悲しいけどこれ、フラグなのよね。
宴会というのは準備する側、企画する側かなりの負担を強いる。いや、突発的なものであればその限りではないのかもしれないが、少なくとも俺は今この目の前に広がる惨状について同行しないといけないと思うと頭がいたい。
「ふみゅ…zzz」
酒瓶を抱えて眠る見た目的にアウトなマーリン、
「じ、侍従、長。」
「なんでしょうか?」
「水。」
「かしこまりました。」
同じく見た目が小学生な上にホムンクルスゆえに不明な年齢を王様になるためだけに、本当にそれだけのために成人式が済んでいると一般に言われる年齢である十六以上に設定、登録したモードレッドに至っては、見た目通り未成年での発酵した何がしかの飲料を飲む事を禁止している法にバリバリ触れているような気がする。
とりあえずまともな状態の俺と侍従長とアーサーちゃんでこの屍の山を片付けることにした。
「アハハハッ!」
「うボア!?」
酒が飲めない腹癒せにたらふく食ったもののそれとは違うベクトルで重い腰をあげようとするとは後ろから物凄い衝撃と柔らかな感覚が背中を包む。
見ると静かだなと思ってはいたがこの前のことで懲りたであろうアーサーちゃんがべろんべろんに酔ってくっついてきていた。重い、女性的な柔らかさと少し前よりは落ちたが戦う人間特有の柔軟さと剛健さのようなものを感じるがいかんせんそれから力が抜けしなだれかかってきているような感じで重く感じる。と言うか腰に器用に手を回したまま寝てるし、これでは転移魔法が使えない上に恐らく剥がすのは不可能だろう。
「あぱー」
「うんとこせ!?」
再度立ち上がろうとするとまたもや、今度は横からの衝撃。俺は知らぬ存ぜぬを通す事を表すように口笛を吹く侍従長に恨み言を言いつつ横から飛んできたモードレッドを抱え、アーサーちゃんを背負い、ついでに小夜やマーリンを転移魔法で各部屋に送りつけつつ徒歩で二人を運んでいくことになったのであった。
俺はこの時気が緩んでいたのだろう。タヌキチに自動防御を厳重にしておくように言うだけで武器や戦闘用の装備の類を全て影に置いておいていた。
「貴方様が二人を襲わないようついていきます。」
「なら持ってくれてもいいんだけど?」
「あら、女性に女性を担がせるなんて、紳士的ではありませんね?」
「ぐぎぎ…」
理論やなんやと話すものの男性であれ、ジェントルであれと衛兵学校、孤児院、ついでに前世でも過ごしてきた俺はそれを断りきれず、店の人に残りの人たちの対応を任せ、追加料金を払いながら侍従長を伴って外に出た。
月の隠れた新月でも街の街灯によって視界の確保は容易であり、特になんの苦労もなく王城に着く。そう言うはずだった。
「あーあー、ブロントがいればちょっとは楽に・・・なりはしないか。」
「そうですね、あのお方が女性にマトモに触れる確率は極めて低いでしょう。」
取り留めのない話をして居ないと寝てしまいそうで、意識はかなり分散して居た。
道半ばほど、王城に近ずくと気がつけば周囲に侍従長以外の人影がない、夜も更けているが奇妙なのは衛兵や夜の警備当番なども居ないこと、遅まきながらその違和感に気付いた時にはもう遅かった。
ずぶり
あいにく少々の物理防御と魔法防御のついたただの布製パーカーは金属鎧と違いなんの抵抗も、防御力すら無い薄い生地故に刃が完全に貫通する。ワンテンポ遅れて左腕の自動防御が指した相手を吹き飛ばそうとするが、なんと液体であり再生力に高い魔法生物である筈のヘクトアイズの体を魔法的に分断した。
いや、正確には切り取ったと言うことだが。
考えてみればそうである。俺の体はいくら生身とはいえそこらの金属より強靭だし、魔力の回転だって怠って居ないわけで、身体強化は完璧になされて居た。それを切り裂くのだ。
「グッ!?」
どうやら刃は複数本あるらしく俺の腹には忌々しい直剣が刺さったまま、しかしタヌキチを斬りつけているので少なくとも二刀以上の使い手だ。俺は傷から剣を抜き回復魔法をかけるが呪いでもあるのか魔法が患部に使用できない、タヌキチは本体でなく周囲の水分と粘液だけの人間でいうなら脂肪部分だけを切られたようで、それでも警戒して引っ込んだ。俺は少々強引にモードレッドとアーサーを侍従長に投げそれをキャッチするのを見届けて転移させる。
二撃目を掌底で逸らし単純な光魔法と解析を使用
「なにもんだ?」
「・・・・」
背面からの攻撃を正確に逸らされたことに少々の動揺を見せたものの俺がそちらを向きながら質問してもダンマリだ。
解析は相手が女性であること、消音や迷彩系の魔法使用痕から恐らく暗殺者だと推定、武器は刃渡り50センチくらいの直剣のようなダガーのような取り回しが良い短剣もどき、刀身に呪殺系の魔法文字で圧縮された魔法が刻まれており、俺を刺した方と彼女が今手に持っているものでこうかはちがうようだ。
黒いボロの様なローブの様な物を纏った彼女は音もなく再度踏み込む。一撃で葬れず、二撃目はいなされ、正面先頭になってもかかってくるとはどうやら腕に自信がある様だ。
そこに同時に背後からくる飛来物を感知した俺はそれを掴み取りながら黒ローブのローブを剥がす様にして掠め取り相手の剣戟を避けたと思うと次の瞬間、転移独特の浮遊感に襲われ意識が飛びそうになる。
「ナッ!?」
「くぅ!?」
意識を保ったまま他人からの強制転移に甘んじ、次目を開けると俺は…
「いや、来ようとは思ってたけどさ?ちょっと急すぎね?」
「な…ぜ…」
少々身軽すぎるというか武器以外の装備品が水着みたいな幼女と、俗に迷宮と呼ばれる超構造体の中に、正確にはその一層目上空に投げ出されて居た。
迷宮というのは二種類あると言ったがここは設置型、つまり無機物型の迷宮、そしてこの青い空と、眼下に広がる平原から恐らくその中でももっとも人類の手が入り、それでもなお攻略できないでいるという難攻不落のダンジョン、『迷宮都市』の『大迷宮』内部、第一層であるらしいし、とっさに展開した局所的な聖剣の権能アーカイブスもそう診断した。
さて、次第に魔法効果が切れ恐らく自由落下することになるんだが・・・
「ちょっとそこな幼女、」
「・・・変態。」
ウワァ〜すごい殺してぇ、倫理観とか元からないけど、殺されそうになったら殺せが家訓だけど〜
「良いから、ちょっと早くこっちによってこい、死ぬぜ?」
「何を!?」
ここは第一層、初心者も通る素晴らしく安全な階層であると名高いが、魔物は確かに問題ないのだ。一番の問題は・・・
「此処は、『魔法禁止』の規則だ。」
通常よりもかなり早く消し飛んだ魔法陣が魔力の残滓を残して消える。・・・覚えたぞ、この魔力の波動・・・見つけ次第ぬっ殺してやる!
そして俺の新しい冒険はけたたましい、というかキーンと耳にくる幼女の泣き叫ぶ声で始まった。




