依頼:『王城で来賓と王様の暇を潰せ!』2
体内の毒のほぼ全てを浄化、身体機能の八割を回復、変な動悸や脈拍の乱れ、ついでに生理現象全ての沈静化を確認、・・・念のため『魔法破壊』と『壊呪』を自分に掛け、漸く一安心という奴である。
「左腕に血管がなくてよかった。マジで。」
もし血管が通っていれば使い魔で、高度な知性を持つタヌキチとはいえ暴走しまた左腕を作り直してもらいに行かなければならないところであった。
むくりと毛布から起き上がり左腕から羽根の生えたタヌキチの単眼バージョン、いわゆる『アーリマン』形態、まあ悪魔の類は大概そう呼ばれるのだが、になってもらい王城のあたりの偵察をしてもらう。
「まあ飛行能力とかを無理やり付与してるだけなんだがね。」
さて、参ったな、アーサーちゃんがあんな恐ろしい作戦に出るなんて、まあ乙女を拗らせた彼女があのような強引な手を取るとは考えにくいし、あのような女性らしい体つきになったとはいえおそらくビジネスライクな理由でここに来たのだろう。今回の事は十中八九マーリンとモードレッドと侍従長が仕組んだ事だろうが・・・
(このまま戻ればまたあんなことになるかもしれんし、かと言って戻らなければ依頼は達成できない、そもそも依頼書を貰ってすらいないので受けてないという判定なのかもしれないがそれにかけるのは些か危険だ。それにあっちには超絶ウッカリな鬼畜魔法使いマーリンがいる。俺との魔力的な経路を調べられれば一瞬で此処まで来ると思うし・・・)
「う、ううーん?」
それにと、思考を今正に起きようとしている修道女に向ける。濃紺の修道士服に双子月の象徴、目を凝らせば神への祈りによって洗練された神聖な魔力と強い意志を感じさせる。
そういえば何にびっくりして気絶したのだろう、少なくとも俺に毛布をかける程度の余裕はあったようだが?
「ム?」
騎士兜が、フルフェイスマスクが外されている。便利魔法で視界やら呼吸やらについて困ったことがなかったが故の違和感の無さだった。そして俺の顔といえば・・・
「・・・あの、聖人様・・・ですよね?」
「・・・なるほど。」
詰まる所こういうことである。双月神や月に関連する宗教団体、更にいえば主に『双月の女神』や『月の女狩人』を崇める類の教会からは聖人指定を受けているのだ。まあ、だからフルフェイスを被っているというわけではない、単にオシャレで着けているだけだ。
・・・いや、ちゃんと認識阻害を発動させる為の触媒なので完全にオシャレという訳ではない、確かに顔丸出しでも認識をズラすくらいは可能だが、流石に微少女レベルのは無理だし、物理的に見えないと言うのが一番のポイントなのだ。
しかもこの少女、魔眼持ちだ。その証拠に先ほどまで銀色だった双眸は右目だけ水色に変色しナニカ歯車的な魔法陣を展開している。ぶっちゃけ神眼級の魔眼だ。そうでなければまず、俺を直視するだけで失明か、廃人になるからな。
で、話を戻すと・・・そうだな、アレだ。自分で言うとかなりの誇張表現だが、俺のような寵愛や加護持ちが目の前に現れると言うのは、仏教徒の前にブッダがキリスト教信者の前にキリストが突然降臨するようなものらしいのだ。
まあ、この世界では神と人は近しいし、かなりの幸運と人外レベルの思考レベルの高さが有れば、目で見ることも触ることも能うが、実際存在しているだけでその存在を近くに感じられる事は稀である。その存在の希薄さを取り去るのが俺のような聖人級の寵愛や加護を受けたものや聖遺物として遺された聖剣やらなんやらの伝説級の色々などであり、その中で生きている聖人というのは実はかなり少ないらしいのだ。
つまり、だ。
「ああ、なんと神々しい・・・あっ・・・」
俺が起き上がったのを見て近寄ろうとし、何故か気絶する少女、
「おっと。」
それを急いで受け止めるものの意識をフライアウェイしてしまっているので毛布をかけ、メットを被り直した。
因みに俺の短剣や俺自身からごく微量だが出ている月の魔力や加護、寵愛の与える独特の雰囲気に呑まれ、顔を隠したり認識阻害を掛けないと、倒れるやつが出てしまうのだ。
・・・総じて考えると神様からのお目付って相当日常生活に支障があるような気がするが、なければ死んでいるような場面もあったし、気にしないこととする。
「よし、じゃあ資格共・・・接近してくる高魔力反応!?速いし・・・コレは!クッ!」
俺は気を取り直し偵察用に調整したタヌキチと視覚共有しようと思ったが、覚えのある魔力が急速にこちらに向かっているのを探知し、ほぼ反射で影に沈む。
「はぁ、はぁ、ここね、ここでしょ?ソウダヨネェ?」
バキョンと木製の大扉がもげそうな音がしたがなんとか壊れることなく乱暴にその両開きの蝶番に導かれ教会内に光を引き入れる。そこにいたのは巨大な大剣のような鉄塊を背負ったおさげの超級冒険者にして超辣腕受付嬢・・・そしてヒミツとパーティーを組みたい症候群患者、チェルシーであった。
しかしどう見ても受付嬢要素のない今の服装はかなり攻撃的だ。
胴体の防御は薄く布や革、要所に小ぶりな金属プレートなどだが、手足は希少金属をふんだんに使った高防御、超火力な暗い赤褐色の金属籠手と金属ブーツ、その正体は竜の鎧と少量の金剛鉱、そして魔法鉄の合金で、魔力操作が出来なくても局所的な強化を可能としている。
また、表面にある金で出来た装飾部はそれ自体が魔法陣を展開しており、恐らく加速と強化の相乗効果を狙った高等魔法陣だろう。
腰のあたりから有る金属と真紅の聖布そして金の刺繍をあしらわれた腰当鎧は足元の目くらましと対呪、対魔性能があり、全体的に紅い彼女にはよく似合っている。
「えへへー、そんな褒めないでよ〜」
(・・・直感とかそういう次元じゃねえなこれ、確実にコッチを認識してる。)
俺はこの場面をどう切り抜け、そして王城での修羅場をどう回避しようか、そんなラノベのハーレム主人公みたいなことを考えつつ、影から出るのであった。




