彼のいない日常描写!?『花の魔導師マーリンの素敵な1日』
燦燦と降り注ぐ日光、小鳥のさえずりや大きな朝の市場から食材をいち早く仕入れ運ぶ荷馬車の音、少し生ぬるい様な、夏の始まりの風、花の賢者たるマーリンは草原で寝ていた。
「ニュフフフフ…」
周囲に転がる夥しい数の一本1.5リットル、定価銀貨一枚と言う大量生産される類の安酒の空瓶、勿論ヤケ酒などではない、純然たる毎日の光景の一部である。
周囲には彼女の杖と魔力に当てられた植物や地面が花咲き乱れさせ、ちょっとした花畑程度の領域を広げているがその合間合間どころか花と瓶の比率で言えば瓶の方が多いくらい散らかっている。
「フヘヘ…」
しかし、その中央で眠る人物は未だに腕の中に酒瓶を抱えておりヨダレを垂らして幸せそうに、ダメ人間的な幸せを噛み締め、咀嚼し、日常のサイクルに取り込んでダメ人間らしくだらし無く、非人間的な幻想さと相まって少々常人には厳しい空間を形作っているのであった。
しばらくして、草原には彼女を迎えに来た小夜がいつも通り服をはだけさせながら外で酒瓶を抱えて寝る少女を唯一と言えるマトモな日本的物品の一つ、スマホにて一向に迎えに来ないクラスメートへ嫌がらせついでに写真を送ると、その首根っこを掴んで引きずりながら、街へと彼女を運ぶ。
この時すでに王宮魔導師と呼ばれる研究職の人間や日々懸命に生きる人々であれば、今日の仕事の打ち合わせや論文の推敲、それら雑多で活動的な動きをして久しいのだが、なんということか、彼女が起きたのは1日に四回なる鐘の2回目、つまり昼頃だった。
「う、うーん、頭痛いなぁ…」
身体機能の多くが人間のソレを隔絶している彼女は肝機能やなんかもぶっ壊れである。まあ、最も可笑しいのは性的なサムシングであるが、魔法使いにとってその分の機能の多くは魔力の精製に回されるためそういった欲求は抑えられる。
ゴクゴクと水の様に起き抜けから酒を煽り、虚空から出した干した塩ずけ肉を取り出して齧ったり、舐ったりする。
「フゥ〜、とりま寝坊助の様子でも見にいくかな?」
一応彼を心配してはいるが恐らく今回も前の時と同じ魔力欠乏と同じ様なものだと考え、診察結果もその様な感じだったのでマーリンは5日に一回くらいの頻度で酒を補充したり、新しいツマミを補充するついでに見舞いに行ったりする。
実際には加護によって生き繋ぎながらバキバキになった精神体を修復し超再生じみた自然治癒によって無理矢理に肉体を強化するという馬鹿げたことをしているのだが、それでも死なないと確信しているマーリンは他の者よりも彼を、彼のデタラメさを信じている。
彼は今、王城にいるので居残ってこちらで直接政務補助をするアーサーや円卓の騎士を集めた会議や、邪神の爪痕である大量の邪教信仰者、禁呪の書物、禁制品などの処理や復興に追われるモードレッドを尻目に酒を煽り、彼女らを煽る。
それを最終的に侍従長が止め、執務室から追い出すのである。
「政務の邪魔はおやめ下さい、賢者マーリン・・・(そう言えば例の件、該当する項目は王立図書館一般開放エリアにはありませんでした。)」
「はいはい、わかったよーだ。(サンキュ、引き続き最後に来たあの神様についての情報、よろしくね。)」
侍従長とマーリンは先の薬の件の時接触し、互いに利益をもたらす。というのを条件にマーリンは悪ふざけ用の媚薬や、栄養剤、魔法的加工を供給し、侍従長とモードレッドは彼女の持っていない初代から20代目のマーリンの行方やその分の記憶、知識の補完の手伝いをできる限りするという契約を交わした。
(なんか、気にかかるんだよね、あの台詞といい、言い残した予言じみた何かといい。)
素面でいる事がほとんどいない彼女だが、その実少々よっているくらいじゃないと周りの人間の感情や知覚できる膨大な情報が彼女の魔法制御や思考を乱す。
あくまで魔法使いではなく魔術師である彼女の根本は効率主義だ。刹那的な儚さや、享楽的な嗜好がないと言えば嘘になるが、少なくとも人間として破綻しているものの魔法使いにして魔術師、賢者にして愚者である歴代のマーリンの中では比較的、いや、寧ろ平凡すぎるくらいである。
ソレをわかっているがその一方彼女は彼女自身がそれほど才能に溢れていないという事を重々承知している。
ヒミツの様な運と特異な生まれを持ち馬鹿がつくほどの努力と生への執着に縋り『人間』や小夜の様に良家に生まれ才能に恵まれ神に愛されたと言えるほどの『天才』、ホーエンハイムの様に全てをその一点に注ぎ込み、理論と理性と知識を愛し愛された『天災』そう言ったある種突き抜けた人々を見れば羨むし、妬む、しかし自身を棚にあげることはしない、それが彼女であり、マーリンである。
「うーん、やっぱり機能的には全部回復してるんだよねー、強いて言えば左腕にいるはずのタヌキチちゃんから意識を感じられないことが異変と言えば異変だけど、ヒミツと強く、深く彼の一部として融合しているんだから彼の意識と一緒にどこかにいってる、っていうのも頷けるんだよね〜」
一応彼の寝る部屋に来たはいいが触診による精神体、物理体の両面に回復中であるという以外の結論は出ないことに辟易するマーリン、
「それは・・・まあ、そうですけど、そうだからと言ってあなたが草原で酔いつぶれていてもいい理由にはなりませんよ?」
そして、同じ診察結果だったとしても自分んがやったちょっとした賭けによって少なからず彼の消耗を大きくしてしまったのではないかと言う疑念を吹っ切れない小夜は、同じ部屋にいた。
勿論、目当てはゆっくりと呼吸を繰り返すも起き上がらない観察対象であり、簡易では有る物のパーティーメンバーたるヒミツで有る。
また、ここはマーリンが小夜に小言をもらう場でも有る。いつも通り飲酒のしすぎを注意する小夜だが、真の呑んべいは呼気すらアルコールを滲ませる。
何処かの死神の様な口調で
「知ってるか、小夜キチ、酒は、飲まずには、いられない。おーけー?」
と言って息を吐き多量のアルコールを揮発させることで生じるキラキラした何かを大量に発生させる。
「・・・しばきますよ?」ボワっ!
もちろん、そんな不健康な姿を彼女が見過ごすはずがなく、未だ白髪褐色のままなその体に炎を纏いゆらりと立ち上がる。
「あっは、じゃ、コンビニ行ってくるー!」
この後、昼は酒屋を荒らし回り夜は幾つもの酒場やキレイなチャンネーと遊べる的な場所をハシゴして、最終的に宿屋か王城の自室か、草原で酔いつぶれるのであった。




