②
帰宅途中、雨に降られた。
所謂ゲリラ豪雨というやつだ。傘が役に立たずびしょ濡れだ。しかも、カミナリまで鳴り出している。
今日は両親が旅行で、俺一人だ。コンビニ弁当とビールで夕飯を済ませて、風呂に入る前に歯を磨く。
雨は、長く降り続いている。洗面所の小さな窓に稲光が映り、フラッシュのように明るくなった。
いきなり停電した。
雷の落ちた轟音が、後から聞こえてきた。歯を磨きながら弄っていたスマホの画面が、明るくまわりを照らしていた。鏡に向かい、蛇口がよく見えるようにスマホを置いた。
停電は、まだ続いている。
何気なく、鏡越しに背後を見た。ぼんやりとした明かりに照らされた洗面所は、いつもと違う場所のようだ。どこの家もだいたいそうだろうが、洗面所の反対側に洗濯機が置いてある。なんだろう? それが、妙に気になるのだ。鏡に映る洗濯機に、視線を合わせたまま、口をゆすごうと前屈みになってときに見えてしまった!
洗濯機の蓋の隙間から、何者かがのぞいている…………!
歯を磨いている途中だ。口の端から液体が垂れる。口をゆすぐためには、目を離して下を向かなければならない。が、目を離せない…………。
三人家族用の小さめの縦型洗濯機に、大人の入れるスペースは無いはずだ。
いつの間にか、子供が入り込んだ? そんな事はありえない。戸締まりは、きちんとされていた。
それに、どう見ても大人の男だ。隙間から、目元しか見えないが、そうだとわかった。わかって、わからなくなった…………。
洗濯機の隙間から目元しか見えないのはおかしい! 頭部があるべきスペースと、蓋の隙間が合っていないのだ!
世の中、訳のわからない得体の知れないものほど恐ろしいのだと知った。
シャンプーで髪を洗い、ゆすぐ時に、目をつぶり無防備になる時が怖いと言っていた、あいつを今は笑えない…………!
ひたすら、シャコシャコと歯ブラシを動かし続ける…………。
突然、パッと、明るくなった。電気が復旧したのだ!
パタン。
小さく蓋が閉まる音がして、気配が消えた。
俺は、恐るおそる振り返り、慌てて洗濯機の蓋の上に、体重計と洗濯カゴを乗せた。中をのぞく勇気は無かった。
焦りながら口をゆすいで、洗面所の電気をつけたまま、風呂にも入らず寝た。
翌朝、洗濯終了の電子音がした時に、昨夜の怪異を思い出した。
今朝はいい天気だ。風呂を沸かしなおして入り、洗濯物を洗濯機に放り込んでまわした。鼻歌交じりに朝食を食べた後、洗面所て歯を磨いて、リビングで伸びをしている時、電子音を聞いたのだ。
ビール瓶を片手に、そっと洗濯機の蓋を開けたが、脱水された洗濯物以外何もなかった。
そういえば、俺は洗濯する時、蓋の上の体重計と洗濯カゴをどかしただろうか…………?
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