴席でギターソロ。

 望めばどんなイベントでも手に入り、注込む課金額が多ければ多いほど物語は微に入り細を穿つ。それは自分の物語に鮮やかなストーリー展開として刻まれるのだ。

 更にそれは作品のPV(ページビュー)増加や人気向上にも密接につながっていると言える。出版化にこぎ着けた作品の多くが、イベント課金によって物語をガチガチに補強していたというデータを見れば明白だ。


 そんな理由によって、この一風変わった課金コンテンツは重要な収入源の一角を担っているのだが、問題が無いわけではない。

 端的に言ってしまえばイベント課金は新規客には取っつきにくいのだ。

 費用対効果が解り易いアイテム課金や、視覚と助平心に訴えるキャラクター課金と比べると、「ああイベントが欲しい!課金してでも欲しい!」とはなかなかならない。新規参入率は他と比べると明らかに低く、イベント課金の甘露を知ってしまったジャンキーや、物語のPV(ページビュー)を四六時中気にする廃人勢がほとんどという状況である。

 しかし新規開拓の無い事業が衰退するのもまた明白であり、事態を打開するために運営NPCはある策を採った。いわゆる”無料お試し”あるいは”初回無料”という、誘惑で人を堕落させるまさに悪魔の所業だ。




 ~イベントエリア第九区画 森の洋館~


 バタンと音を立てて玄関扉が開くものの、飛び込んできたのは待ち人たる当選者ではなく、玄関先で主人公(プレイヤー)を呼び止めるメイド役の箱であった。受付終了まであと十分しか無い現状に、居ても立ってもいられないのだろう。

 ミニイベントの主役たる主人公(プレイヤー)は、まだ姿を見せない。


「どうしよう! 締め切りまであと十分しか無いよ! どうしよう!」


「落ち着けハコ。 これよりイベントスケジュールをプランCに変更する」


 少しばかりの無念さを秘めた騎士の声は、スタッフがたった三人しかいない洋館に空しく響いた。


「ええと、プランCって何だっけ? 第二の試練を飛ばすんだっけ?」


 あれだけ事前の打ち合わせをしたにもかかわらず、箱の認識は間違っていた。


「それはプランBだ」


「プランCはお客様を連れてきて、玄関で私と戦ったら終わりですよハコさん」


 またしても騎士に代わってオリビアが答えた。

 本来ならパズル要素の第一試練、謎解き要素の第二試練、そしてバトルの最終試練と、スタッフNPCたった三人ではあるがそれなりに凝ったミニイベントになるはずだったのだが。

 まことに遺憾ではあるが時間の関係上、洋館に突入したら玄関にラスボスが居るという最速攻略用のプランCに変更せざる負えない


「えええ! それじゃあわたしの台詞ほとんどないじゃん! せっかく覚えたのに!」


「まあまあ。 その頑張りは無駄にはなりませんよきっと」


 ABCの三つしかないイベントスケジュールすらまともに覚えていなかった箱が不満を漏らし、オリビアが微笑みながらそれをなだめる。

 そうこうしているうちに残り時間はあと五分。主に無課金プレイヤーを対象に配布されるという噂の無料お試しミニイベントの一つ『魔の洋館』受付終了は着々と迫っていた。

 外は禍々しい空模様に時おり雷鳴が鳴り響くが、洋館の中は未だ進展が無い。コチコチと鳴る柱時計の音が心なしか気を急いてくるようだ。


「チケット配布に手違いがあったのかしら・・・」


「その可能性はあるかもしれん」


 何らかの問題があったのだろうか。

 そう訝しむ二人の会話は、ある意味当たっているのだが・・・。


「もう待ってらんないよう! ちょっとわたし、外を探して来るね!」


 流石に焦れたのだろう。言うや否や、箱は玄関の扉を開いて弾丸のように外へ飛び出して行った。扉の閉まる音が玄関に残る。


「まったく落ち着きのないやつだ」


「あら、可愛いじゃないですか。 あなたにいいところを見せたいんですよ、もぶいちさん」


 聞かせるつもりの無かった独り言だが、オリビアにはしっかり聞こえていたようだ。相変わらずほんわかした微笑みを浮かべている。これでいて必要となればゾンビのようなおぞましい演技もやってのけるのだから、まったくもって恐れ入る。


「ハコさん、頭のホワイトプリムをしきりに直していたでしょう。 よっぽどメイド役がうれしいのよ」


「む、そういうものか」


「だって女の子なんですもの。 晴れ姿を殿方に見て貰いたいという気持ちはとても解ります」


 そうしてまた微笑みを浮かべるオリビア。

 どうやら騎士と箱の関係を随分とロマンチックなものに取り違えている節がある。あれはただ単にメイドという解り易い記号に熱中しているだけ。


・・・・いや、あるいは。

待ち人が来ないという状況を恐れているのか・・・。


何にしろ別段訂正もしないが、彼女から指し向けられる眼差しの生暖かさが心なしか居心地を悪くする。


「俺も外の様子を見て来るとしよう」


 思い立った騎士は踵を返すと、外へと駆け出した。例え時間切れで無効イベントになったとしても、自らに落ち度はないため既定の報酬は支払われるはずだ。しかしそれで終わるには少し惜しいと思う気持ちが、オリビアとの会話で膨らんだのかもしれない。

