依頼:『周辺調査と異常発生したわたあめの討伐』3
ひどい話だった。なんだろうか、この虚脱感は、陽が落ち冒険者と思しき集団が長い棒のような物を構えながらわたあめの襲来を待ち構えて居る中俺は溜息をついた。
「なんと言うか・・・部下があれなら上司もって感じだったなぁ。」
まあマーリンよりいいと思う人もいればちょっとダメだと思う人それぞれだと思う、彼女は俺が誰かと付き合ったりしないようにあの幼女を押し付けて来たのだった。
しかもそれを言った後顔を真っ赤にして王城へ逃走するし、屋台で酒を飲んでいたマーリンがあちゃーみたいな顔をしていたが、まあ、前世でもよく見た『婚期を逃したものの変わらずに美人な上にバリバリに仕事ができたが故にそれにのめり込み、高嶺の花と思われすぎて目がヤバイ人』って言う感じだ。と言うか俺はそれで喰われかけた、ナニ的に。
「て言うか王族なんだから政略でも恋愛でもいいから王族とくっつけばよかったのに。」
「そうはいかなくて乙女を拗らせちゃうのがアーサーちゃんなんだよ〜?わかってないなー。」
・・・なんと言うかあそこまで拗らせた理由がここに居るような気がしたが気にしてはいけない。
「いたぞー!いたぞーー!!」
「おっと、時間か。」
「アッハァ〜じゃあまたねー!」
さて、ここで今回の相手についての簡単なブリーフィングをしようか、敵は『わたあめ』正確に言えば『綿状結晶化スライム群』である。こいつらは春のうちに大量の糖分によってその身を徐々に粘度の高い溶液に置換していきこの夏頃を境に急激に膨張、もとい綿状に変化していく。
「おお、今年も多いなぁ。」
「そりゃあそうだぜ!今年は春に花粉嵐が起きるほど花が咲き乱れまくったからな!ッ!陣形を組め〜!城壁上の奴らは網の準備だー!」
・・・何故か近くの冒険者が答えてくれたが、彼らの春のうちの主食は花粉と花の蜜でその量によって大きさ、甘さ、粘度、そして数が変わる。
春の間は花にくっついて膨らんでは次の花へ移動していく蝶のような感じだが、活発に活動できる夏頃を境にその人畜無害さを失う。
まあ、どう取り繕ってもスライム、中身は砂糖をたっぷりと含んだ超高濃度の酸だ。通常のスライムの酸欠を狙うような薄い酸と違い、その濃度は桁違いでうっかり飲み込まれようものなら骨も残らず消し去られる。その粘度と綿状に変化した肉体も獲物を捕らえるのに特化して言った結果らしい・・・と此処までは悪いニュースばかりだが此処からは良いニュースだ。
まず彼らは体重が体積に比べ凄まじく軽いため風に乗ってやってくる。つまり一過性のものなのだ。
それに彼らの酸は動物性タンパク質や金属質を溶かすのに特化して居るため、長い木の枝などでかき集めガラスの瓶や、酷い時には木の桶の様な物に詰めれば特殊な分離方法こそいれど、強力な酸と濃密な蜜を供給してくれる、まあちょっと凶悪なミツバチくらいに思っておけば良い、それに昔は大量の死者と富をもたらすハイリスクハイリターンな魔物だった様だが、木製全身桶鎧や、水魔法を体にまとうなどの方法が編み出され年々死者は減って居る。
「オーエス!オーエス!」
で、俺の今回の仕事はこの漁を手伝うこと、ではなく。
「あー、あー、こんなにたくさん・・・」
「gyaaaoooooo!」
「bearrrrrrr!」
わたあめの蜜に誘われて出てきた『ガラスベアー』や『樹脂熊』など高位魔物の殲滅と、多すぎるわたあめの間引きである。
「1、2、3たくさん・・・硝子熊が多いからレイピアと黒剣Mk.2かなぁ。」
俺は左手に黒剣、右手に魔剣であるレイピアを構え、大量の釘を召喚しながら射程距離まで熊どもがくるのを待つのだが・・・
「うげ、デカブツも流れてきてんなぁ!もう!」
「・・・」
空に浮かぶ巨大な綿雲、にしてはかなりの低空飛行を見せる物体、これがわたあめである。
「ありゃデカすぎだな・・・」
「そうさなぁ、あれは片しちまうか。」
既に回収を生業とする漁師の桶はいっぱいになっており、個人個人で集めて居る冒険者や傭兵の持つ桶や瓶も一杯になりつつある。これ以上の回収が無理な場合後続がまだまだ居るのでこれらが王都の壁にくっついたり、飛び越えて中へ入っていかない様に、駆除する決まりになって居る。
「連射魔法式展開、設置『嵐玉』!」
もちろん上からの魔法もあるので気休めだがないよりはマシだろう。っと?
「キタキタキタ!呪いよ!我が魔力を糧に!」
「「GYAAAAAAAAA!!」」
わたあめに気を取られて居るうちにさっきまで随分小さく見えていた熊どもが近くまで来ていた。が、まあ。
「行け!」
前列に居る熊の前足を杭サイズに巨大化した釘で釘付けにする。すると急には止まれない後続や自分の速力によってバキンゴキンと嫌な音を立てながら熊の前足や肩がブチ折れる。
「ファ○ネル!」
更に追加の杭をどすどすと倒れた熊や転んだ熊の脳天に突き刺し、息の根を止め、影に引きずり込む。それを繰り返すことで杭を新たに生成せずに次々となだれ込んでくる熊を突き殺し、近くに来たものも黒剣で手足を吹き飛ばされレイピアで下顎から脳天を突かれたり、首を飛ばされたりと次々にその命を刈り取られていく。
「おっと、危な!」
「beaaaaarrr!」
残ったのは硝子熊、ガラス熊は討伐自体は簡単だ。割れば良いのだ。名の通り硝子生物なのだから、しかしそれでは殺しきるのに手間がかかる。なんせ彼らはその一片までもが魔法生物としての基本構造を兼ね備えた天然のゴーレム、核であるガラスのハートや透明すぎて場所がわかりにくいゴーレム文字など弱点を手当たり次第に潰すことになり、面倒なことになる。
しかしそういった箇所は大概魔力が多く、それを感知できるものなら・・・
「チェイサー!」
「・・・・」
削り取ることも
「クギィ!」
「「bebasabe……」」
心臓のみを破壊することも自由自在である。
「あー良い汗かいた。」
実はこのわたあめの依頼、総動員数千人のレイド級大規模戦闘、しかもその防衛戦闘なのだが千を超えたであろう巨大な熊とわたあめはそのほとんど全てがたった一人によって門の前足を1キロに入ることすら出来ずに終わったのであった。
その狂気的な記録を叩き出した男は仕留めた獲物を影に押し込みギルドに適当に押し付けたり何個か貰ったりしながら兜を被ったままジャーキーと果実ジュースを飲んで早く酒が飲みたいとぼやくのであった。




