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 花の匂い。風の匂い。お日さまの匂い。森林浴の匂い。雨の匂い。夜の匂い。同じように、『死の匂い』というものがあるらしい。


 僕は、『死の匂い』を感じることが出来る。どんな匂いかというと、病院の中で、消毒液の匂いを引いたら残る匂いという表現がぴったりはまる。想像するのは難しいかな? 感覚的に感じるだけで、本当に匂いとして鼻が嗅いでいるわけではないのかもしれない。


 『死の匂い』がしていると、感じる人には二種類いる。もうすぐ死ぬ人と、死んだ人のそばにいた人だ。


 『死の匂い』の移り香というべきものを、身にまとった人は、職業が死に接する機会が多い人だったり、葬儀に参列したばかりの人だったりする。

 移り香は、時間が経てば消えるし、薄っすらと匂う程度だ。


 その中に、滅多に出会う事はないが、濃厚な『死の匂い』をまとう者がいる。


 それは、『殺人者』だ。殺人者の『死の匂い』の移り香は、何年経っても消える事がない。


 何故、そんな事を知ってるのかというと、子どもの頃、隣に住んでいた人物が殺人容疑で逮捕されたからだ。学校から帰宅すると、お隣のおじさんが覆面パトカーに乗せられるところだった。

 両親の話から、お隣のおじさんが奥さんを殺して山に埋めたんだと知った。そして、お隣のおじさんから匂っていたのが『殺人者』の匂いだと知ったのだ。


 僕は、ある日『殺人者』に出会った。


 僕は、学校へ向かうバスの中で、異様な匂いを感じて顔をしかめた。


 『死の匂い』は、決して芳しい良い匂いではない。不快とまで言わないが、危機感を感じさせる匂いだ。この匂いを嗅ぐと、首の後ろがヒヤリと冷たくなって、ザワザワと腹の底から焦りに似た感情がわき起こる。

 匂いの濃い場所を探すが、学生で満車に近いバスの中で、特定するのは難しかった。


 梅雨の時期、衣類や髪が濡れた独特な匂いの中で、毎日のように『死の匂い』を感じるのは不愉快だった。

 

 その日の車内は、乗客が異様に少なかった。スマホの交通情報で、電車が止まっているのを知った。いつもは絶対に座れないが、空席が目立つ。


 僕は、あえて座席に座らずに立っていた。


 『殺人者』の匂いがしたからだ。


 僕は、バスの中央部に立っている。神経を集中する。エアコンの風に乱されて、匂いは拡散している。

 だが、確実に感覚は匂いの元を、前の座席の方から感じた。


 僕は、バス停に止まるたびに、少しづつ前方に移動した。違う、この人じゃない。違う。もっと、前の座席なのか?

 僕は、学校前のバス停に着くまでに、匂いの元を特定しきれなかった。滅多にない機会だったのに残念だ。


 バスを降りようとしたとき、濃厚な『殺人者』の匂いを感じた!


 思わず匂いの元を見ると、バスの運転手だった…………!


 バスの運転手は、僕の方を向いてこう言った。


『そうか。嗅ぎまわって、邪魔していたのは、お前か…………!』


 僕は、フラフラとバスを降りた。めまいがして、バス停で座り込んでしまった。


 他の生徒が知らせで、学校から担任や保健医が駆けつけた。僕は帰宅させられ、翌日は学校を休んだ。


 昼過ぎ、すっかり体調が戻り起きて、テレビをつけた。


 ワイドショーが番組を変更して、今朝起きた悲惨な事故のニュースを特集していた。


 僕が、いつも通学に利用していたバスだった…………!


 『殺人者』よりも濃厚な『死の匂い』を放つのは『死神』なんだ…………。


 僕は、新たに知ったのだった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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