 玄関を飛び出し、前の通りを左右に確認するが当選者はおろか、先に外出した箱も見当たらない。街に続く左手か、山に差し掛かる右の道か。ええいままよと逆貼りの精神で山手に駆け出すと、やがて向こうからやって来る人物が目に入った。どうやらNPCではなく主人公(プレイヤー)のようだ。

 黒の着物に金色の前掛けらしきものを下げた、頭をそり上げた厳つい顔の男性。騎士の知識が確かなら、外の世界における仏教の僧侶があのような様相であっただろうか。走るまま駆け寄るとミニイベント当選チケットの写しを見せながら尋ねた。


「そこの人、不躾だがこんなチケットを持っていないか?」


「なんだいきなり。 これのことか?」


 どこか太々しいその男が袂から出したのは、紛れも無い当選チケット。

 こうなればストーリーも台詞もへったくれも無い。直球の言葉を叩き付けた。


「急いでくれ、チケットの締め切りが迫っている」


 こうして騎士はミニイベントの当選者である『異世界坊主マドウ』の主人公(プレイヤー)を急かせると、来た道を洋館まで走った。




 ~イベントエリア第九区画 森の洋館~


「客人を連れて来た!」


 いつもの騎士らしからぬ焦りの交じった声を上げながら、洋館の扉を開けると・・・。


「ですから、私はこの館に取り付く悪霊なんですよ。 私と戦って下さい」


「いやね、そんな非科学的なことを言われても困るんですよ。 証拠を出しなさいよキミ」


 そこにはオリビアとは別にもう一人の男性が居て、何やら問答を繰り広げている。

 どうやら騎士と入れ違いにこの洋館にやって来たらしい。洋服の上から白衣を煽り、背中にはアンテナやらパイプやらが飛び出した妙な機械を背負った眼鏡の男だ。そして何より問題なのは、その男もまた当選チケットを手に持っているということか。


「オリビア殿、これはいったい」


「ああ、もぶいちさん! ええと、この人はですね・・・」


 シナリオ上では館の主と悪霊という、まさに敵対関係であることもわきに追いやって騎士はオリビアに状況説明を求めた。この状況は普通に考えたらチケットの二重配布だろう。クレームになる可能性がある現状を鑑みれば、シナリオなど気にしている場合ではないのだ。


「このかたは『異世界科学者オオツカ』の主人公(プレイヤー)さんで、今回の当選者ですよ」


「やはりそういうことか・・・」


「でも私が悪霊だって信じてくれなくて・・・。 ところでそちらはどなたでしょう?」


 マドウの姿を見止め、オリビアが小首を傾げる。

 しかしダブルブッキングになっていることを客の前で口にするほど騎士は迂闊ではない。何と説明したものかと言いよどんでいると、話を振られたと思ったのか、マドウがずいと歩み出た。


「拙僧はマドウと申す僧侶だが、お主どうやら地縛霊の類のようだな」


「え、そうなんですよ! 私この館に取り付く悪霊なんですけど、信じて貰えなくて」


「それは苦しかろう。 拙僧が来たからには安心して成仏なされ」


 オオツカから悪霊であることを完全否定され、どうやら演技力に対する自信が揺らいでいたのだろう。思わぬ理解者の登場に、オリビアが瞳を潤せながらまくし立てる。

 一方、なんとなく悪人にされているような感じのするオオツカも黙っていない。


「悪霊だの地縛霊だの有る訳が無いでしょう。 理解できないものを何でも霊と呼んでるだけです」


「何を言うか罰当たりな。 自分で悪霊だと言っているではないか!」


「あのね、その理屈だと『私は悪霊です』って言えば誰だって悪霊に成っちゃうでしょ」


 こうして言い争いを始める坊主と科学者。よく解らないが引けないところが互いにあるのだろう。

 主人公(プレイヤー)二人がどうでもいいことに気を取られている間に、騎士はこの状況を打開すべく、鉄仮面の頭をフル回転させる。なにか、なにか、なにか乗り切る手法は無いのか。


 バタン!


 そのとき突然、洋館の扉ががさつに解き開かれ・・・


「お兄さん・・・じゃない、ご主人様! お客様を連れて来たよっ!」


 息を切らした箱が・・・。


「話は聞かせてもらった! ラノベリオンは滅亡する!」


「異世界超常現象研究家ノラサワ」の主人公プレイヤーを引き連れて飛び込んできた。




 ~NPC派遣センター地下食堂~


「一時はどうなることかと思ったよ。 無事に終わってよかったねえ」


 そんな一丁前のことを言いながら、箱が牛肉串に噛り付く。

 当初は重複予約と言うミスの重大さをいまいち理解していなかった彼女であったが、予約した限定料理を他人に提供されるというような例え話を以て理解するに至った。まあそのくらいの背伸びはいいだろう。


