1話 終電とはじまり
小説を書くのは初めてです。アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。
ガタンゴトンと無機質で無神経な走行音が、静かな車両内に虚しく響く。
遠くには薄ぼんやりと、切なげに光るコンクリートジャングル。眠らない街─大東京シティ─が随分と小さくに見えるのは、きっと距離のせいなのだろう。
電車は、しんしんと降る粉雪を遮るかのように進んでいく。窓に当たった雪の結晶が次々と溶けていく様は、見る人にどことなく寂しさを感じさせた。
そんな車両にただ一人乗っているのは、死んだ魚のような目に、深淵のような隈をこしらえた若者。
(人生しんどい)
そう、彼女は真の社畜。
社畜の中でも社畜を極めた、類稀なる社畜である。
◇◇◇
(おしごとやめたい)
現代社会の闇の擬人化のようないでたちの彼女は、名前を「佐藤幸」という。
「幸」という名前から醸し出るほんわかとした雰囲気とは裏腹に、随分とどんよりな雰囲気を体いっぱいに背負い込んでいる彼女。
悲しいことに数年前の就職活動で黒と白を見極めきれず、お世辞にも風通しが良いとは言えない企業に就職してしまったのである。
毎日のように繰り返されるサービス残業、偽りのタイムカード。残業手当なんていうのが付いたのは最初の三ヶ月までだった。
人の良さに付け込まれ、上司から仕事を押し付けられるようになったのはいつからだっただろうか?
(──まあ、引き受ける私も私で悪いんだけどね)
スマホの電源を付けると、時刻はもう深夜の一時を回ったところだった。
はぁ、という溜息ととともに電源を落とす。明かりが消えた液晶には、やつれにやつれまくった自分が映っている。
今月……いや今年に入って、定時どころか日付が変わる前に家に帰れた記憶がない。
みそっかす程度の給料に見合わない仕事量の多さ、上司の理不尽さに、幸の心は限界まで擦り切れていた。
(もう全部投げ出してどっかにいっちゃいたい気分だ)
少し前に仕事を辞めることも考えたが、親の制止を振り切って上京し就職した手前、今更そんなことは出来ない。
(お母さんの話、もっとちゃんと聞いておけばよかった)
後悔先に立たず。もう時間は戻らない、と自分に言い聞かせるが、どうにもセンチメンタルな気分になってしまう。
とてもうるさくて、門限に厳しく心配性だった両親や兄弟。
煩わしくて面倒臭くて、それに加えて田舎臭さが嫌になって家を飛び出した数年前。
……でもあの頃は、その口うるささには優しさがいつも隠れていることに気付いていなかった。
みんな元気でやっているだろうか?大きな病気にかかってはいないだろうか。この前の大きい台風で、土砂崩れなど起こしていないと良いけど……。
目を閉じると、父と母、兄弟たちの顔が次々と頭の中に浮かぶ。
(なーんにも親孝行、出来なかったな)
そう考えると、急に申し訳ない気持ちになってきた。
よし、今度奮発してプレゼントでも買って、里帰りしようか。うーん、何をあげれば喜ぶかな。歓迎してくれるかな……
そんなことを取り止めなく考えていると、私はつい、眠りに身を委ねてしまっていた。
そう、のんきに居眠りしてしまったのだ。
──まあ、しょうがないことだろう。
この後、親孝行どころの話ではなくなることなんて、頭の中に一ミリも浮かんではいなかったのだから。