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 小学生の頃、流行った外遊びに『隠れんぼ』の進化派生版の遊びが流行った。


 確か、『警察と泥棒』と言って『けいドロ』とか『ドロけい』などと言って遊んだのだ。要するに、ルールは『缶けり』と同じようなものだ。追いかける鬼と逃げて隠れる側が、ほぼ同数でも出来るのが利点だっだ。


 何故、そんな遊びが流行るのか、今思えばちゃんとした理由があった。 大都市のベッドタウンとして、新興住宅地が急増した小さな町に、小さな子供も急に増えた。しかし、増加した子供に合わせて、小学校は急に増やせない。


 だから、町に一つしかない小学校に、毎月のように何人も転校生が転入してくる。一種の異常事態が起きていた。


 しかし、当の子供たちは、そんな大人の事情は関係なく、不足した公園の代わりに開放されていた校庭で、大人数でも遊べる『けいドロ』に夢中になった。


 大人数で遊ぶと、当然その中に初めて見る顔も混じる。転校生も毎月何人もいたし、同じメンバーが集まるわけではなかった。誰が鬼か、誰が隠れているのか、顔や名前で覚えるのは大変だ。


 そこは、子供なりに考えるもので、体育帽の裏表で区別した。この小学校の体育帽は、表が白で裏が赤だった。手際の良い上級生は、地面に棒で鬼の人数と隠れる役の人数を正の字で書いたりしていた。


 しかし、塾の時間や遊び疲れて、途中で黙って帰る者がいた。そうなると、探しても見つかるはずはないし、建物の外しか隠れてはいけないといっても範囲は広い。


 そこで、毎日夏場は、五時に鳴るチャイムを合図に、自然解散することになった。


 『缶けり』の要素がなければ、面白くなかっただろう。鬼の『警察』に捕まり『牢屋』に入った『泥棒』たちを、缶を蹴り飛ばし解放した者が、その日のヒーローだった。


 夏休みの校庭に、子供たちは集まった。上級生が、真ん中に線を引き、好きな方並ぶように言った。そして、人数の少ない方を『警察』に、多い方を『泥棒』に指名した。子供なりに判断して、『警察』役をしたければ、少人数側に並び、『警察』が多くなりそうなら交渉して『泥棒』側に移動した。


 とても、上手く遊べていたのだ。あの日までは、『けいドロ』遊びは一番楽しい遊びだった…………。


 その日、天気は曇りで夏の日差しが遮られ、いくらか涼しかった。校庭の水飲み場で、水は飲み放題だし、水筒を持って来ている子供も多い。帽子を被るルールなのも幸いしていて、気分が悪くなり倒れる子供はいなかった。小学生の体力は、底なしだった気がする。


 お昼過ぎから始めた『けいドロ』は、一時間置きに鳴るチャイムを合図に、校庭の水飲み場に一旦集まり、『警察』と『泥棒』役を交代した。宿直の先生が、子供たちの体調を心配して、上級生に出した指示だ。

 なるほど、休憩と水分補給の時間になるし、人数の確認にもなって、更に効率良く遊べた。


 そして、五時のチャイムが鳴って、いつものように解散した。







 夜になって、小学校の校庭は赤色灯で赤く染まった。数台のパトカーが止まっていた。一人の子供が校庭に遊びに行ったまま、夜になっても、帰宅しなかったのだ。


 校内放送を使い、呼びかけたり、校舎内の電気を全てつけて明るくして、すみずみまで探した。PTAや子供会の役員、近所の上級生の一部も捜索に加わった。


 『泥棒』の得意な子供は、秘密の隠れ場所を案内してまわり、一ヶ所、一ヶ所、調べてまわった。深夜を過ぎて、子供は家に帰されたが、明るくなっても、お昼になっても見つからなかった。


 夏休みが終わり、二学期が始まっても、その子は帰って来なかった。


 あんなに楽しかった『けいドロ』は、夏の苦い思い出に変わり、もう誰も遊ぼうとしなくなった。










 


