⑤
『猫は霊が見えている!』
なんて話をよく聞く。猫は、何を見ているのか視線を辿っても、何処か何もない空間をじっと見ていたりするからだろう。
実際は、飛んでる小さな虫や、風に揺れてる髪の毛の先なんかを気にして見ているだけなのだろう。
ただ、俺の場合は違うと思う。
猫だけに限らない。犬は吠えるし、赤ん坊は大泣きする。幼稚園児まで、俺の頭の斜め上の方へ、視線が固定されてしまう。
何が見えているのか?
当たり前だが、鏡で見ても何もない。何かが取り憑いているのか? 俺に、霊感のあるような知り合いはいなかった。霊感を商売にしている人間は、信用出来ない。
だから、一応は親しくなった人に、必ず一度は聞いてみた。しかし、欲しい答えは得られない。
ある日、駅ですれ違った女性が、俺の頭の上を見て、小さな悲鳴をあげた。真っ青な顔をして、足速に立ち去ろうとする相手を追いかけて、捕まえて、何か見えるか聞いてみた。
彼女は、カミながら、『頭に毛が生えている』と、言う。
何を言っているのだ。当たり前だろう? 俺は、スキンヘッドじゃない!
女性には、聞き返す間も無く、逃げられてしまった。
まあ、同じ駅を利用しているのだから、また会えるだろう。その時、お詫びに食事にでも誘ってもいいかもしれない。結構な美人だったしな……。
なるほど! 変なナンパと、思われたのかもしれない。だから、あんな血相変えて逃げたのか…………!
ああ、頭が痛い……。
焦った! ヤバい人に捕まった!我ながら、『頭に毛が生えています!』は、ないだろう!
いつも、遠くからでも目立つから、あの人には、近づかないように避けてきたのに!
あの人は、漢字の『毛』に似た、真っ黒な得体の知れないモノが、頭から生えている。『毛』は、風に逆らい、モゾモゾと蠢いている。今日、近くで見たら、細かな毛に覆われていて、更に不気味さが増していた!
あんなモノを、頭から生やしていて、よく平気でいられるものだ!
私は、子どもの頃から、変なモノが見えるだけで、何も出来ない。除霊とか、アドバイスが出来るような、特殊な能力はないのだった。
だから、今日もあの人から逃げなくちゃ!
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