人の選択、人外の出会い。ブッチャケシリアスではない。
みしりと嫌な音がする。魔力というのはその密度で物理的な側面が出る事がある。今の音は彼女の体から鳴った物である。
「い…やだ。」
「そうか…」
彼女は息も絶え絶えになりながらもその目の輝きを、天真爛漫な笑みをその全てを捨て去り、体は地に這い蹲り虫の様に這いずりながらもヒミツの見下す様な視線を見つめて、睨んで答えた。
「守られるだけなんて・・・ごめんだわ!!」
もはや構図が魔王と勇者なのだが、彼は彼女の答えに顔を歪めた。
「そうか、そうか!素晴らしい!とても素晴らしいよチェルシー!」
威圧を解き、狂った様に笑う彼を見てもチェルシーの乙女パワーは、恋は冷めなかった。何故なら彼女は彼限定ながら心を読めるが故に、彼が自分に期待していると確信している。そして何より彼の新しい一面を見れたことに興奮を覚えて居た。
しかしヒミツは恐ろしいほどに期待通りだった彼女に恐ろしいほど冷徹に、キラーボールを投げつける。彼女は恐らく数年としないうちに自分を追い越す勢いで伸びるだろう。しかし、それはあくまで生きて居たらの話だ。
「だけど此処に今は居ない方がいい、今の君はとても素晴らしい勇気を不屈の意志を獲得したばかりなのだから。」
ヒミツの内心を読んだのか彼女は目を見開き、彼の余りに薄い展望を予感した。
「今は帰るといい。」
「ナッ!?」
短剣を使った教会から教会への転移、その応用、気付けばチェルシーはヒミツの接近を許しておりその僅かな間に魔力の充填と魔法陣の設置を完了したヒミツは、邪神と相対するには余りに未熟な、しかして前途ある若人を微笑みと共に元の場所へと送り返した。
青白い俺の魔力の残滓を見送るとパチパチと乾いた拍手の音がする。
「ふぅん、教会に聖人認定されてるって聞いてもっとお行儀がいいのを想像して居たが・・・・なんだ。同類じゃないか?」
振り返るとそこには見覚えのない短髪の女性が、いや、どうなのだろうか骨格や動きは女性的だと言うのに全くもって女性らしさを感じられない、ちっぱいだし。
ごっ
無言での攻撃、今のは拳圧によって圧縮された空気を打ち出すと言う離れ業、生半可な身体能力や技術で実現出来るものではない、よく見ると青筋がその端正な顔に浮き出ており、恐らく女性であろう彼女も勘がいいのだろう。
歪んだ空気を手刀で切り裂き目の前の人物を見据える。
「勘じゃあねえぞ?未来予知と神託、そしてわかりやすい視線の動きからの読み取りだ。月光の?」
黒である。大凡彼女の放つ神聖なオーラに似つかない黒づくめである。まるで火刑に処される魔女の様な、神の子として崇められ終いには槍で突かれて死んだ聖者の様な、相反する印象を受ける彼女は紅い魔力をチラつかせながらその身をシルエットから実像に変えた。
「ふむ、初めまして、ですね。聖女、ジャンヌ。」
そう言って俺は腰を曲げる。それを見た彼女は短く切り揃えらえた金髪を少し揺らしながらニヤリとして、お上品に礼をする。
「ふふっ、お噂はかねがね聞いておりますわ、ヒミツ様?・・・これでいいか?騎士崩れ?」
元農民というごく平凡な生まれの彼女はその美しさから大貴族の養子に迎えられそのどちらの家庭でも円満で楽しい生活を送って居た。
しかし、その日常は彼女が神の声を聞き、加護を受ける事で唐突に終わりを告げた。
彼女が神託を受け見たものは燃え上がる故郷と同じく燃え尽きようとする貴族の家、そして余りにも恐ろしい自分の運命であった。
その日からと言うもの彼女の世界は一変してしまった。自分の家族は態度を変えなかったが周囲の人々は彼女を畏れ、口々に『救世主』と『神々からの使者』とまるで呪いの様に囁いた。
彼女は苦悩した。奇しくも古の救国の聖処女の名を名付けられ、その旗という聖遺物を神からの授けられ、何をせずとも上がっていく自身の力と遠からずくる滅びに、そして彼女は決断した。
それが彼女、ジャンヌと呼ばれ崇められている救世主にして創造神の加護を持つ聖女の半生であり、加護を持つが故に神を憎む矛盾し、復讐に燃えながら世界を救う聖女の成り立ちだった。
「いや、なんというか噂よりも可愛らしくて驚いた。」
「そりゃあそうよ!なんなのあの噂!『城壁を軽々と持ち上げ悪党に叩きつける3メートル越えの巨人』って、弯曲どころか別の何かよ!」
しかしてその容姿は可憐な年頃の女の子、ちょっと言葉遣いがアレだが、強気な女の子という事で納得しておこう。しばらく世間話をする二人はまるで唯の騎士と可憐な村娘である。内容が邪竜がどうのとか、ゴブリンのコロニーがどうとか、それぞれがいた場所の魔物の分布とかで無ければ、本当に唯の世間話である。
ずっと立ち話というのもなんなので修道女を教会の長椅子に寝かせ教会を出て、この前アーサーちゃんと食べたところとは違う店に入って昼飯を戴く。飛行型タヌキチからみえる王城の様子や侍従長からの鋭い視線を感じながらどうしようかと考えていると、俺のおごりと聞いて大量にステーキを食べるジャンヌが俺に聞いてくる。
「で、あんた、あの子をどうするつもりなの?ねぇ?」
真っ直ぐと、返答次第ではどうにかされそうな視線を感じながらヒミツは答える。
「そうだなぁ…強いていえば俺よりも強くなって欲しいかなぁ…」
「・・・ハァ?それだけ?」
ブッチャケ彼女が俺の狂人モードで引かなかったのが一番の誤算であった。幾ら俺限定ながら感知能力やら読心術やら使えたとしても、あの子の心の強さとかそこらへんが異常すぎた。
まず最初の俺の魔力放出やら威圧やらで潰れなかったのが誤算だったし、俺の明確すぎる拒絶に対して心折れることなっかたのも可笑しい、確かに俺が思ったり、言ったりしていたことは事実だし、彼女の決断や心の強さには正直嬉しくなったけれど…
「そうだね、本当はあそこで振られるくらいに外道っぷりを見せるべきだったかなぁ?」
「・・・なんていうか、あんたは酷い奴な上に間抜けなのね。」
乙女心読み取り機は搭載されていないので、ラノベ主人公みたいな発言はしないにしても普通に一般的な男として、女心というのは理解しがたいヒミツであった。




