邪神の心臓1
そもそも、ニャルラトホテップは直接戦闘をするような邪神では無い、宇宙的恐怖らしい邪神の典型、と言うか暗躍によって混乱や恐怖を生み出すのを生きがいにしている。
今回、分霊であるにしても彼の一部が表立って殴り合いに応じた。と言うか殴り合いに持ち込んだと言うのには何か意味がある気がする。
それに俺も聖剣とかそこらへんの力とか代償で俺が削れる系の能力は極力使わない様に、て言うか全部出すつもりはなかったんだが・・・慢心かな、鍛え直さなければ。
じめじめとした地下空間、大量の魔物の這いずった後や踏みつぶされた死骸を消し去りながら王都の中心部に近づいていく。
すると少し広い空間に出た。俺はすかさず隠密体制に入り壁に体をつけ覗き込むように中を見る。
「いあ!いあ!くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ
にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!おお!我らが主神にして偉大なるクトゥルフよ!この都市を生贄にかの地を、かの海底都市におわします御身にあってみせます!」
「「「「いあ!いあ!くとぅるふ!いあ!いあ!くとぅるふ!」」」」
中では相当な数の邪教徒が形容し難い神像を崇め、その教主であろう人物は明らかに目に狂気の光が見えた。また、全員がネクロノミコンの翻訳写本を持っている。魔力を持たない様な者もいるが恐らく自爆目的、魔法使いは召喚魔法や触手を撒き散らしたりするのだろう・・・どうする、やるか?
《やったほうがいいだろうね、戦闘中に賞賛や生贄で強化されても困るし、何より、君が殺せば他の人が手を汚さずに済むからね。》
なんて嫌な事を言う女神様なのだろうか、今度あったらアイアンクローだな。
《えー、賢者の方にしてよ〜私痛いの不得意なんだよね〜・・・あ、でも君につけられた傷だって思うと・・・ウヘヘェ》
ダメダコイツ早くなんとかしないと。
駄弁っている間に全員の魔法防御を確認勿論邪神より硬いやつはいなかったので影に強制収納して暗黒空間にばら撒い・・・おっとこれは違うな、まあ、生物を受け入れない生命否定の空間で肉片になってもらうとしよう。
血やら本やらは触媒にされる可能性が高い、外に放り出していくのはナンセンスだろう。だが、俺の収納空間内で遠隔操作されても困る。早急かつ迅速に空間を切り離し接続を切る。
操作中も躊躇いなく通路を突き進んでいくが常に周辺に自動防衛用の魔力を五割キープしての強行突破だ。
先ほどの広場を抜けてからどうにも魔物や罠、そして何より空間の不安定さが上昇し続けている。
「っく!魔法的な仕掛けは見当たらないが・・・不味いな、あの邪神の領域が広がっている。ついでに俺の時間もそんなに無いか。」
《アハハハハハ〜君が何を代償にするか楽しみだね〜、あ、死にそうになったら無理やりにでも起こすから覚悟してね?》
相変わらず女神様は邪神じみているがこれでも通常運転どころか大人しいレベルだ。左腕を捧げるまでは本当にやばかった。定期的に会いに行かないと死にそうになるし、チェルシーとかと喋ると殺されそうになるし・・・ヤンデレは得意じゃ無いんだがなぁ…
今、ヒミツがやっているのはほとんど禁呪に近いすれすれのグレーゾーンクロよりである。
力の仲介をしているのが悪魔か悪魔の様な神様かそれぐらいの違いしかない、膨大な量の天体に蓄積された魔力をその身に受けることや、神話や逸話を一切持たない神に作られた神にごとき力を振りかざす正しく神器と呼べる武器の性能を引き出すために酷使され続ける脳や視神経、神経系、血管、筋肉、にかかる負担は体の物理的な損傷を、文字どうり寿命を削り、その命を着々と脅かそうとしている。
唯一悪魔と違うところといえば、あからさまに彼に対して仲介役が執着し、彼が望む限りどの様な形であれ彼を生かすであろうと言うことである。
道は進むごとに生物的な脈動やうねりを感じさせてくる。まるで生物の中に入ってしまったかの様である。
「王都地下にこんな神殿おったてやがって、よく検知されなかったな!」
バチュんバチュんと肉と血が詰まった袋が弾ける。無論それは元人間であり既に生気や魔力、果ては肉体すらも邪神に捧げた彼ら風にいえば殉教者という所だろう。そんな彼らは死して肉と血の様な不定形になりながらも彼らの信ずるナニカに仇なすものを感じ取り、それを押しとどめようとやってくる。
見ているだけで吐き気を催しそうになる醜く、歪な生命を感じさせる死骸の寄せ集めが、群れをなし、流れとなり、単純なその質量で押しとどめようとしてくる。
《うーん、あ、賢者が『それは彼を途中で見失ったのと同じ様に、こちらも彼の様に違う位相や次元の裏に全てを隠していたんだね!がんばれ!』だってー》
「他人事だなぁ!全く!」
実際、この世界の最終防衛機構である天使やら地表にいる神族の方々が動いていないあたりからこの程度世界の危機でもなんでもないというのだろうが、少なくともここに住んでいたり、この国に住んでいる人々にとって、この国の崩壊はそれすなわち今までの日常の崩壊を、ある意味世界の終わりを意味してしまう。
その感覚を神様に求めるというのも難しい話だが、この温度差が奇妙さを、異常さを感じさせてならない。
濁流の様な亡者の、血と肉で彩られた海を切り開きその先へとひた走る。
『・・・!ひ・つ、ヒミツ!聞こえる!応答しろ馬鹿!』
ノイズが掛かったマーリンからの遠隔会話魔法の発動を確認、どうやら念話が使える様な魔力の濃度ではないらしい、この単純な魔力のつながりを使用する会話魔法は凄まじい量の魔力を消費する。
「難しいことを言う、何の用だ。」
『用件だけ手短に行くよ!先ず一つ、ジャンヌの精神汚染耐性が抜かれた。今ちょっと発狂してて防衛が不安定になってる!』
「ウワァ最悪だねぇ!」
嫌なニュースだ。本当に、彼女自身矛盾してるからその辺が原因かも?だけどあんだけ精神系防御ガチガチだったんだ。それなりの理由があるはず。
『ふたつ目、ブロントがキレて聖騎士のくせに大量の従魔を出してほぼ一人で防衛をしてる。』
「て事はもう戦線が長くは持たないってことか・・・」
恐らく聖騎士の技ではなく彼の元から持つ素養なのだろう。それだけに奥の手、虎の子であるのは確実、消耗が末期になってきた様だ。
『最後!アーサーちゃん達からの伝言だよ!『上にぶち上げろ』だって!』
俺はその指示を聞いて口角が上がるのを感じながら通話中も追ってくる流体の様な粘体の様なしかばねの塊を弾き、消しとばしながら、ようやく見えてきた心臓的な構造物から伸びてくる触手を両手にもつ魔力を圧縮した剣で切りとばし、時には魔力収束砲で相手の意識を防御にそらしてさらに速度を高めた。
「オッケー!show timeだ!」
《フフフ・・・》
声高らかにこの惨劇の終幕であり最高潮を宣言しながら、魔力放出による放電が右目まで逆流してきたこの体の限界と生贄を考えながら。
嗤った。




