教会に行く用事がなくなったものの何故か行くことになる悲しみを嘆く俺氏。
始まりは唐突で有る。
「ジャック、この酒場にジャックはいるか!?」
(うぇ〜)
ジャック、それは俺の偽名の一つであり余計な衝突を避ける為面倒な方々に教えた俺の名前である。まあこれが呼ばれるって事は・・・
「はぁあ、めんどくさ。」
叫んでいるのはここの辺境都市の領主と双璧をなす此処にしかいない古い王族の血筋の護衛兵、権力はないと言い張るがやはり旧いと言っても王族色々と面倒くさいくらい力がある。少なくとも何某かの力が無いと町の一部を治外法権には出来ない。
「そこです!あの大きなカバンの全身鎧のです!」
「うわあ、あの幼女グルかよ〜!」
まあそんな気がしてたから色々解除して預かってもらおうと思ってたのに!うわああ来てる来てる護衛兵の皆さん勢揃いじゃなですか〜やだ〜。
「久方ぶりだな…ジャックは本名じゃないんだって?」
「会いたくなかったですよ、総隊長、ああ、本名はひみつです。」
これは本当である。俺の前世の名は小野氷見津、だがしかし今世でも前世でも同じ間違いをされる。
「ふん!相変わらずの秘密主義か・・・さあ、来てもらおうか。」
まあ、こうなる訳よ、書類にも真面目にヒミツと書き、その後何度か説明してようやく理解してもらえるのだ。ああ、面倒だ。面倒だから・・・
「『フラッシュ』。」
「なっ!?」
光属性と言うにはあまりに稚拙な、それ故に最も工程の少なく感知されにくい魔力を光に変えるだけの魔法、しかしその変換される魔力量と緻密な操作から生まれる純粋な魔力によって生まれる閃光と言うよりは擬似太陽の様な瞼を貫く明るさが酒場を包む。
「あーばよー!」
そして金属鎧を着ているとは思えない軽やかな動きで音も立てずに扉から飛び出して行くヒミツは態々何処ぞの大泥棒の様に叫びながら相手をおちょくる様に逃げて行く。
「なっ!クソ!早く奴を追いかけろ!あそこに行かれたらマズイ!何としても捕まえるんだ!」
衛兵のものとは違う顔の見えるヘッドギアが仇となり目が開けられない総隊長と呼ばれた金髪の男は青筋を立てながら叫ぶのであった。
異世界魔法忍術!透明化!魔力で体を覆い光を屈折させ周囲の風景と同化する。さらに魔力が見える奴らに見つからない様魔力を完全に遮断する!フッ・・・我ながら完璧だな・・・体温とかは消せないけどね!
「クソ!何処にいるんだあの平民上がりは!」
おっと勘がいいのか近くに来やがった、この魔法動くとどうかが完璧じゃなくなるんだよねーって事でちょっとした仕込みを発動しますか・・・エイサー!
「『間抜けー、ゴブリンのえさー』」
「・・・・あっちだな、ぶち殺してやる!」
ヒミツが投げたのは石ころ、それも声の出る石ころである。正確には魔石と言う魔力の固まった物なのだが真の意味で恐ろしいのは石ころの様に見えるクズ魔石に声と風景との同化機能を付与できると言う器用さである。しかも限りなく本人に近い声で特定しにくいやまびこの様な様々な方向から聞こえてくる音を出すなど普通ではない、本職の魔道具製作者なら白目をむいて倒れそうだが、無理やり魔法を封じ込めた単発式のものなので長くは持たない、せいぜい平兵士を馬鹿にすることができる程度の性能だ。
「さて、じゃあ・・・面倒だが教会行きますかねー」
無駄に独り言を言っているわけではなく音送りの魔法を多重使用し様々な方向からどいつにも聞こえるように言っているのだ。そして彼らは教会に直接介入することはできない。なぜならそう言う契約だから、である。じゃ、悠々自適な冒険生活を手に入れるため走りますか〜
実はこの男町に入ってから一度も兜を脱いでいない、理由は様々で、どうやって料理食ってんのかとか色々あるがキニスルナ、強いて言うならそう言う機能付きなんだよ、としか言えないぞ!
