昼は短し歩けよ俺氏。
「そういや魔物が活性化する頃か、ちょっと考えてなかったな。」
廃教会を出るとそこは町から遠く離れた森の中、前回来た時の方位磁針が狂っていなければ南にあるのだが…近くに大きな街があるわけでも無し、元の町からは物理的な距離で言えば100キロはかたいはず。チェルシーみたいな脳筋少女でもここまでくるのは難しいし、そもそも魔眼持ちでも無いので追跡は不可能である。
「ふーむ、どうすっかな。」
俺のいた町『キャメロット』は凄い辺境だが栄えてはいた。
理由は不明だが何故か居座っている旧王族と言う勢力、そして一辺境都市としてはあり得ない規模の兵力と超級冒険者や最北端の学園主席など意味不明なくらい豪華な顔ぶれの衛兵隊や魔導兵団、色々可笑しいがそんな過剰戦力が所属する組織が俺を追っかけてくるとか暇すぎである。
因みに何故そう思うかと言うとさっき吹っ飛ばした幼女の昨日の夜着けていた首輪に細工がしてありそれが彼処の旧王族の紋章だったと言うだけである。
と言うか王都から最も離れた都市が王都の次に栄えていると言うのはどうなんだ?東京と京都みたいな感じだろうか・・・て言うか確実にそうか旧王族と現王族その間には何か不穏な物があったりするのだろうか?
いや、まあそこではなく、今問題なのは『元いた街が辺境すぎて100キロ稼いだくらいじゃ全然次の町に行き着かない』と言う点である。本当はキャメロットの衛星都市まで馬車でいき、その後は古代の遺物である転移門か長距離を高速移動出来る竜車に乗るかの二択だったのだ。
それがおじゃんになり徒歩で移動することになった今、俺が出来るのと言えば歩く事と一応整備されている街道に出て馬車か竜車かを捕まえるか、のほぼ一択である。
「走っても良いんだけどそれはちょっとね。」
超人さを遺憾なく発揮しても大丈夫と言えばそうなのだが・・・こう、冒険感が薄れると言うか、と言うか転移を使わされた時点で冒険感ががががが。
「はあ、歩くか。」
超人さを発揮とは言ったもののこんな装備をして旅をするなど常人には不可能だし、転移も教会同士のラインがないと使えないと言う縛りはあるのだ。気にしてはいけない。
道中の危険については……ま、盗賊や上位レベルの魔物なら問題無し、超級とかになるとちょっと本気出さないとなって感じ。・・・俺を転生させた神かナニカはパワーバランスとか考えなかったんだろうか?
「ぶもおおおぉぉぉ!」
少々遠い目をしながら森を歩いていると横から猪にツノが生えたような生物が出てきた。
此奴はホーンボア、持ち前の突進力で角や牙に獲物を突き刺し仕留めると言う殺戮に向いたフレンズである。そういえば魔物は大概肉食でその多くが動物をベースとした生き物である。それを考慮するとドラゴンはやはりトカゲなのだろうか?
対処は簡単でギリギリで横に避けて首を落とすか、落とし穴、石の壁などで動きを止めて首を飛ばすか、である、それ以外もあるがこれを枯れるような冒険者ともなると基本一芸に秀でさらに多才で身体的に優れていることが多くなってくる、見切って切るなど朝飯前だろう。
「ほっと、」
「プギッ!?」
俺は今回剣を抜くのも億劫だったので避けて側頭部を拳で打ち抜きカマイタチの魔法で首を落とした。これで今日の飯は確定である。
「内臓とかはポイポイっとな!」
内臓とか血とかを地面に掘った穴に突っ込み肉と毛皮は影を触媒とした異次元空間に、掘った穴は埋めてしまう。
その後も森を歩いているだけだと言うのに度々凶暴化した魔物と遭遇するが難なく切り抜ける。薬草とか摘んだり魔法で隠蔽とかしてないからだろうか?それにしたってこんなに来るのはちとおかしい気がするな。
「キュ!?」
飛びかかってきたホーンラビットをキャッチし首を折りつつ探索魔法を発動、周囲を探る。
「あら?ゴブリンの集落?にしてはちとデカイな・・・キングとかクイーンとかか?魔力の反応も人間とかエルフとかじゃないし」
探知できたのは巨大な集落となって居るゴブリンの住処、巨大な集落の食料を賄うのは魔物や動物の肉であり魔物達の気が立って居るのもあいつらのせいだろう。
戦闘力としては一匹一匹はどうと言うことはないのだが集団になると本能的ながら的確な連携を見せて来る、ついでに言うと武器や罠、時には魔法を使う為駆け出しの主な死因であったり、群れを成せば上位冒険者や超級冒険者も命を落とす危険な魔物だ。
「ムムム、気は進まないが偵察に行くか・・・規則だしな。」
冒険者ギルドには常設依頼としてゴブリン駆除というのがある。常設依頼というのは文字通りいつでもある依頼でゴブリン駆除は薬草採取に並ぶ知名度と重要性がある。
さらに冒険者には最低限の義務としてゴブリンを発見した場合殲滅するか近くのギルドに連絡するかのどちらかをしなければならないと言う物があり、世間的にもゴキブリよりゴキブリしてる奴らを根絶やしにしようとする流れがある。
「うへえ、これは放っておくと溢れるんじゃ無いか?」
草木をかき分け隠蔽魔法を行使しつつ進んで行くと森が途切れた盆地の様なひらけた場所に出た。眼下に広がるのは探知した時よりも大きく感じるゴブリンの集落、更にくわしく探査する為久しぶりに呪文を唱える。
「『サーチ』っとな」
山の麓に広がる表層部分は問題ない、が山の内部まで洞窟化と言うか迷宮化してるな、ゴブリンの数は・・・よくて五千、悪くて一万、最悪なら表層にいるやつら以外全て上位種…うへ、人間とかエルフとか捕らえられてるな……壊れてないか心配だな。
異世界ファンタジーにおいてよくある話だがやはりゴブリンは異種姦による急速な増殖が特徴だ。同種でも増えはするが基本彼等は自分たちより強い魔力を持った生物に種をつけるか種を貰うかして自身の子孫を強化して行く、だから積極的な殲滅がされている訳なのだがね、
「とりあえず表層に生きた人間は居ないし麓にいるやつらも相手するのは面倒だし吹き飛ばすか。」
彼は片膝をついて屈むような体勢からゆっくりと起き上がり時刻を確認為懐から銀製の上等な懐中時計を取り出す。蓋の面には双月教会のシンボルで有る双子の月が描かれ開けた内部にはヒミツを表す神聖文字で名前が刻んで有る。
「午前十一時、むう、次歩くときはもう少しペースを落とすか。」
そういいながら懐中時計をしまい肉厚な刀身を持つ黒塗りの片手剣の様な物を抜刀し呟く。
「ドーン。」
ゴブリンの集落とも呼べた巨大な住処はまずその表層を吹き飛ばされ熱風をもって焼き尽くされた。