邪神の心臓4
全身鎧という装備の有用性を答えよと問われたならば普通に常識的に考えて防御力であり、その厚い金属板などで大部分を形成されたが故の対物理、防刃機能であろう。
「・・・」
全身の筋肉や血管、果ては神経までもがほとんど摩耗しきっており大凡立ったり走ったりできる様な状態でないはずのヒミツは今、この瞬間確かに走っていた。
ビチャ…
鎧の隙間からはおびただしい量の血が溢れ、溢れるがまるで中身の状態を無視した動きを見せる鎧、ヒミツの鎧には様々なギミックが施されているがヒミツが一番最初から注文していた機能はたった一つだけである。
「ぐ…ゴブゥ!」
口から血反吐を吐きながらもその身は止まることなく、右手が剣を取り落としそうになれば左手の、自身とは別の知性体が入った左手が剣を受け止めてくれる。
自律機能、この鎧には初期から自動で動く機能が搭載されていた。なぜその様な機構をつけたのかといえばそれはひとえに単独での行動、単独での継戦機能に重点を置いたからである。
良く、魔物や邪悪な妖精やらは死んでいないが手足が動かないという状態で獲物を放置し、巣に運んで食べたり、その様を愉しんだりするのだが、そういう状態に陥らないのが一番だとはいえ不意打ちというのは起こってしまう。
「がっふ…ぅぅぅ、女神様?聞こえてるか?」
《ハイハーイ!あはは〜超☆死にかけ!って感じだねえ?》
身体機能の回復より魔力の回復を優先させ回復した魔力で急速に自身を修復していく。しかし聖剣をフル稼働認め凡ゆる場所が疲労によって粉砕されていたり、左目の神経が焼き切れていたりと散々な状態である。
約30秒でその全てをほとんど無理矢理に修復したヒミツは改て戦況把握を開始する。
はるか上空から見下ろす様な視点で王都を見つめる。建物や王城本体などへの損傷は全くと行っていいほどない、またどうやら道中でもおかしいとは思っていたが魔物やら冒涜的なものやらがいなくなっている。
「む・・・」
王都の正面玄関であるこの正門の先に彼女らがいるのはわかっていたがどうやら俺に用がある人物がいるらしい、
ヒミツは踵を返して女神様と取り留めのない会話をすることで意識を保ちつつ王都の職人街のガーランドの元へ走っていく。その間も自身の内部構造を解析しながら効率的に強化、改造、再生していく。
(細胞レベルで魔力が混合してやがる。こりゃ純粋な人間じゃなくなったかもな・・・)
《アハハハハハ!バーカ!ヒミツば〜か、神様の一部分とはいえかなり本体に近いそれを切り裂いてあまつさえその血を浴びたんだよ!?かの竜殺しジークフリートは邪龍の血を浴びた程度で不死身の肉体を手に入れたんだ。君がそれに近い化け物になってないわけがないじゃないか〜?クハハハw》
・・・ムカつく、しかしその指摘は確かにそうかもしれないという確信めいた何かを俺に叩きつけた。が、それにしては傷の治りや体の損傷が多いしその治癒力とかそういうのはあてにしない様にしよう。
「来たか・・・これまたひでぇ格好だなぁ?えぇ?」
王都西側の職人街その最も大きな工房は今も絶えず稼働しており、中からは咽び泣くワーカーホリックもとい変態鍛冶師たちの雄叫びと勢い良く捻り潰される肉の音が響くがまあ、ここでは結構普通のことだ。どうせホーエンハイムも避難してないだろうし、この筋骨隆々の鍛冶バカとその弟子が数人いればそこらの国なんてイチコロである。
職人は人外、はっきり分かることはそれくらいだ。
「俺はその周りに転がってる死骸が全部素手で殺されている様な気がしてならないのが驚きなんだが?」
そして彼らのメインウェポンといえばその重金属で出来た金槌・・・・のはずなんだが、このジジイ、殴る蹴る以前にほぼ全ての化け物を握りつぶしている。
見ればその鍛冶屋の前掛けは血に染まり、死骸のほとんどに損傷がない、というか店の近くのやつに至っては今も解体され絶えず運び込まれている。
「おうよ!男は黙ってステゴロよ!・・・っとそんな場合じゃねえな、約束の品だ。ちょいと気合入れすぎちまって魔剣臭くなったがまあ大丈夫だろ。」
彼の作品はそのすべてが伝説的だ。鍛冶師としてほぼ全ての技能を生まれながらに持っていると噂のドワーフと巨人らしい無限に等しい寿命、それらを併せ持ち、長い年月を鍛冶場で過ごしそのことしかほとんど考えていなかった様な彼だ。作る作品はその細部まで丁寧に作り込まれ、術理と情念の完璧な融合とまで言える域に、いわゆる神匠と呼ばれるレベルまで届いている。
世にはこれ以上の鍛冶師がいるというが少なくとも俺には関係のない話だろう。
手渡された剣は強力な対魔符を貼られた聖布に包まれている。
「・・・・オイィ?」
「いやーちっと手が滑ってなぁー、」
そう言いながら地面に転がる化け物をちらりと見て逸らすという謎のこうどうをくりかえす。おっと、読めたぞ・・・鍛造に使った素材にこの邪神由来の素敵な素材を入れたなぁ〜、お兄さんわかってるでー?
下手な口笛を吹くジジイだが恐らく仕事は確かだろう。というか俺がここでのんびりしていても彼女らの殴り合いだ拮抗したままだというのに驚きである。まあ、俺はもうちょっと回復しないと戦力にもならないから少しのんびりしているのだし、そもそも影移動すればもっと早いし。
「ゴクリ。」
さて、現実逃避は此処までだ。俺は布を取り払い剣を握った。
刀身は白、恐ろしい位に白、一点のシミも無く一点のシミも許さないであろう純白だ。形としては通常のものより少し長く幅広いロングソードだが、白と金を基調にした芸術品の様な姿はまるで物語に出て来る聖剣である。
「銘は・・・そうさなぁ、『アンサラー』かの光神ルーの持つという魔剣の名を借りようかの!」
「へぇアンサラー・・・ねぇ。」
日本語では回答者、所以は主の期待に応える事から、らしいその名の通り働いてくれるといいんだが・・・
俺は手の中に収まるその奇妙に落ち着く重さを感じながら刀身に魔力を通す。すると奇妙な浮遊感
「なっ!」
「え!?」
瞬間、俺の身体はクトゥグアの力を振るう小夜とニャルラトホテップに抵抗し侍従長の拘束から外れ暴走するモードレッドの前に転移させられその切っ先は止める間も無くモードレッドを貫いたのであった。
「・・・アレの持つ効果は不明、代償も不明・・・ただ俺の考えあってればアレは真作に劣らない有る意味本物の『回答者』だろうな。」
切っ先は確実にモードレッドの心臓を貫いた。筈である。しかし、ながら此処では奇妙なことが起きていた。
「あ・・・れ?」
『ぐぅっぅぅっぁぁぁっっsっっ!?」
悲鳴は彼女の声、しかし当の彼女は切っ先をすり抜け膝から崩れる。
「は?」
《ほえー?》
女神すら呆然とする中クトゥグアを宿す小夜だけが全力を持ってヒミツやモードレッドをその場から引き剥がし周辺を自身の炎で取り囲んだ。
瞬間、空間が軋み、アーサーが正気に戻り、ヒミツはもう一度聖剣を解放しアンサラーを握り直す。
その視線の先、炎の檻の中には血の様な液体を胸から流し苦しみ悶えるモードレッドに良く似たナニカが此方を睨みつけていた。




