俺は転生したらしい。
今日俺のクラスに転校生がやって来た。
都会から引っ越して来たらしいそいつの顔を見つめていたら、俺の頭の中で何かがピパーーーーンと弾けた。
あいつは、天崎仁じゃないか?
「天崎仁です。よろしくお願いします。」
俺の予想通りあいつは天崎仁だった。
喘息の療養のために中途半端なこの時期に都会から引っ越して来る転校生。
容姿端麗、スポーツは医者に止められているが、その代わり勉強はよくできる。
「天崎の席は橘の隣な。」
気弱な担任にそう言われた天野は1番後ろの空いてる席へ向かった。
「よろしく。」
「よろしくね。」
席に座った天崎に、ニコッと笑顔を返したのは橘桜子
あいつこそ、ドジっ子小悪魔!この世界の主人公だ。
あぁそうか俺は転生人だったのか、前の人生の最後の記憶は…。
そうだパニッシュを連れて出たんだった。
パニッシュは俺の家で飼ってたコーギー犬で、あの日は母に頼まれて 近くのコンビニまで肉まんを買いにいって、そんでもって帰り道にトラックにドーンと。
俺はあの時死んだのか、パニッシュはどうなったのだろう。
天崎仁と橘桜子がいるって事はだ、この世界は間違いない…。
大人気乙女ゲーム「LOVE forちゅーん」
人気声優が橘桜子名義で出した主題歌がミリオンを達成し、若手イケメン俳優をキャスティングして実写ドラマが作られるのではないかって噂も出てた。
何で俺がそのゲームに詳しいかと言うと、俺のお気に入りのゲーム実況主トントンくんが
「トントンが橘桜子になってスチルコンプをめざします!」
って実況動画を配信していたからだ。
でもまだ最後まで見てないんだよな、3人のエンドを見たところで俺は死んでしまった。
で、ここからが大事なんだけど俺が誰に転生したかって言うと。
モブ男だよ…モ・ブ・男
入学式のスチルの隅っこに映り込んでたり、体育祭のリレースチルで攻略対象の隣のレーンを走って負けたり。
3年間の学園生活で全く名前が出てこない、そんな悲しい生徒Bが俺だ。
いや俺だって、さっき転生した人間だって気が付くまでは、自分の人生にそれなりの誇りを持ってたわけだけど。
今はもう悲しくて仕方ない、どうせ転生するならイケメンの攻略対象に生まれたかった。
転校イベントをうまくこなしたらしい天崎と橘を見ながら、俺は失意のどん底にいたのだった。