最悪に向けた俺氏のサムシング2
「凄いパーンチ」
気の抜けるような男の声、くたびれたようにも見える襤褸と鎧を纏う男は目の前に立ちはだかった巨大な鬼に拳を突き当てる。
しかしその動作は全く見えず、出も終わりも見えない順手突きはオーガと呼ばれる西洋風の鬼の腹に風穴を開けた。
鈍い音ではなく空気が避けるような鋭い音が後から付いてきて、返り血すら着けずに全身鎧の男は伸びをする。
ここは森の奥地、雄大な自然と豊かな自然ととりあえず自然に囲まれた・・・
「いや、それ森しかないだけだから。後、暇ならこのか弱い私を助けるがいい、あ、待っていかないぎゃあああ!」
幼女が叫ぶがそれほど危なげもない上に結局杖を振りかぶるとオーガの上半身が消し飛んだ。
緑豊かな森に一瞬にして真っ赤な血の池が出来るが、それも些事、真に異常なのは量である。通常二、三匹いれば良いところをまるで小鬼の様にわんさか出てくる。
「あの、これって普通なんですか?」
巫女服に薙刀というこれまた異様な少女は幼女と同じく血の池を量産しながら口を開く。
「うーん、あんまり無いかなぁ?」
「普通はないよ!?少なくともこんな魔力の薄いところで同一の魔物が大量に発生するなんて災害だからね?わかってる?」
騎士風の男が剣も抜かずに瞬間移動じみた動きで敵に風穴を開けつつ答えるが、幼女が慌てて訂正する。というか全員戦闘中だというのに余裕すぎやしないだろうか?
「なに、竜の山よりマシだろう?」
「九尾よりは・・・」
「基準がバグってるだけだから!そんな化け物普通合わないから!?」
この惨状はエルフの里を出て二日ほど歩いた頃のことだった。この男は常に戦っていなければならないのだろうか?
「ふー、疲れた疲れた。」
血の池を量産し、ちゃっかり素材を大量入手したヒミツは汚れてもいないのに手で体をはたいた。
「・・・もう突っ込まないからね?」
「妖魔特攻が健在で助かりました。」
突っ込まないと宣言するマーリンだが、彼女もそして微少女な巫女、小夜も汚れすらないのは可笑しい、むしろこの惨状を作り上げてなお余裕綽々なのも可笑しい。
ヒミツはこの惨状を利用し新しい魔法を試す様だ。
「むふ〜『血を代償に』『魔除けを求む』『破魔の陣』!」
通常は魔力を捧げるのだがいかんせん血なまぐさいので周りのまだ魔力を含んだ血液を媒介に東西南北を意識した風水結界を張る。血液はたちまち蒸発し、地面には魔法文字と神聖文字が入り乱れるオリジナルの魔法陣が広がる。
「うわぁ・・・自信なくなりますね。」
「化け物だね〜」
結界系の魔法というのはその持続時間の長さと効果の高さが売りなのだが、その習得に時間がかかるとされている。実際小夜も幼少の頃から訓練したために使えるものであるし、マーリンも天性のものはあるとしてもそれなりに時間はかかった。
「いやー、組み上げるのが感じで済むから陰陽・風水系は楽だなぁ・・・もっと早くに術式がわかればもっと楽できたのに・・・」
その前にまず術式がわかれば使えるというところから突っ込みたい、というか魔法使いから呪い殺されそうな事を言いやがる。
テキパキと陣の中でキャンプの準備をし、念のためにという事で美少女も四方陣を張り直しておく。その間にも手馴れた様子で寝袋や自作テントを組み立て料理セットを出していくヒミツ。
そしてそれを寝袋に入りながら見るマーリン。
「いや、なにサボってんだ?ああ゛?」
「いやだって、邪魔でしょ?」
「まあな?」
無駄なやり取りをしつつ今日の献立を決めるヒミツ、適当に影から取り出したのは巨大な鶏。
「ニワトリ?ですか?」
「いんや、コカトリス。だから鳥というよりは蛇。」
「ヴェ!?」
血抜きも毛抜きも済んでいるのでただの丸鶏にしか見えないソレをざっくりときっていく、ここで漸く刃物を使うヒミツ、もちろんキチンと包丁だが。
「塩とタレ・・・あと足丸焼きどれがいい?」
「塩で!」
「た、タレ・・・ですかね?」
意見を聞いたもののほとんど取り入れられる事なくフライパンの上で香草焼きにされていくコカトリスの腿肉、並行して焼き鳥も作っているが全部は使いきれないのでまた影に戻す。
「辛めのソースと〜、チーズ、レタス、クレープのプレーン生地・・・」
「・・・最近自信が無くなってきました。」
「大丈夫、私は料理できないから!」
出来上がったのは香草焼きにされカリカリに焼き上げられたコカトリスの腿肉を贅沢に切り分けレタスとクレープ生地で包み辛めのソースととろけたチーズを載せたワイルドな一品、焼き鳥も焼きあがる。
「よーし飯だ!」
「「いただきます!」」
「はいよ、いただきます!」
野営なのでアルコールは危険だが容赦なく飲むロリババア、マーリン。
「プハー!これのために生きてるとこあるよね。」
「くそう、俺もあと5年の辛抱か・・・」
「私はまだ味も知りませんよ・・・」
酷くノンビリとした野営はそのまま穏やかに終わるのだった。