「見えて来たな・・・ま、やっぱそなるよね!教会に行くと言うのを言われたからには周辺をガチガチに固める他ないよね!」
フード付きのマントをたなびかせながら自身の装備を確認しつつ夜道を走破して行くヒミツ、左右の腰に挿してある剣は相変わらず全部で三本、左側には二本あり一本は標準的なロングソード、もう一本はもっと大雑把な分厚く重い黒塗りの片手剣、右側はレイピアと言うには太い、細い杭のような刺突剣がそれぞれ挿してあり抜くときは反対の手で抜くため片手剣二本は右手、レイピアは左手に持たれることになる。さらにダガーが三本これまた左右に挿してある剣達の鞘の外側に重ねるように鞘がつけられており一本一本機能があるのだが此処では使わない、走りながらリュックの重さと剣の手に馴染むような感覚を再度確認しさらに加速する。
「いたぞー!」
「とっ捕まえろー!」
流石旧王族の血筋を守る戦闘集団、視力も脚力も人外レベルである。だが・・・
「おっそーい、そんなんじゃ俺には追いつけないねー!」
素の身体能力で元とは言え冒険者ギルドのトップランカーが個よりも群を為すことを優先して作られた組織の中の分断された兵士に負けると言うのは
「あり得ない。」
いつの間にか振り切られたロングソードと甲冑を大きく凹まされた兵士が複数、瞬殺とはこれこの通り。
「なんて早い抜刀だ。俺でなきゃ見逃していた。」
無駄にいい声が背後から聞こえる、教会敷地内にはほとんど踏み込んで居るがこの声は敷地内に入ってこれる人の声だ。つまり・・・
「えー、なんでギルマス居るんだよー!」
脳筋がいた。大剣とは呼べない鉄の塊を二本担いで振り回す剣術と言うよりはただの暴力、しかしそれで幾多の怪物を屠って来たのだ。
「はっはっは!娘に頼まれたのでな!」
「チェルシーぇ・・・」
「ついでに言うとあの幼女は見た目幼女な長命種族だな、うん、ちょっと騙されたが問題ない捕まえてあるぞ!」
「騙されてんじゃねえよ、気付けよ!それでもギルマスかよ!?」
因みに旧王族の護り手(笑)は既に壊滅状態である。少なくとも正面を守っていた奴らは…だが、しかし妙に話を延ばす、ギルマスは大概のことは面倒くさがって本題から言うのだが・・・まあ、俺もそれに便乗して時間稼ぎをしてるんだけどね。
「・・・・」
「・・・・」
えー、しかも本題は保留のようです。本当にありがとうございます。・・・この無言の空間を俺はどう埋めればいいんだ?
では此処で軽く俺の精神と肉体の乖離とかについて一つ、今世では現在15歳もちろん肉体も年齢もである。しかし中身はと言えば、初っ端からの孤児生活と商人生活、そして何かと荒事の多い冒険者稼業と衛兵業で多少磨かれたとは言え、元から内面がカオスな四十過ぎのおじさんであり、転生時から数えると既に精神年齢五十代に到達して居るだろう、しかしもちろん乖離などは起きていない、自分を自分で制御できるし若狭の振り回されたりしない、強いて言えば元からこんなテンションなので多少行きやすくなったと言う感じだろうか?
いや、もちろん前世では社会人だし通常運転時は普通に普通で普通な人なのだが家や飲み会などでは少しその外装甲を外したりして羽を伸ばしたりしてたわけで常日頃からネタ発言やキャラ崩壊はあんまり起こしていない、うん、断言ではない!なんたってどこに行こうが何をしていようが昔からの知り合いに合えば皆口を揃えて昔と変わらないと言われるのだ。きっと何処かでハッチャケてしまったのだろう。因みに見た目もあんまり変わらないと言われ少しへこんだ記憶もある。
「来たか…」
おっとギルマスがシリアスモード突入ですな、因みに俺は某真っ赤なアメコミヒーローみたいに読者に話しかけたり出来ないのでそこらへんは大丈夫、相当今みたいに暇にならないと電波受信もしないしね!
「こっちもだよ。」
それぞれ自分の背後の方から待ち人が来るのを感じながら徐々に空気が鋭く張り詰めて行った。