 久しぶりの小学校の同窓会は、同窓生だけでは少ないので、二次会は卒業生なら誰でも参加出来るようにしたので盛り上がった。


 誰ともなく、あの事件の話になった。口々に知ってる事を、酔いにまかせて話すうちに、あの日のリーダー格だった上級生が、意外な話を始めた。


「実は、行方不明になった子は、その夜に遺体で見つかっていたそうだよ……」

「えっ! 本当ですか? どこにいたんですか?」

「旧特別校舎の屋根の上だって……」

「あの夏に、取り壊された?」

「取り壊しが決まってから、あの旧特別校舎の周りは、隠れ場所にしないルールだったろう?」

「でも、どうして見つかった事を言わなかったんですか?」

「俺の親父が、PTAの会長だったから知ったんだけど、事件の真相を知ってる人は、口止めされていたんだ。行方不明になった子は、屋根の上で隠れていたが、暑さで意識を無くして、そのまま亡くなった事故だと結論が出た。子供たちに、心の傷を負わせたくないって理由で、内緒にされていたんだ」

「そんな、かわいそうに……」

「遺族もショックだったらしく、葬儀をすませると、すぐ他県に引越したそうだよ」

「だけど、あんな所にどうやって?」

「俺も不思議だったから、親父に聞いたんだ。すると、解体業者が調査で屋根に上がった時のハシゴを、そのまま置いて帰ったそうなんだ。発見時は、ハシゴが倒れていたそうだ」

「じゃあ、屋根の上に登って降りられなくなって……?」

「うん。でも、一つだけ引っかかる事があるんだ……。発見した時、その子の体育帽は赤だったそうだよ」

「「「えっ?」」」

「赤、『警察』だったって事?」

「あの日、鬼役の『警察』は、旧特別校舎に近づかないように、先生に直前に注意されてたから、全員知っていたはずだろう?」

「うん。だから、不思議なんだ。鬼役が、わざわざ校舎の屋根に上がって、探したりするかな?」

「誰か、隠れていたから追いかけたんじゃないかな?」

「誰か、あの場所に隠れてたってこと? だったら、いなくなった子が、そこに居るって知っていたんじゃないの?」

「見殺しにしたって事?」

「やめろよ! その言い方じゃ、隠れてた『泥棒』の中に、殺人犯がいるみたいじゃないか!」

「俺も、そう思ったよ。でも、旧特別校舎の話を知らない、夏休み中の転校生だったら、ハシゴを見つけて屋根に登って隠れたかもしれないだろ? 小学校の低学年の子供なら、昼間にそんなことがあったのを、忘れてしまっても不思議じゃないかもしれない……。だから、この話はもうお終いにしよう」

「それで、いいのかな?」

「今更、どうする事も出来ない話だしな……」

「それに、子供の頃、そんなつもりが無くても、知らないうちに罪を犯している事があるのかもしれない。そう考えると、俺は怖いよ…………」


 貸し切り状態の居酒屋は、シンと静まり返った。


「あ、それにしても、あいつ来るの遅いな! 二次会でもいいから来るって言ってたのに!」

「あれ? 今日の参加者は、全員来てるよ!」

「ほら、名簿にちゃんとチェック入ってるよ」

「おかしいな? いないよ?」

「変だな?」

「どこに行ったんだろう……?」















『そうか、僕だったんだ…………!』


 あの日、僕は学校の校庭の『けいドロ』に、初めて参加した。親と転校手続きで学校を訪れて、夏休み中の校庭で、大勢で遊ぶ姿を眺めていて、一緒に遊びたかった。


 彼らの言っていた通り、僕は夏休み中の転校生で、まだ一年生だった。やんちゃな僕は、校舎の一角のハシゴを登った。


 旧特別校舎は、新校舎の日陰になった場所もあり、曇りという事もあって、それほど暑くなかった。屋根からそっとのぞいた時、赤い体育帽の『警察』と目があった。


 僕は、急いでハシゴを降りて隠れた。赤い体育帽の鬼が屋根に登ったのを見届けてハシゴを倒した。鬼ごっこ遊びに不慣れな僕は、捕まりたくない一心で、度を越した行動をしてしまったのだ。


 そして、ハシゴを戻すのを、次の遊びの中で忘れてしまった。


『絶対に、捕まえるからな!』


 逃げる僕に、屋根の上から叫んだ声さえ、今までずっと忘れていた…………!


『忘れてしまって、本当にごめんなさい』


 僕は、僕の腕をしっかりと捕まえた、赤い体育帽の小学生に、心から謝罪した。


 しかし、謝罪はもう遅過ぎたのだった…………!




お読みいただき、ありがとうございます。

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