燃える三眼、這い寄る混沌3
最初に感じた違和感は空気だった。妙に重い、全身に糊をまとって居るかの様な感覚、転移したのはマーリン達を飛ばした先、王城の中心であり最も堅い玉座の間だがそこに避難してきたのであろう住民達の様子も可笑しい、
「どうなってる?」
「いや、君も今の格好考えたほうがいいよ?」
そういえばそうだった。と俺は毛布を影から広げ上に小夜を寝かせる。幸い息はあるし魔力も徐々に元の波形に戻って行っているが、その容姿は大きく変容して居た。黒かった髪はストレスからか、それとも恐怖からか色素が抜け白髪に、白磁の様だった肌は火神の魔力や神秘によって変容して褐色になって居た。
とりあえず布を上から掛け、左目での超解析をするが良い状況とはいえない、先ず前までは無かった歪みが相当な量発生している。
これはおそらく神降ろしの代償ではなく間違いなく旧主が彼女に降りた弊害だろう。
彼女の業は地脈やら風水やらを利用したモノで乱暴にくくれば『歪みの発生しない魔法使い』である。
一応この世界にも精霊魔法使いなど歪みの発生しない魔法使いはいるといえばいるので珍しいが希少なだけである。
いや、そうでは無い、問題は彼女がこれだけの歪みを一度に受けまともで居られるのかと言うことである。
「マーリン、微少女の汚染度はわかるか?」
「・・・グレー、だね、彼女の強度がわからないからどの程汚染されているのかはわかっても全体がわからない、あと君はそろそろその格好について説明すべきだと思うんだ。」
マーリンは水晶球でジャンヌとブロントを遠隔支援しながらこの王城に結界を張っている様だ。
マーリンの言う俺の姿というのは恐らく、明らかに青緑に変色した左眼とバリバリと青緑の稲妻の様なものを発生させている右腕、そして全身に走った魔力回路が紅く変色していることや伸びた髪、終いには左肩付け根あたりから発生する翠の粒子・・・なんだか描写して見ると『俺の考えたサイキョーのシュジンコウ』みたいで嫌なんだが上位者の意思とか、浪漫とかが詰まっているので気にしないことにする。
「まあ、モードレッドのメダロックも見た目変えるじゃん?あれみたいな感じだよ。」
「ふーん・・・ま、今は深く追求しないよ、今はね。」
有難い、既に俺の目は城下町王都で起こっているあらゆる事象を掌握している。今すぐにでも行きたかったのだ。
「んじゃまあ、死ぬ気で行きますかね、」
俺は影を触媒とした超広域殺傷魔法を片手間に発動させながら先ず最初に城下町で戦う見慣れないのになじみを感じる男女の元へ転移するのであった。
城下は地獄であった。火災や建物の倒壊は事前にやって居た対策が効いているのかほとんどない、そのせいで戦場が立体化し面倒になっているが、その程度どうとでもなる。
俺は聖剣から供給される月の魔力の自動迎撃を全体の二割に抑え残り八割を三割攻撃に五割戦況把握のための魔力による知覚範囲の向上に回す。
「フン!」
現れる敵の大体の種類は触手系二割に不定形三割、残り五割が犬型の怪物、またその多くが黒い粘性の体液や下水から出ている事からニャルラトホテップの顕現体がかなりの量入り込んでいるのがわかる。
俺は目の前に大量に現れた宇宙的恐怖を少なからず持っている雑魚供に対し魔力漏洩によってバリバリと稲妻を発生させている右手を握り強大な魔力の奔流でできた不定形、非物理の刃を形成し強引に薙ぎ払う。
真っ二つどころか断面や接触面からボロボロと崩壊する魔物供を尻目に俺は悠々と目的の人物たちへ近づいていくのであった。
「火力不足とか嘘じゃん!?」
マーリンは水晶球を通して彼の事を見て居た。しかしその圧倒的すぎる一撃とそれでいて一切外に魔力を感じさせないと言う化け物じみた操作を見て驚愕と疑念を持たざる得なかった。
(なんでこんな強力な力をかくして・・・いや、ないな、彼はそんな面倒臭い類の人間じゃない、多分何か条件があるはず・・・)
そうして彼女が思い至ったのは時刻だった。
(特定の時刻かつ何かを代償にしているからこその火力?だけどあいつの身体に欠損なんて・・・)
しかし、彼女はそこで高次の思考の片鱗を持つが故気づいてしまった。先ほど彼はなんと言っただろうか、
(『死ぬ気で』・・・っ!)
「アイツ!寿命を削っているって言うのか!?」
彼女がほぼ一瞬と言える思考時間でその真理にたどり着いたのと、寝かされて居た小夜の眼が覚めるのはほとんど同時だった。
「御名答、さすが賢者・・・さて、今回はどれくらいになりそうだ、女神様?」
《うーん、心がけ次第って感じかな?若しくは私に身体を捧げてくれれば今までのもチャラにしてもいいんだよ?》
昼を過ぎ、夜になろうかと言う時刻、陽はまだ少し残っているが既に空には薄っすらと月が見えている。
ヒミツは自身の左肩にボンヤリと現れた女神にごく当たり前に話しかける。
「・・・左腕だけじゃ不服かな?」
《勿論!私は君の全てを愛しているんだからさ!》
その笑顔は多くの信者が求めてやまないものであり、その寵愛を受けている彼にとっては少々狂気を感じさせられる顔だった。




