連日の化け物退治は堪える俺氏
「あ……うあ?」
刀を折られ自身も殺傷力ゼロの魔力刃で撫で斬りにされた大馬鹿勇者こと正義君、洗脳やその他面倒そうな自爆とか隷属とかの魔法も吹き飛ばしたので一応正気に戻ったと思うのだが、意識を失い倒れてしまう。
「ふむ・・・強いは強いけど超級冒険者には届かない・・・中の下か下の上が良いとこかな!」
軽い戦力の審査もしたがやはり強いとは思えない、というか勇者(笑)の同級生の中にいる微少女をはじめとしたヤバい奴らが止めればよかったんじゃ無いか?というか20人くらいしかいないけどこれが一クラス?少なくねえ?
戦闘も終わりマーリンと微少女が近付いてきた。しかし俺は何か嫌な予感が拭えない、今細切れにしたが呪いの起点となるほどの刀が唯の刀なのか?
「ありがとうございます。まさか解呪までして貰えるとは予想外でした。」
先に話しかけてきたのは微少女、やはりというか予想通りというか魔力量とはまた違うエネルギーを持っていたり足運びが独特であったりと実力者なことは確かなようだ。
というか少なくともあの狂化馬鹿勇者が十や二十纏めてきても近接戦でなんとかなりそうに見える。
「ふん、自分の実力を隠してそれを晒すこともなく邪魔者をどうにかするなんて性格が悪いんだね?」
続いてマーリンだが何故か微少女に対して喧嘩腰である。
しかし今はそれどころでは無かった、刀の刀身から強烈な死の予感を感じる!
「落ち着けマーリン、あと巫女微少女は結界を維持してくれ嫌な予感がする。」
「そうだねぇ?」
「微少女・・・美少女ではなく微少女・・・」
濃厚な死の香りに気付いた二人は戦闘準備をする。マーリンは使い慣れているのであろう長杖を構え防御系の魔法を重ねる。巫女微少女は若干落ち込みつつ符を取り出し何かしらの祝詞を早口で唱えると和弓を構える。いつの間にか服装も変化しているが気にしてはいけないかく言う俺も普段の騎士鎧に換装しているのだから
「午後12時・・・いまいちだな、詠唱破棄聖剣抜刀!」
「呪文入らないの!?と言うか昨日は何のために唱えたの!?」
気分である(キリッ
いや、ちゃんと理由はある。詠唱破棄は1日一回が限度でそれ以上は略式解放になる。それにやはり詠唱して抜刀した方が強いし殲滅力も高い、今回は奥の手を入れなければ七割くらいの展開である。
「静かにしとけ、来るぞ。」
「「ッ!!」」
結界で隔離してあるとはいえ危険なのでエルフの皆さんには帰ってもらう、勇者ーズは・・・ほう、構えるのか中々見所がありそうだ。
何故だ。何でだ。どうして僕が倒れている。
(それはお前が弱いからだ。我が宿主さま?)
そんなはずは無い僕は誰よりも特別な筈だ。
(そんな事はないお前は矮小で他人を見下し自分を妄信することしかできない哀れな凡人だ。)
嘘だ。
(そんなに怯えるな我が宿主よ、どれ、力をやろう、その剣を手に取ればお前はこの世で最も強くなれる)
そうか、そうだ僕は特別なんだ。そうなんだよ。
ドロリとした闇が砕けた刀身から溢れ出す。背筋の泡立つような悪寒が体を硬ばらせるが、どうやらそれは魔法的なものらしく俺本体ではなく周りの空気を寸分の隙間もなく固められている為のようだ。
「マーリン!あれは何だよ!?」
ひとまず上半身は壊呪(誤字じゃないよ!)出来たので微少女の呪いを解きつつマーリンに聴いてみる。酔っ払っている時に色々聞いてもいないのに喋っていたのでこいつが知識を蓄積しているのは知っている。
「えッ?えーっと…ど、泥?」
絶対に違う、泥は泥でもどっかの願望機から漏れて来そうな感じだよ、そんな気がするよ!?
突っ込みつつも微少女の解呪完了、俺のも足がもう少しなのだが・・・ッチ、聖剣でも無理か…
「か、微かにですが神の気配を感じます。しかし淀みきって居てこれは……」
おっと、微少女のが役に立つとかマーリンはマジでマーリンなのか?オイィ?
