彼のいない日常描写!?『騎士王モードレッドの華麗なる一日』
ばキリ
「あ゛〜」
「え゛〜」
折れた最新の筆記具鉛筆の芯が転がり、ほとんど同時に無駄に全面絨毯、土足厳禁の執務室の床に転がるアーサーとモードレッド、二人の目はどこか遠くを見ておりほぼ全身に湿布の様な物を貼り付けている。
まあ、やっていることと言えば事務処理と政務、禁制品取り扱いなどの新しい法案の草案作成、普通なら文官がやるような事を王様がしているのには理由がある。
「お茶をお持ちしました。」
「ありがと」
「ありがとうございます。」
最近モードレッドはヒミツに依頼して王都、ひいてはこの国の抱える病、所謂腐敗や癒着といった物を一掃するための掃討作戦を決行した。
そのおかげで王都内は随分とクリーンになり、金や物の流れがスムーズかつ健全になった。が、ここで問題が発生した。なんと、文官の約九割近くが世襲制のような形で親の仲介やゴリ押し、賄賂や癒着によって入ったものだったためそこまで切ってしまったのだ。正確に言えば親が捕まって芋ずるで釣り上がってしまったのだ。
本来、国土全てから集まった優秀な人材を厳正な試験と面接を経て文官として雇い入れるという方針だったのが、いつの間にか貴族専用になっていたり、色々な捻じ曲げがあり王様が交代する一瞬の隙やその前後にドサクサに紛れて通されてた腐り切った法の改正などやることは多いし次の文官の募集は夏の真っ只中だというし、何が言いたいかというと
「ぶつりてきにかずがたりなさすぎる…」
一応王制を採用してはいるが立法権も司法権もキチンと分立しては居る。だがそれ故王様であっても知らない情報が多くあり、モードレッドが就任したての時はほとんど彼女を担ぎ上げていた貴族が好き勝手していたのでそれもあってこんな悲惨な状態になって居る。というわけだ。
騎士王アーサーの力が弱まった空白の時代、その末から続いたこの無駄で、無意味で、腐敗した社会構造を破壊し、その真っ新な上に自分の力量で国を形作ると言う重圧も相まって、幼い見た目と同程度の体は眠気や疲労を発露させ描き上げられた全ての正式な書類を見ながら少し目を瞑った。
が、それを許す侍従長ではない、仕事が溜まればそのぶんだけまたやる気は削がれ政務への意欲は失われる。
「起きてください、まだ書類は半分ほど残っておりますし、判を押すだけの簡単なお仕事も終わっていませんよ?」
それをよく知って居る彼女はこの既に動く死体じみた呻き声をあげる二人の王族の口に本日一本めのマーリン謹製『ゲンキニナールZ』の投与を決断、その実態は強制覚醒と栄養供給効能を持つ栄養剤、と言う名の魔法薬、
「もごっ!?」
「むぐっ!?」
柑橘系のような調整された薬草とかなんかそんな感じの物が混合された液体が二人の体内に捩じ込まれる。そしてそれを飲みきると・・・
「・・・!?」
謎の痙攣、全身に余すことなく栄養を強制的に供給され、疲労を回復させる。
しかしそれには本来適度な睡眠や出来れば長時間の休息が必要不可欠、それすらも強制的に一瞬で行なって居るので精神的に走馬灯じみた時間認識の遅延を起こし、まるで長い間休んだかのような錯覚を起こす。
その走馬灯のような時間認識遅延の為に入って居るちょっとだけの致死毒によって現在痙攣が起きて居るのだ。
製作者曰く『王様なんだし毒の耐性もあって損はないからね!』とか、『大丈夫、およそ1%以下の確率でしかしないし。』とか・・・あれ?1パーセント以下ってやばくね?
「というかすいみんどうにゅうざいをいれれば・・・よかったん・・・じゃ?」ガクリ
「・・・グハッ!?」吐血
「・・・遊び心だそうです。」
人が死にそうな遊び心を存分に味わい約五分の意識不明状態の後、爽やかな目覚めとともにマーリンにされた落書きに気づかずしばらくまた殺人的な量の書類処理をするのであった。
『深淵を覗き込むとき深淵もまた貴方を覗いている。』
魔法を使うものにとっては当たり前のような格言だがモードレッドにとっては耳に痛い言葉だ。
もう暗くなった空を見て、ため息をつき、今日中に来た明日の分の仕事を終わらせた彼女は絨毯の上で倒れている自身の血筋上の母であり父であるアーサーに毛布を掛け、改造されたソファに運び寝かせる
モードレッド自身は扉を開け外に出て強固に封印措置を取られたヒミツの眠る部屋に入り思考する。
(邪神用に調整されていたとは言えあんなにあっさりと入り込まれるなんて・・・あまりに無防備すぎた。)
ヒミツの様子を少し見て意識が無くとも淀みなく回転する魔力と身に染み付いた過度に張り巡らされた自前の精神防護魔法、今は脱がされているが鎧にも対呪、精神防護、汚染回復などの耐性が着けられている。
寝ているだけだがそれでも彼の精神に細工を加えるのは困難を極めるだろう。それこそ邪神ですらこの上に加護が乗った状態の彼に干渉するには相当に彼を削らなければならないのだろう。
「はぁ…」
エクスカリバーと言うのは耐性、攻撃力、逸話あらゆる面において最高レベルの聖剣である。
それ故にその耐性と加護が貫かれると言うのを想像していなかった。想定していなかったのだ。
「ねようかな。」
ネガティヴな反省を活かし強固な精神防護をするようになったがまだまだヒミツほどではないのを確認し、少し凹みながらフラフラとベッドで眠るのであった。
翌朝顔を真っ赤にしたアーサーとなにか遣る瀬無い顔をした小夜がヒミツの寝ているベッドにモードレッドが寝ているのを発見したのはきっと政務によって思考力が低下していたせいだと思う。




