幕間:走れ少女よ猪のように。
猪突猛進、見敵必殺、修羅道とはこれこの事、最近覚えた身体強化術と防具の強化された性能、そして元からのスペックを活かし、恋?に破れ大泣きしたものの何処ぞの蛇の兄弟のような往生際の悪さというか、いいように言うとすればポジティブ、悪いように言えば脳筋な思考は
『逃げられただけでまだ何も始まっていないし終わっていない、そう!私の冒険はまだ始まってすらいないのよ!』
と言うの前向きな答えを出し、泣いていた二日分のロスタイムを失くすかのような、正に獅子奮迅、電光石火、ギルド長もビックリの速さで仕事やら装備やらを整え、ヒミツに目の前で消えられたあの日以来自身の中で完璧に育ち切った『ヒミツセンサー』と、言うなの恋する乙女特有の何かを頼りに少女は猪のごとく街を飛び出していったのだった。
この時、ヒミツセンサーのみ、つまり直感だけで突っ走った事で彼女が王都に、ひいては彼に会うまでにひどく時間がかかったのだった。
「あれ?ここ…どこ?」
彼が去ってから2日後、その時彼は強固に魔法的、そして地形的に隠蔽、迷宮化された森の奥地にあるエルフの里に居たのだ。彼を追いかけて来たはいいが、その思いをあざ笑うかのように魔法的な才能を持たないチェルシーは迷いに迷い、最終的になんとか突破できたものの時既に遅し、彼はマーリンと小夜を連れて出ていった所だった。
「ヒミツさんの行き先・・・です?」
「そうよ。」
しかしてこれで折れるチェルシーではない、直感でダメなら理論で有る。
すぐさま彼の泊まっていた宿屋の若き経営者兼超絶天才ケモミミ幼女こと、リーゼちゃんを運良く見つけ、ヒミツをダシに仲良くなり、愚痴を言いながら情報を収集したのだ。
「ふーん・・・確か、左腕の動きがおかしい時がありましたし、度々『王都に行く王都に行く』と言っていたので王都、でしょうね、それも職人街にいるのではないです?」
「左腕・・・?なんか聞かないといけないことが増えたわねぇ・・・」
ヒミツについて自分が知らないことを他人から聞くと暗黒オーラを撒き散らしてしまうのは乙女の嗜み、しかしてそれは同じような人種には効かない、リーゼちゃんは目の前でブツブツと暗黒面に堕ちているキャメロット産純真?乙女を見て内心口角を釣り上げたがそれを表には出さず優しげな風を装って話を持ちかける。
「・・・なんか色々積もる話もありそうなので馬車を手配しておきますね?」
(王都行きのとびきり面倒臭そうな客が乗ったやつを・・・ですがね。)
「ふぇ!?あう、ああ、ありがとう?」
意識が内面に向いていたためその思考を読めず反射的に礼を言ってしまうチェルシーは少し残念な子であった。
そしてそれ以上にリーゼはマーリンとよく似た小悪魔系女子であった。
「ふむ。」
(・・・超級冒険者、二つ名持ちの中で一番面倒なのが・・・)
うっかり(と言うなのリーゼの計略)により一日リーゼの宿に泊まったチェルシーが手配してもらった馬車の前で見たのは様々な祝福を受けた聖騎士装備と禍々しい黒い剣を携えた褐色に白髪の偉丈夫だった。
尖った耳から分かる通りエルフなのだが彼はハーフエルフと呼ばれる混血であり禁忌でありながら『無貌の神々』に愛され、その強大な力にほぼ全てを『タンク』俗に言う盾役としての力つまり硬さや体力、そして強力な回復魔法と光系魔法に注ぎ込み神聖王国で禁忌の子と蔑まれながらも神聖騎士団団長まで上り詰めた。
が、ある日突然『俺の怒りが有頂天!』と雄叫びをあげ神聖騎士団というエリート集団五千人を壊滅させ『この俺の怒りが収まることはない』と言い残し神聖王国を去り、今では各地で様々な伝説を創り上げる『英雄』でありながら謙虚に冒険者を続けている変人だ。
「あ、あの「何いきなり話しかけてきてるわけ?」・・・」
(どうしろっちゅーんじゃぁぁあ!我ぇぇぇぇぇ!)
その独特の言語センスから転生者を疑われているが、それはかなりどうでもいいことだろう。
問題なのは独特すぎて面倒なこととコミュニケーションを取れるように慣れるまで途方も無い時間がかかる事、そのため各地の冒険者ギルドには彼専用の窓口係がいるとか居ないとか・・・
とまあこのブロントという男は色々無茶苦茶なのだが、残念なことにその実力は認めざるおえないレベルであり、チェルシーのような超級冒険者も手を出せない、むしろガチで喧嘩して勝てる者がかなり少ない、のでチェルシーは時々放たれる『ブロント語』とでもいうべき奇妙かつ独特な言い回しを長々と馬車という閉鎖空間で聞かされることになり、ヒミツを追いかけて王都に着く頃には彼女の怒りが有頂天なのであった。
そして今、
「ヒィィミィィィツゥゥゥ…」
彼を発見したチェルシーはフシュルルと奇妙な呼吸音を出しながら何かを言おうとするヒミツに急接近し投げっぱなしジャーマンで空中に浮かせられたヒミツを容赦なくツームストン・パイルドライバーの要領で大理石製の地面に突き刺したのであった。




