夏の幕間祭り!ナゼナニ?ヒミツん!前編。
眠り姫となったヒミツ、その身に受けた損傷や大多数の後遺症はどれも残らず解決され、あとは目を開けるのみなのだがその間に彼彼女らの日常は進んでいく。
「ふあふあふーん!」
奇妙な鳴き声、それも女性の声、薄暗い洋館の中で聞こえたならほぼ確実に何かしらの怪異だが、古風で落ち着いた店内いっぱいに書物や工具、素材を広げて倒れた女性の可愛らしい欠伸だと思えばさほど問題は無い、多少奇妙な感覚を覚えはするものの総じてKAWAIIと言う言葉の定義内に入る。
むくりと起き上がった彼女はいそいそと片付けをする自身の作り出した自動人形に寝ぼけまなこで手を振りながら工房の奥、彼女の秘密の部屋の手前、いわゆるパーソナルスペース、私室にやってきてこれまた今の様な農民ですら、そこらの乞食ですら魔道具の一つや二つ持っている時代にそぐわない、もはや骨董品といっても過言では無い『薪のストーブ』に薪と火を入れ加熱されていく煙突以外の鉄板部分にフライパンを乗せる。
フライパンには鶏卵を二つ、厚切りの薫製肉を一枚載せて加熱し、並列して何故かこちらだけ最新の魔導式トースター(定価王国純金貨一枚)で焼き上げられる食パン二枚、少しいそいそと大きめの皿を取り出して焼きあがった食パンとこんがり焼けて脂をにじませる薫製肉、黄身が片方に二つあったのか黄身が三つある目玉焼きを盛り付けていく。
最後にこれまた魔導式冷蔵庫から取り出された冷えた茹でブロッコリーと千切りキャベツを適当に乗せ牛乳を取り出して箱の蓋を足で閉める。
向かった先は当然のごとく食卓であり、真っ白にテーブルクロスの上にちょこんと乗せられた花瓶の中で生き生きとしているマンドラゴラの不要部分である花が今日も懸命に根っこを生成している。
「頂きます…」モシャモシャ
バンダナを外しその長い金髪を豪快に広げ、まるで普通に朝食を食べる彼女はホーエンハイム、狂気の天才マッド錬金術師である。
「ご馳走様でした。」
食べ終わると食器を洗いに持って行きサッと洗ってしまう。それが終わると昨日から着っぱなしのツナギとかを自作の自動人形に渡しシャワーを浴びにいく。
「ふんフフーン♫」
何故かご機嫌なホーエンハイムは鼻歌を歌いながら髪を梳かし洗い、体の汚れなどほとんどないがその少しを見逃さずに洗っていく。
と、後ろに人影が
「ご機嫌だねぇ、ホーエンハイム?」
其処には全裸だと言うのに大事なところを全て謎の光と湯気でもって隠す正真正銘ロリババアがさも当然の様に湯船の中に居た。鏡の横にシャワーがあり、その後ろにこの世界では珍しい類に入る湯船が有る構造の風呂場はかなりの狭さの密室、気づかれずに入るなど転移でもできなければ無理だし、出来たとしても水という流体の中に転移するというのはそれなりの危険が伴う。
「っ!?」
ウッカリ魔道具のひねりを動かしながら悲鳴をあげる事なくマーリンに向けて高水圧の熱湯という超兵器と化したシャワーを浴びせる。
「アンwじゃははあっj!?」
口とか花とかに叩きつけられる熱湯と言う芸人もビックリな仕打ちに動揺し、あまりの熱さに絶叫し、ついでにその全てを高圧で打ち付けられる水によって封殺される。
結局、不意打ちしたもののビローンと伸びる頬っぺたとかリアクションが面白いというだけの理由でホーエンハイムに熱湯を浴びせられ続けたマーリンが解放されるのには五分の時間を要した。
いつものツナギを着てバンダナを頭につけ、大きめのモンキーレンチを担いだ巨乳美女とつんつるてんな魔法幼女が向かい合って座って居た。
「おはようございます。遅れました。」
「ヤァ、ヒミツの拾った勇者ちゃんだね!・・・うーん、変わったところは無い、かな…残念!」
「アハハ…」
「そんなことより、だよ、ホーエンハイム、ヒミツの左腕に一体何を仕込んだらあんなのになるのさ?」
遅れて着た。というか時間通りにその五分前に着た小夜も揃って、種明かしが始まる。これは既にヒミツが意識を失って15日が経った頃の話だ。
「まず、前提条件としてあの超常現象は私が左腕に組み込んだ結晶のみの力じゃ無いんだ。というか彼の武器と私が思いつきで組み込んだ魔力結晶石とそれを加工して出来た『魔力増幅炉』の組み合わせがそれこそ奇跡的なマッチングを起こしてあんな馬鹿みたいな力が引き出せたんだよ。」
自動人形がお菓子と紅茶とコーヒーを運んでくる。
「魔力結晶・・・アレが?あんな巨大なものがかい!?」
「?」
わかって居ない小夜とその異常さに戦慄するマーリンと言う対照的な反応を見てひとまず魔力結晶についての簡単な説明をする。
「まず、最初に、魔力結晶というのは通常、5から10センチの円形もしくは結晶状の宝石で、魔力を蓄積し増幅すると言うトンデモ物質なんだ。」
「へぇー」
魔力という単語やそれの増幅とかについて説明を求める事なく、要するに充電池兼アンプの様なものだろうと納得した小夜は恐らくここから話が全然分からなくなるだろうと思いながら茶菓子のクッキーをかじるのであった。
「そう言ったって、だいたいがその5から10センチの大きくても20センチの円形の玉が一般的で、蓄積量はともかく純度が低いから増幅率なんて雀の涙さ、ところがどっこいあの馬鹿の左腕には一点の濁りもないそれこそ宝玉と言える様な純度の20センチかそれ以上の球体が一つに周りにランクは落ちるけどそれでも異常な純度の宝玉が五つもあったんだよ!?」
「おそらくアレはダンジョン型生命体ダンジョンマスターの核だ。それを全く破壊せずにそれこそ抜き取る様にして相手の体から分離させたものだろう。」
ほら、分からない、きっとそのうち目覚めるヒミツが解説してくれるだろうと信じて今はこの時間を、高校でいうなら化学の時間をひたすらに耐えるのだった。