「ああ。 なによりだ」


「それにしてもあのハチャメチャ感は凄かったねえ。 三人で言い争い始めちゃってさ」


 三人目の当選者『超常現象研究家ノラサワ』の主人公(プレイヤー)が飛び込んできたことにより、場はさらに混沌となった。

 地縛霊だ、プラズマだ、いや宇宙人だ。

 非物質型NPCであるオリビアの透き通った姿を目の当たりにした彼らは、想定外の行動に出た。本来ならば力を合わせて謎の存在と戦うところなのだが。しかし彼らはオリビアをそっちのけで三つ巴の戦いをおっ始めたのだ。しかも武力行使ではなく決着の付きにくい舌戦だから始末が悪い。三者三様のトンデモ論で武装した彼らの戦いは、ノーガードで敵の急所を突き合う泥沼の様相を呈した。


 居心地悪そうに状況を見守るオリビアと、すっかり飽きて腹が減った帰りたいと言い始める箱。

 騎士までもが、あのまま時間切れにしておくべきだったと思い始めたころ、ようやく進展があった。流石に喋りつかれたのか主人公(プレイヤー)三人は、実力行使で決着をつけることにしたらしい。オリビアを取り囲むとそれぞれの信じる解決策を実行に移した。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」

「( E, px, py, pz ) = ( γmc2, γmvx, γmvy, γmvz )」

「Ni bonvenigas al la Tera Teranoj」


 念仏らしきものを唱える坊主。

 何かの計算式を口にしながら背負った機械を動かす科学者。

 どこの国のものとも思えない言語と語る超常現象研究家。

 三方向から異常とも呼べるアプローチを受け、困惑したオリビアが助けを求めるように騎士に視線を送り、それを察した騎士は肯くと人差し指を立てて上を指さした。

 こうしてオリビアは全ての悩みから救われたような笑みを浮かべて、唯一の逃げ道である上方へと浮かび天井の上へと姿を消したであった。

 ちなみにこの時の美しい光景だが、ノラサワがラノベリオン内で自発出版しているオカルト雑誌『(ラノベリオン)(ミステリー)ルポルタージュ』において衝撃画像として何度も巻頭カラーを飾り、彼女の新たな悩みになるのは少し先の話だ。


「それにしてもさ、あんな曲者ぞろいなのに、お兄さんよくまとめられたねえ」


「なに、簡単なことだ。 サプライズのコラボ企画と言えば連中は納得する」


「へええ、 そんなもんなんだ。 あんなグダグダの結果だったのに」


「コラボ企画というのは元々そういうものだ。 行うことが目的で結果などどうでもいい」


 いまいち腑に落ちない表情を浮かべる箱にそう答えた。

 もし鉄仮面で無ければ、騎士の顔に浮かんでいたのは嘲笑の笑みか、それとも自嘲の笑みか。そんな雰囲気など察する様子も無く、箱は新たな話題に話を振る。


「そう言えばさ、今回の仕事って誰かがイベント課金すれば、わたしたちボーナス貰えるんだよね!?」


「ああそうだ。 イベント課金者の新規開拓をする仕事だからな。 成功報酬はでかい」


「じゃあ三人もいれば誰かは課金するんじゃないかな! なんだかんだでみんな楽しそうだったし」


 きっと追加報酬が出るに違いない。そんな期待を胸に箱はホクホク顔で新たな串に噛り付く。その無邪気な表情を眺めながら、騎士は考えた。確かにあの主人公(プレイヤー)三人は口論しながらも楽しそうであった。それこそNPCである自分たちが主人公(プレイヤー)を持て成しているとき以上に。

 そこまで考えた騎士はそれ以上の思考を流し込むようにジョッキを仰ぎ、代わりの言葉を吐き出した。


「あるいは三人もいるから、その必要が無くなることもあるかもしれん」

 五体投地で平伏したなど、科学的にあり得ない。

 何を勘違いしたのか、「カカカ」と馬鹿笑いする生臭坊主マドウを無視して、私は地面の科学的調査に取り掛かった。坊主よりは多少頼りになるノラサワ記者が、すぐさま助手として手伝い始める。ゼミ生であれば単位の一つ二つやってもいいような心がけだ。


 やがて両手に握る電極棒が地面のある一帯で異常を感知した。

 さきほどの未確認現象が起こっていた場所だ。この反応はやはり。


 振り切れたプラズマカウンターのメーターが、私に確信を告げる。

 やはり先ほどの現象は、心霊でもなければ宇宙人などでもない。恐らく地場の持つ強力な磁力によって蓄積していたプラズマが、フォトン発生装置の干渉を受けて斥力を生み出し、空中へと放射されたのだ。

 またしても科学の勝利。この異世界でも科学の絶対法則に例外は無かった。


 このことを解り易く説明してやるとノラサワ記者は、是非とも紙面で特集を組みたいと懇願してきた。特集も何も、一流の科学者にとっては周知とも言える常識的なレベルの話なのだが。

 私は肩をすくめると、「手短に頼むよ」と応えた。


 それではノラサワ氏、”邂逅編”の締めと次回のお題、よろしく頼みます。

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