表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18



 その黒い影は、わたしの家の玄関に、夜になると座ってる。もう、何年もそこにいるので、見慣れてしまった。


 朝になると、何処かに行ってしまう。夜になると、玄関の端に座って、じっと朝までそこにいる。何もしないし、家族の中で見えるのはわたしだけだ。


 一度だけ、友だちに話したことがある。


 わたしの家に、クラスの友だちが泊まりにきた夜に、怖い話大会になって、玄関に座る黒い影の話をしたのだ。

 気の強い子が、みんなで玄関に行って見てみようと言った。


 わたしが、ここにいるよと教えると、その子は、黒い影のいる場所に重なるように座ってしまった。

 彼女は、笑っていた。みんなも、笑っていた。わたしは、空気が読める子だったから、いっしょに笑った。


 彼女は、イジメのリーダーだった。


 次の夜から、わたしの家の玄関に黒い影はあらわれなくなった。


 ひと月たった。あの子は、学校に来なくなった。先生が、おうちの都合で転校したと言った。


 その夜、黒い影は戻ってきた。


 少しだけ影は濃くなって、少しだけ家の中に入ってきた。

 それから、夜だけじゃなくて、うす暗い雨の日のお昼にも、黒い影は見えるようになった。


 今まで、ぜんぜん怖くなかったのに、黒い影を見ると、怖いと思うようになった。黒い影は、だんだん家の中へ入って来ている気がした。


 高校生になる頃には、黒い影はリビングのテレビの裏に座っている。一番、目につく場所なので、わたしはテレビを見なくなった。


 黒い影から離れられるように、遠くの大学を受験して合格した。一人暮らしをして、気楽な学生生活を送った。そして、大学を卒業して実家に帰らず就職した。


 たまに、実家へ帰ると、黒い影はリビングにいなかった。いなくなったのかと思ったら、階段の途中にいた。


 どこが目的地なのだろうか?


 今夜は、婚約者が実家に挨拶しに来てくれた。両親と、和やかな夕食を済ませた。彼が、わたしの部屋を見たいと言うので、二階に案内した。階段に、黒い影はいない。


 わたしの部屋の照明のスイッチを入れると、部屋の真ん中に黒い影がいた。


 わたしは、黒い影を無視しながら、冷や汗が止まらなかった。黒い影は、立ち上がっていたからだ。座っている時は、わからなかったが、大柄な男の影だ。こちらをじっと見ている気がした。


 階下から、母がわたし達を呼ぶ声が聞こえた。わたしと彼が、わたしの部屋を出ようとした時、声が聞こえた。


『ソイツハ、ヤメテオケ……』


 その夜、彼は仕事の都合で帰ってしまった。わたしは、わたしの部屋で寝るのが嫌で、彼が泊まるはずだった客間で眠った。


 ひと月後、わたしは彼と別れた。彼は、理由を言ってくれなかった。それから数日後、彼は会社を辞めて連絡がつかなくなってしまった。

 わたしは、会社を辞めて実家に帰った。わたしの部屋から黒い影はいなくなっていた。



















 今日は、わたしの結婚式だ。


 夫は、とても誠実な優しい人だ。彼と結婚できて、とても幸せだった。


 楽しい新婚旅行から、新居に帰宅した。新居の玄関に、黒い影が座っていた…………。










お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