みんなはちゃんと休もうね!
「ファー」
眠い、非常にだ。心はおっさんなので一徹二徹は問題ないと踏んだんだがそれ以前からの疲れがそろそろ顔を出しているようで宿屋の扉と朝からキスしてしまった。
昨日は大変だった。無駄に広い王都の地下水道がまさか一部ダンジョン化しているとは思わなかった。幸いコアがある完璧なダンジョンではなくどちらかといえば魔力がたまたま溜まった為に強い魔物が生まれそれが発する魔力に呼応して魔物が増えただけのなんちゃってダンジョンだったが、まさか二足歩行するネズミが地下帝国を作り上げているとは思わなかったし、取り潰された貴族が態々そこに逃げこむと言うのも予想外だった。
「うあー、眠い。」
おかげで全力探査と連続戦闘を強いられ、元貴族をとっ捕まえて家族の居場所を聞いて、見つけたと思ったら廃人寸前だったからちょっと本気出して治療したりして・・・
流石に今のまま、口から半分くらい意識が飛び出ちゃってるような状態で風間やアリス達を連れて何処かに行くわけにもいかないのでひとまず風間達用に取った宿屋の部屋に手紙を突っ込んでから俺は全武装を解除して影の中に作り出した空間でしばらく意識を失うのであった。
「ムムム、何やら人の子が流れてきたかと思えばヒミツか・・・ふむ、存外可愛らしい寝顔だな。どれ。」
影の国の女王の加護を意図せずもらっているヒミツは影を使用した魔法の扱いが向上するだけでなくその影を通じて影の国に行く事もできる。本人はそれを知らずに影の中に作った和風の六畳間に潜り寝ていた為に転移が誤爆し、ここ二、三週間の疲れを取る為自己催眠まで使って深い眠りに落ちていたヒミツは影の国の海辺の砂浜に転がっていたのだった。
そして運がいいのか悪いのか、デインと言う弟子を育てあげ、見聞を広めに外の世界に投擲した為に暇を持て余していたスカアハに発見された。
それがなかなかに育て甲斐のないある種完成された人物であったのには少し落胆したスカアハだったが装備を外しダボついたパーカーと同じくダボついたズボンを履いてなんの警戒もせずに年相応の寝顔を見せるヒミツに老ば「我が魔槍は次元の壁程度貫くぞ?」・・・庇護欲を擽られヒミツを回収、魔獣ひしめく森を抜け城の持ち帰ったのであった。
「あら?お母様新しいお弟子・・・ではないようね、ヒミツ・・・だったかしら?」
「そうだな、浜に無防備に寝たまま落ちていたからつい担いできてしまった。」
さて、基本女性しかいないと言うか、スカアハとその娘たるウアタハしか人型の生き物がいないので便宜上そうなるこの影の国、訪れる者が他の異界に比べて多いとはいえそれでも年に一人や二人といったところである。
「む・・・」
ここでヒミツが目覚める。があらゆる感覚を鈍くしたため周囲の環境変化をようやく感じ取り、自身でかけた催眠もそのままのためかなり思考力、判断力、さらにいえば言語能力の落ちている。
寝惚け眼に目の前に二人女性がいるのを認識はすれど意識は途切れ途切れのため誰なのかわからない、そして起き上がるが・・・
「ぐぅ…」
「寝たな。」
「寝ましたね。」
常にチート状態なヒミツだがそれは常に身体強化や魔法による能力の増強をしているためであって今のように寝ている間はせいぜい死なないだけの超硬い人間だ。勿論悪戯などされてもわからない。
「うむ、どうしたものか。」
「そうですね、どうしましょうか?」
とりあえずスカアハは起き上がったままと言うのも体に負荷がかかると思いヒミツを寝かせようと上半身を床とはいえ豪奢な絨毯がひかれた城の床に倒そうと何気なくヒミツに近づき寝かせると、何気なく。今回でいえば迂闊にもと言えるがヒミツの顔を見つめた。
「がハァ!」
突然の鼻血!
「えぇ!?」
困惑するウアタハ、
実は現在、ヒミツはミッシェルを使い魔にした為にその呪いの一つである『傾国』の魅了が付与されている。
今ままで特に何もなかったのはフルフェイスの鎧姿やヒミツが自信に常にかけている認識阻害の魔法、そして何よりそれを意識的にコントロールしていたからだ。
だが今のヒミツは完全に休眠状態、意識など微塵もない、念のためにと寝る前に軽い結界を張ったものの至近距離で顔を見られるなど想定していなかったので神をも誑し込む傾国の力はバッチリとスカアハに叩き込まれた。
「・・・」
鼻血を出しながらヒミツを抱え何処かへ持っていこうと担ぎ上げるスカアハ、しかし神性を持つのは彼女だけではないこの国には女王は二人いる。
ウアタハ凄まじく嫌な予感がすると言う直感のままにスカアハを止める。
「ちぇいさー!」
(魅了状態のまま本能のままに神が人を襲えば死は確実!折角加護を授けたと言うのもありますがそもそも彼は月の女神のお気に入りな上聖剣使い!しかもなんだか妙な使い魔付き、そして何より・・・なんと言うか彼が死ぬと言うよりも彼が性的な意味で襲われると言うのが不味い!少なくとも私は今までこんな寒気を感じたことがないです!)
「邪魔をするな、私は今、機嫌がいいのだ!」
槍と拳がぶつかるがなんてことはない、スカアハは現在魅了状態のためかなり精神的にもそして思考力的にもピンク一色、拳は槍を逸らし、ウアタハはいつも通りスカアハを快楽の海に叩き込み、ヒミツを直視しないように彼を元の世界へ帰すのだった。
「・・・ふむ、よく寝た。」
ヒミツは影の中に作った六畳間でむくりと起き、装備を着る。時間的には一、二時間と短いが深く眠り催眠によって精神的にも肉体的にも圧縮した睡眠を取れた。
寝ている間にあったことなど露知らずヒミツは新しい朝、爽やかな朝日に包まれ機嫌が良さそうに今日の予定を軽く考え、先ずは風間達を迎えに行くのであった。