泥は倒れている勇者(笑)を包み込みその身に宿るナニカを抜き取り勇者(笑)を投げ出す。薄らと光っているように見える黒い塊、それを飲み込むと急激に凝縮と増殖を繰り返し始める。
「奔れ月光!『常闇を祓いたまえ』!」
飛び散って来る闇の塊を聖剣で蒸発させながらどうにか防ぐ、どうにか全て壊呪出来たが泥は瞬く間に質量を増大させ本体であろう刀の場所がわからない上にどうやらこの泥は結界を破壊しようとしているようだ。
地面に聖剣を突き刺し月光の強化を結界と地面に回し俺には最低限にして置く。地面や結界はみるみるうちに青白いラインに蝕まれていきそこが脈動するごとに力を増し泥に対抗する。
「・・・・わかった!アレは呪術それも幾重にも重なった悪意の塊が此処で殺された魔物や邪教徒の意思を吸って肥大化した結果持ち主を呑み込んだ物だ。刀は・・・うーん、ぶっちゃけあんまり大層なものじゃないね、多分ダンジョン産かな?」
「そうです。アレは確かダンジョンでの取得物で鑑定や解呪もせずに彼が持ち出しその後言動や洗脳の震度が深くなり今の今まで解呪不能だったのです。・・・まあ、自業自得というのでしょうがなかなかにひどいですね。」
今の話を聞きながら俺も相手を解析し、分かった効果としては持ち主の心の弱さに漬け込み、持ち主を破滅させる類の所謂魔剣、妖刀と言える代物だった。というか仮にも勇者だろ?どんだけこいつは心が弱いんだよ!もっと正統に王道に覚醒とかしろよ!?
「対処法は?少なくとも物理は効かなさそうだぞ?」
だがいくら最初は弱いものでも時が経ったり素晴らしく相性のいい者と出会えば此処まで化ける。先日のゴブリンもそうだがね!
「祝詞を唱えさえて貰えば動きを止められます。」
「で、そこを君のバカ魔力と聖剣で消し飛ばしてもらえるといいかな?」
「ひどく単純だが見た感じ対魔力も相当だ。貫くにはそれなりの威力がいる。」
ぶっちゃけて言えば俺は自信がデタラメなのはよく分かっているし強い力もあると自負しているが生憎まだ聖剣を持って五年、剣を振り始めて五年のしがない元衛兵である。魔法やその他技能も人並み以上だがそれでも限界というのはあるのだ。
例えばこのスライム擬のような相手、一撃で倒せる自信はないし、周囲を気にせず行けというなら簡単だが街中だし、そもそも結界の防御力以上を出せば大惨事確定だし、なりふり構わないにしても守るものが多過ぎる!
それを察したのか得意げになるマーリン。
「ふふん!じゃ、本気で行くかな?私がマーリンたる所以を教えてあげる!開け!花よ!『常若の島』展開!」
マーリンがそう唱えると先ず地面が変容していく。凄まじ速度で花やリンゴの木が生え泥を突き上げ絡めていく、同時に結界の外側も塗り変わり明らかにこの世ではないと思われる美し過ぎる世界が広がっていく。
「ッ!『オモイカネの神のみことに畏み畏み白す。』かの者の重みを増し為へ!」
早口でかなり実用的なレベルに圧縮され最早それでいいのか危ういレベルの呪文を一気に詠唱しいつの間にかお祓い棒を振りかざす微少女、すると目に見えるレベルで空間が歪み黒い塊を地面に縛り付ける。
「此処は私の魔法で生み出された心象世界、幾ら吹き飛ばしても大丈夫さ!」
「オッケー!」
さ、色々ツッコミどころはあるが場は整った!
全てのリソースを剣に注ぎこれでもかと魔力を押し込む。刀身は延長され既に身の丈を大きく超え巨人の武器の様相を呈している。そして滴るかの様な青白い燐光が臨界に達しその刀身の内から青緑色の月光が漏れ出す。
「『奔れ!輝け!爆ぜよ!月光は遍く魔を消しとばす!』偽・月光聖剣!」
振り下ろされると同時に全ての力を解放、魔力は全て月光となり月光がヒミツが魔と定めたものを一切合切ねじ伏せ、消し去る。後に残るは消し飛んだ幻想の大地と今度こそ動かなくなった刀だったもの、そして何故か全裸の勇者(笑)だけだった。




