混沌としたお姫様2
「遅い。」
さすがに遅い、既に時計は1時間の経過を教えてくれている。何をそんなに悩む必要があるのだろうか?何度聞いても明確な答えを貰えないのでそう言うものであると思うことにはしているが・・・
「すいません、もう一杯紅茶を。」
「はい、畏まりました。」
暇だが、寝るのも何か違うので今日は魔力の必要性について説明しよう。
脳内で黒板と白衣そしてカニカマを用意する。カニカマに意味は無い。
先ず、原則として、魔力と言うのものは人体に必要な要素でも無ければどんな生き物も持っているマジカルなパワーでは無い、確かに持っている生物も人間もいるが、それが唐突に消滅しても死にはしないだろう。
だが、人は魔力欠乏で死ぬ事が多い、これは何故か、先ず誤解してはいけないのは『魔法を使わない者は魔力欠乏で死ぬ』事は無いのである。つまり一般人が生活にちょっと使う程度では死なないのである。その理由として使う魔力の量と種類が違うと言う事が挙げられる。
魔法を使うと魔力を代償に現実を歪める事ができる。しかしそれは同時に世界の歪みが常に魔法を使った者に纏わり付いているのと言うことでもある。まあ作用と反作用の様なものだ。歪めただけ自分も歪む、それが思考だったり体の一部であったりしないのはこの歪みを魔力で相殺しているからなのである。
勿論少しずつ適度に世界の歪みを受け入れる事で死のリスクを下げ、魔法使いとして必要な魂の強さを手に入れたり、外界の知識や深淵を覗くこともできるが、そういうヤバイモノを魔力がなくなった魔法使用者は一気に受け、受け止めきれずに死ぬのである。
故に魔力を消費するとそれだけ魔力による相殺力が弱くなり精神的なもしくは身体的な疲れを感じるのである。
「まあ、俺はそもそも外部世界から来た異界の魂だし、知識の多くはその異界、つまり日本やらから来ているから死なない、って言うのが俺の持論なんだが、どう思う?マーリン。」
少々前から階段の陰にゆらゆらと揺れる特徴的な髪色のポニテがあったので声をかけてみる。
「ちぇ、バレてたか〜、ああ、小夜ちゃんはまだだよ、なんか服が暴発したらしくて。」
珍しく着飾った様子のマーリンは黙っていれば何処かの貴族か王族の令嬢だと言われても違和感を感じない、青白い様な髪を纏め上げていてよくみるとツインテだった。いつものワンピースよりもフリルなどの装飾がついた黒いゴスロリを着ている。
「なんで暴発するんだ?訳がわからんぞ?」
しかし女性への礼儀として褒めるよりも先にマーリンが言った意味不明な事について言及する。俺の記憶では服は爆発したりしないはずだが?そんな面倒な服があるのか?
「ああ、なんか魔力操作を間違って収納札を全部解放しちゃったらしいよ?いま、札を一枚一枚確認して戻してを繰り返してるよ〜、あ、クッキーちょうだい、代金はこの男にね?」
「畏まりました。」
なるほど・・・さて。
「いつもよりは可愛いじゃないか?」
するとマーリンは意外そうに目を見開いた後少し恥ずかしそうに顔を背ける。
「へぇ、一応褒めてくれるんだ?」
「ああ、普通の美的センスなら十人中十五人は振り返るぞ?」
クク、紅くなった耳が見た目と相まって少女然とした雰囲気を加速させる。まあね、喋らなきゃほんとに美少女だからな、此奴は。
「酷いことを言われた気がするよ?」
「ハハ!ぬかしおる。それより今更だが魔力の種類について聞いてもいいか?」
絵面的な意味でも一人で妄想しながら架空の生徒とラブプラ○ゴッコしていると俺の大切なナニカが主にSAN値的なものが削れるからな!
するとマーリンはどこから出てきたのかわからないがダボついた白衣と大きめのメガネを取り出しゴスロリの上から着る。更に黒板とその付属品をこれまた何処かのギャグ空間から引っ張り出してきて、最後に運ばれてきたクッキーをかじり高笑いをする。
「ハーッハッハッハッハッハ!この!超絶最強な大賢者にして大魔導師たるこのマーリンが!頭のたりないモンキーに知識を授けてしんぜよーう!」
なんかイラっとするが耐える。
「きゃー!せんせーかっくいいー!」
「フフーン!」
そしてそそくさと教科書を取り出すとそれをガン見しながら喋り始める。
「えー、まず最初に魔力には大まかに3種類ある事を押さえておく!一つは外魔力、いわゆる僕らの周りに存在する自由な魔力のこと。」
付け加えるなら主に精霊魔法や神の加護を発動させるために必要な要素でもある。この魔力が無ければ魔力は自然に回復することはないし街や村を守る破魔の結界など儀式系の大規模魔法の長期使用は不可能だろう。
「そして最も魔法使いの重視する魔力、内魔力、これは個々人の才能や運が絡む要素のため決して平等ではないし人によってはない場合もある。何よりこの魔力が魔法使いなどにとって鎧であり矛で有るのだ。まあ、これがみんなが言う魔力、だね。」
教科書をそのまま読んでいる様な希ガス・・・まあいいよ、そしてこの内魔力は実は魂の強度によってその量が違う。マーリンの様な超級の魔法使いの多くは魔法の生み出す歪みを致死量限界まで吸収し深淵の知識や魂の強度を日々積み上げることによってその力をより強大に、叡智を思考レベルを高次元へ押し上げるのだ。・・・が、まあ
「狂気と隣り合わせなんだよなぁ。」
「まあねえ。」
そう、この内魔力の消費によって生み出される自分への負積、『歪み』とは受け入れ乗り越えることで魂の強度やら知識やらにテコ入れするのだが、やはりリスクは大きい。
少なくとも戦闘以外で死ぬ魔法使いや魔術師の多くはこれに失敗し、世の狂人の多くはそれによって精神に異常をきたしたり、場合によっては非人道的かつ冒瀆的な凶行に走るので有る。
「ふむ、それを考えると妾やお主、そこな娘の様な者はまさに『狂人』と言うことじゃなかろうか?」
「まあ実際そ・・・あえ?」
気がつくと店にいた客はいなくなり店員も消え失せている。・・・いや、頭を下げ敬意を評している?
そして恐る恐る声の聞こえてきた方向をみると、其処には光のない濁った眼をした幼女がいた。しかしその身に羽織っているマントや着ている服そして何より背中に背負う異形の武器、アレは・・・
「エクスカリバー?」
「な!?」
「ふふふ!ハハハハハ!愉快な顔だな今代のマーリン、そして・・・ふむ、なかなかの勇者の様だ。」
護衛の騎士をつけられ無意識なのか意識的なのか王族の威を吹き散らすこの少女は・・・・
「騎士王モードレッド…様でしょうか?」
返事を待たずに取りあえず宮廷作法の通りに頭を下げておく、少なくとも彼女の姿は其処らの傾きかけた様な貴族のそれではない、そして何よりあの少女に、元騎士王と今は言うべきか、彼女にに過ぎている。
「然り!我が名はモードレッド、王位を継ぎ新たな完璧な王として君臨する者だ。」
その身からは微かに狂気を薫らせて、快活な少女の姿で邪悪に、しかして王の様に笑うのだった。




