幕間:群像劇w
時ははヒミツ達が街を飛び出す前まで遡る。
「あ゛〜久しぶりにマトモな飯だ。感動だぜ!」
「ふん、久しぶりの程度が知れるな、酒精を呑むのが半世紀ぶりな我に比べれば可愛いものよ。」
彼らは破壊神を信仰する邪神教徒、もちろん酒場で飲んでいるわけでは無い、
「にしてもだ。ちと多過ぎだな。」
男の剣は血のような黒い液体に塗れその切っ先は浅黒い様な肌を保つ痩身の男に突き刺さっていた。
「そうであろうな、仮にも千の貌を持つとされるモノだ。邪神討伐より地道だがこう言った貢献もまた破壊神様の目に止まるだろう。」
この薄暗い路地裏と言っても人口密集地である王都、人の一人や二人は居るものだ。しかし周りには彼らの他には同じ様な黒い液体を撒き散らす木偶の人形ばかり、
「ま、金がもらえるなら良いさ・・・」
酒瓶を逆さまにしながらも王城の方向を見る男の目には巨大な歪みが見えていた。
「気になるのかね?」
「まぁね、どいつもこいつも運命が読めねえし、バカみてえな事象改変力の塊じゃねえか、近くに火のついた爆弾があるようなもんだぜ?」
そう言う男の双眸は特殊な五芒星の紋様を浮かび上がらせ、その先には強大な魔力、事象の改変力の最も観やすい部分即ち歪みが見えていた。
そのどれもが常人には理解しがたい波形を表し、その波形仮称として『魂』と呼ばれている。
彼の目はあらゆる不可思議なモノを物理からかけ離れたものを見る力がある。例えば、ある者は復讐と救済と言う矛盾を孕んだ願望ゆえか巨大な枷を掛けた燃える炎の様な形を、ある者はその謙虚さの現れか逆さ十字の様な形を、そして、ある者は・・・
「ッ!?」
少女だ何か得体の知れない少女の様な者が彼を見ていた。
「ぬ?どうかしたのか?」
「・・・」
可笑しい、自分の目は幽霊の様な薄弱な者は見えなかったはずであるし、そもそも魂と言うのもおこがましいその人間の持つ魔力の性質が意思を持ってこちらを見つめ返してくるなどあり得ない。
「一体何を飼ってやがる…ヒミツ!」
「・・・」
彼らがそれを知るのはそう遠く無い未来のことであった。
時と場面は変わってアーサー王城の王の寝室、過去自分も寝ていた玉座の次に居た場所の屋上から顕現した化け物を視て居た。
「なかなかに手強そうですね、」
彼女に任せられたのは王都の守護、最大戦力はモードレッドの円卓だが彼らは今国境付近や他国への大使として派遣されて居たり、この間釣れた貴族どもの征伐に駆られ三人ほどしか居ない、また、モードレッドにとって最も信頼できる。自分の留守を預かってほしいとさえ思える人物は彼女しか居なかった。
「はぁ・・・私にも鞘と聖剣があれば・・・いえ、辞めましょう、そんなことを考えても意味がありません・・・はぁ。」
自らが持って居るのは槍、それもその伝承以外は殆ど普通の槍である。
「絶対にかの聖人を貫いたものでは無いと思うのですが・・・まあ、逸話はそれだけで信仰を集めますし、有効に使えるでしょうね。」
巻きつけられた聖骸布を取り払い、出てきたのは一本の実直な槍、果たしてこれがロンギヌスなのか、それは定かでは無い。
「しかし・・…槍投げなんていつ以来でしょうか・・・」
少しだけ昔を振り返るもそれが数百年単位であることに軽くショックを受けウッカリ魔力を高めてしまったがすぐに抑える。そのせいか槍からバリバリと炎の様な稲妻が出て居るが気にしてはいけない、実際彼女は気にしなかった。何故ならヒミツの膨大な魔力による包囲網が揺らぎ一段階目の合図が出たからである。
「む…っフン!」
屋根の一部が踏み込みによりべコンとひしゃげるが槍は無事空高く成層圏近くまで打ち上げられた。その槍の運動エネルギーが落下に向く前に彼女は中空を踏みしめ空に跳んだ。
昔、彼女の円卓に居たいけ好かないイケメンがこう嘯いた事があった。
『水の上を歩けるのならきっと空も踏めるでしょうね。』
と、
「あの変態め、今はどこに居るのでしょうか?」
彼女の槍は中空でまるで時が止まったかの様に落下寸前で止まって居た。これはモードレッドによる付与魔法で、周りの時空間を完全凍結して居るだけである。起動は自動だが解除は手動である。
ここでようやく自身の槍に何かが混じって居ることに気づくが時は流れるもの、既にヒミツの魔力結界が解除されると言う最終合図が出て居る。
「ええい!どうにでもなるといい!」
今更どうこうできない上にそもそも魔法が得意では無い彼女は主導による固定解除とともに自身の渾身の力で槍を正確に蹴り飛ばしたのであった。
第三宇宙速度とかそんな感じの速度で衝撃波を撒き散らしながらも更に地面に向かって星の引力が槍を引き寄せる。殆ど普通の赤く輝く飛翔体としか捉えられないレベルに加速したソレはかの邪神の体をことごく引き裂き貫き、破壊せしめた。
肉体的な損傷は千の貌を持つが故に問題にはならないしかし邪神の余裕が無くなったのは自分の領域を形成してからのことであった。
『久しいなぁ、hdbすshび…』
「ッ!!」
瞬時に槍を投げ捨てるが本命ソレでは無い、
「『お主が現れればまた儂も現れる。どうりであろう?』」
髪を真っ赤に変色させ各種耐性を最高レベルまで高めてあると言うのにその衣服は燃え上が灰となって居る。
「何の用だァ!クトゥグアぁあ!!」
千の貌の一つでしかない彼は確かに全ての力を、ニャルラトホテップの力の全てを有しては居るが所詮分霊、最高の杖と言う名の小夜の体を使って居る正真正銘の旧主であり、自らの天敵と言う最悪の相性の相手を前に彼はわざとらしく三流の悪役の様な叫びをあげる。
既に勝敗は決して居る。自身の領域として今回選んだンガイの森はこの忌々しい火神に燃やし尽くされたと言う逸話持ちだ。
人間相手ならこの暗闇と森の生き物は非常に役に立つが、一切を灰燼と化す火神の前では無意味、目の前の少女がクトゥグアを讃える詠唱をするとともにいつの間にか燃え上がり既に崩れた下半身を見ることで知覚したニャルラトホテップの一部は口ではみっともなく叫びながら、今頃には王都で暴れて居るであろう自身の一部を思い浮かべて居た。




