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クリスマスネタのゆるい感じのホラーです。
「マ~マァ! またないよ! うぇ~ん。うぇ~ん」
朝から娘の泣き声が、支度であわただしいリビングに響き渡った。
「えー? 本当に?!」
「あさ、はやくきたのに!」
「何だ? またか?!」
「嫌ね。気持ち悪いわ」
今年、ちょっと奮発して、木製のアドベントカレンダーを購入した。クリスマスツリーを模した外国製で、日付け入りの引き出しの中に、小さなオモチャやお菓子が詰められいるものだ。小さな引き出しに入るオモチャやお菓子を詰め直せば来年も使える。
四歳になった娘は、毎朝起きると一番にその日の日付けの引き出しを開けて中を見るのを楽しみにしていた。
しかし、十二月も中旬になってから、つまり、クリスマスまであと、十日になった頃、娘が開ける前に引き出しの中身が消えるのだ。
最初は、娘の勘違いかと思った。まだ、四歳になったばかりだ。先の日付けを開けてしまったとしてもしかたない。
ところが、娘は泣きながら間違えて開けたりしていないと主張した。困った私は、娘では届かない場所にアドベントカレンダーを置いた。
そして、マスキングテープを残りの引き出し全部に貼ったのだった。
翌朝、マスキングテープははがされていないのに、中身が無くなっていた。私は、怖くなった。マスキングテープを貼る前に、中身が入っているのを確認したからだ。
マスキングテープをよく見ると、一度はがして貼った痕があった。主人と相談して、師走の忙しい時期に玄関の鍵を変えた。
あれから、クリスマスアドベントカレンダーは処分した。年末大掃除のゴミと一緒に捨てた。
もったいと思うなかれ、むしろお寺にお祓いに持って行った方がよかったかもしれない。
でも、お寺にクリスマスグッズをお祓いしてもらうのも気が咎めた。とにかく、早く手放したかったのだ。
幸い、呪われたりしなかった。翌年のクリスマスからは、何事もなかった。
娘は、小学一年生になった。二学期の終業式から帰ってきた娘は、私に作文を手渡した。
作文は、『たいへんよくできました』の赤いハンコが、題名の上に押されていた。
『クリスマスの思い出』
一年一組 くりはし まゆ
わたしのクリスマスの思い出は、小さなころの思い出です。
わたしは、まだ四才になったばかりでした。お母さんが、クリスマスのカレンダーを買っくれました。毎日、一つ引き出しをあけると、中におかしや小さなおもちゃが入っています。さいごの引き出しをあけると、クリスマスになります。
わたしは、毎朝おきると一番に引き出しをあけに行ったそうです。それくらい、楽しみでした。
だけど、わたしより先に、だれかが引き出しをあけるようになりました。お母さんかもしれないし、お父さんかもしれないと思いました。
でも、お母さんもお父さんも、そんなことはしていません。
だから、ふしぎでした。毎朝、一番に引き出しをあけにいくのに、先にだれかがあけて中のおかしを持っていってしまいました。
クリスマスの朝、お母さんがテープでとめてくれた引き出しもあけられてました。わたしは、悲しくなって泣いてしまいました。
わたしが泣いていると、赤い花びらが、たくさんおちてきました。お母さんはびっくりして、
「きゃあー!」と、さけびました。
お父さんも、お母さんの声にびっくりして、トイレからとび出してきました。
それから、バラバラなにかおちてきました。たくさんのおかしと、小さなおもちゃがたくさんでした。
「メリー、クリスマス!」と、だれかが言いました。
お母さんでもお父さんでもない、だれかが言いました。わたしは、サンタさんだと思いました。
お母さんと、お父さんは、ちがうと言いました。サンタさんからのプレゼントを、お母さんがあずかっていたからです。
でも、わたしはサンタさんだと思いました。
おしまい。
原稿用紙二枚分の娘の作文は、小学一年生にしては、素直なしっかりとした文章だった。内容については、もうあきらめた。
娘の中で、あの『血まみれクリスマス事件』が、よい思い出に変換されていて、良かったと思うしかなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。




