彼のいない日常描写!?『異界の巫女佐藤小夜の乱読日和』
紙をめくる音と札から生み出された光、その周りには数千や数万ではすまなさそうな膨大な数の本当呼ばれる装丁をされた情報媒体が並べられた本棚とあくせくとそれを整理して回る司書、
「はぁ…マーリンさん起こして来るかなぁ」
「あ、いってらっしゃいませ、小夜様。」
様付けされるのには慣れているがしかし、そこまで好きな呼び方ではない為少し曖昧な顔をして司書さんの見送りを受けた小夜は恐らく草原であられもない姿で寝ているだろうマーリンを引き取りに行くのだった。
「居た・・・うわぁ・・・」
マーリンを見つけるのはとても容易だ。まず街中で寝ていれば確実に人だかりや不審物を見る目で路面を見ているし、草原にいれば周辺の草木がこの世のものとは思えない幻想的に淡く光る草花に生え変わり、動物がすごいよって来ている。
最大の特徴は酒瓶で、彼女が倒れている付近まで大量に転がっておりそれを辿ればほぼ間違いなく泥酔しねむりこけるマーリン(見た目幼女)に行き着くのだ。
「同じ、性別の、女性的には、見習いたくない感じだ、ていうか杖が重い!」
それの脇に手を通し運ぼうとするのだが杖は杖の形をした異界なので持ち主以外にはほとんど持ち上がらない、そしてそれを酒瓶と一緒にガッチリと掴んで離さないマーリンが重く感じるのだ。
ちなみに今彼女は建速須佐之男命を神降ろしして運んでいるがそれでもひきづってしまう。
これも訓練の一環と思いやっているがそろそろちゃんとしてほしい、というか宿とかせめて街の中で寝てほしい、王城まで運ぶの本当に辛い、
「お待たせしました・・・いつも通りって感じね。」
「ええ、そうですね。」
「zzz…にゃへぇ。」
とりあえず街まで運ぶとそこには包帯まみれで松葉杖をつくジャンヌが立って居た。
彼女は短距離、正確には目視できる範囲でなら大雑把な転移が出来るレベルの魔法使いでもある。
脳筋的な巨大ナックルで敵を殴り殺したり、旗マントで精神防御したり、うっかり旗を使って民間人を護った時自身が効果範囲内にいるのを忘れて軽度の発狂状態になったりするような人間だが、それでも誰かを護るために何かできると言うのは人として尊敬できる。
なぜ彼女がまだここにいるのかと言うとまず一つに装備の新調、今回の騒動で装備品が無傷なのは既にこの街を出て依頼をこなしている聖騎士ブロントと月光騎士ヒミツくらいである。
次に怪我の治療、あの二人は自前の回復が強力で、しかも堅いというとんでも生物だが、彼女は肉体的にはただの人間で、魂にあの聖女との類似点があるだけなので、旗やその身の放つ神聖なオーラは一級品な一方未だ少女という印象を受ける彼女には技術的にも練度的にも魔法以外の攻撃手段はかなりの弱みとなっている。
ぶっちゃけあのナックルブンブンや砦ごと投げたとかの逸話は魔力を放出する事で生まれた怪力や、強化魔法、加速魔法、短距離転移などの魔法的な産物である。決してヒミツのような化け物レベルのやつのように、ほとんど自力で10から12メートルくらいあるような巨人に拳で風穴を開けたり、剣を振って鋭い剣圧を撃ち放つなど不可能なのだ。
「奇跡を。」
ジャンヌはマーリンと小夜と自分を魔力で包み、一節の詠唱ですらないただの祈りで王城のテラスあたりまで転移した。そこには既に侍従長が待機しておりマーリンをキャッチすると華麗に一礼してさっさと部屋に押し込むのであった。
「じゃ、私はこれで・・・明日はキチンと部屋で寝かせなさいよ?」
「あはは…頑張ります。」
既に協力者ではないが、なぜか馬があい王都にしばらくいるという事なので結構話をするが、彼女もなかなかに大変そうだ。何しろ、彼女の力の根源である神を、主を見つけてぶん殴ると公言しているのだ。復讐相手が、というかぶん殴りたい相手が実在するとはいえ神というのはなんとも大変だ。
彼女が今回の件に関与してくれたもの神の一端であるアレの重圧や性能を見たいがため、というところが大きかったようで、今は精神修行や精神防護の強化に急いんでいる。
「・・・はぁ、私もそろそろ覚悟決めないとなぁ…」
一瞬で転移した彼女の背中を見送りつつ、彼女はネックレス型の空間拡張型収納機から一冊のノートを取り出し溜息をつく。
それには『帰還ノート』と銘打たれており様々な帰還方法を調べ上げた結果が詰まっている。
その内容は賢者たるマーリンや騎士王にして大魔法使いのモードレッド、稀代の天災ホーエンハイムから『その手法のうちどれかなら必ず帰れる』とお墨付きをもらっている。
方法は多岐にわたり、最も有効だと考えられるのは神聖王国のやった生贄方式とあちら側の人間との置換、そして…
「『無限に近い魔力とその制御をできる魔法使いの確保』だよね・・・確実の上に確実を重ねたような方法は、」
つまりヒミツに頼るというなんとも情けない方法である。
これは恐らく誰がどの方法を検討してもそうなるだろう、誰かを犠牲にするならこの世界にもう少しいて自分を鍛えるという者もいれば、虐殺による解決などあの阿呆な国と同じだ。という者、少なくとも全員が日本人で、それなりの良識というものを持っている以上犠牲がなくて終わるのならそれが一番出し、犠牲が出るのならもっと探すとか努力をする。
あの勇者もどきはどうか知らないが少なくとも私や、服部君、神薙君はそう言っているし、担任である雪姫ちゃんもそういう正義感溢れる人たちだ。
現在、勇者連合会総勢41名は神聖王国に新しい政権を立て、宗教国家ではなく民主国家に仕立て上げ、その後始末の後にこちらに来るそうだ。
式やケータイでの連絡で既に方法については伝えているし、現にそういう感じの答えをもらっている。
問題は、その魔法使いが、ヒミツが…
「一向に目を覚まさないって事、かな。」
王立図書館では儀式による魔力消費の軽減やヒミツのような人間の形をした別のナニカのような出力を出す方法を探してはいるもののこの前のホーエンハイムの話から考えるにそんな都合のいい存在はそういないし、彼の存在はほぼ奇跡だと言い切れる。
テラスから一気に彼の眠る部屋に来て彼を見つめながら、ノートの内容を見返し、借りて来た他の書籍も手当たり次第に読む、が、既に彼が寝て20日ほどが経つ。
「死んではいないんだよね。死んでは、イザナミさんも何も言ってくれないし、天照様もいつか目覚めると言っているし・・・でもなぁ、いつかっていつだろう?」
そう言って彼女は朝昼夕のほとんどを王城内部のヒミツの部屋か書庫で過ごし、勇者ズが来て、ヒミツが目覚めるのを待っているのであった。




