遅い!
トオカの体ができるまで一週間ほどかかるらしい、これは文字通り受け取らず神と人間の魔力衝突によってできた特異な精霊であるトオカの解析と調査に六日間、そしてその後素体人形のような物に生物的機構と魔道人形的機構、ついでに中身の意向を反映するのに1日と言ったところだろう。
現にこの前だって俺の左腕を製作するのにはさほど時間をかけておらずどちらかといえば俺の持ってきた厄介ごとをどうにかしたり、神様に興奮したり、左腕の壊れ方の解析をしたり、俺から素材をカツアゲしたりしている時間の方がとても長かっただろうからな。
しかしこうすると俺は暇である。作業は王都に帰ってからというので問答無用で影を使った転移で希望者のジャンヌと山田と小夜を連れて帰ったらその瞬間から俺のスケジュールはアリスと風間とかいう暗殺者くんの面談と雇用契約の相談くらいしかない。
「ま、いいかな。とりあえず王城行くか。」
『それがいいと思うよご主人、維持費とかも請求されるかもね。』
流石タヌキチはしっかりしている。子犬と子狐はスースー寝てるし。マリアは面倒臭そうだと買い物に行っているし、俺の信頼できる使い魔はタヌキチだけだぜ!・・・ふぅ、さて、ふっかけられないといいな。
ヒミツは転移魔法で小夜と山田を小夜邸にジャンヌといつの間にかついてきていた彼女の従者二人を冒険者ギルドの前に転移させ、一人いつもと違って軽装のまま歩いて王城まで行くのだった。
「というわけで来たんだが・・・」
「うん、遅いね。ぶっ飛ばされたいの?」
「アリス!流石に失礼だ。というかそもそもこの人が人外レベルで寛容だったから助かっただけなんだぞ?そうでなかったら・・・ああ、クソ!神様、震えが止まらない・・・」
質素な部屋だ。牢屋というより安宿やと言った趣の部屋に鎖と足枷をされた転生者風間君はいたのだった。
まあ、アリスの言うこともわからなくはないし、俺だってこんな常に神経すり減らさないといけないような場所に監禁されていて迎えが来たらつい口をついてそんなセリフを吐いてしまいそうだが、うむ、
「あまり調子に乗らんでくれよ?少なくとも俺だってお前らのおかげで死にかけはしたんだからな?」
ミシリ
空間が魔力で震え、殺気で物理的にではないが空気が冷たく感じているであろう二人はヒミツが相手のギリギリ気絶しないしかし目先の利益や莫大な報酬程度では裏切れない、ギリギリのラインで殺気と魔力を完璧にコントロールされたものを受け完全に固まっていた。
「ふぅ、すまないな少し怒りが抑えられなかった。さて、じゃあ商談に入ろうか、席についてくれ。」
「あ・・・は・・・」
「はいっ…」
そしてそれらを一瞬で収め質素な部屋に設けられた三つの椅子の一つに先ほどのことを踏まえて見るとまるで恐ろしい、アルカイックスマイルを浮かべたヒミツが座るとアリスはぺたんと涙目で膝を折り、風間は意外な事になんとか動いて席についていた。
ヒミツは内心少しやりすぎたかと心配していたが転生者だと言う風間が意外とタフなのでとりあえず喜んだ。実際、この程度で気絶していたりしたらマジで王国法に則って殺していたところである。
それにこの程度の威圧、竜や龍、悪魔や邪神は加減なしでぶっ放してくるし、これから鍛えて行くが精神汚染にも抵抗できなければ俺の同行者になるなど不可能である。
(理想は高く、って夢物語だと思っていたが・・・なかなかどうして最近の若者はいいね。)
「よし、まあアリスには前話してあるけど僕は君らを傭兵として雇おうと思っている。主な業務は暗殺技能や暗殺者目線を使った考え方の提示、後簡単なお使いとかの雑用に情報収集、直接的な戦闘力は実際期待していない、要は人手が欲しいだけなんだ。」
神妙に俺の話を聞き、怯えを隠しつつ内容を吟味する。現在子犬モードのミゼールの封印を軽く解いて旧主による直接的でない、上位存在の存在感的な精神汚染を軽く振りまくが・・・
(素晴らしい、結構な修羅場も見てるみたいだし、それに・・・この風間君は『神様』を見た事ある系の人らしいね。)
恐怖を押し殺す以外一切の精神的なブレを感知させない彼、精神的に加速して深く考えているからか、それとも単に鈍感とも取れるがそれはそれで重要な事であるし稀な事だ。
そして何より彼には神気とも言える神の持つ雰囲気的な磁場に影響を受けている様子がない、それにアリスもなんとか立ち上がって席についている。とりあえず飴ちゃんを上げたが一番最初、殺しにきた直後のような反応に少し傷付きつつも、自業自得と割り切る。
「・・・そうなんですか、それだと実際あなたを襲った僕らをわざわざ雇う必要は無くないですか?」
「そうだね、そこらへんは君らの良心とか、恐れとか、そ言う感情を利用して指示の通りやすい風通しのいい状況を作りたいからだね。」
その後のことはあまり面白くもない、依頼主と雇われる側の交渉合戦だ。うむいいね、実に図太くてよろしい!決まったことはアリスがのぞまない限り性的なことはさせないと言うこと、ヒミツの合意のない作戦などでない限り嘘はつかないこと、など様々だ。
そして彼に土下座までされた案件が一つ。
『お願いします!』
その時の彼は本当に決心した良い男の子って感じで本当の若さを感じた。涙を流し、命をかけると言って涙する彼は超級冒険者である俺を、月光の騎士ヒミツに向かってこう懇願した。
『妹を!家族を…救ってください!』
ふむ、まあ話をしていても調べてもらったバックグラウンド的にも彼の暗殺はどうにもきな臭い、依頼主が粛清したはずの貴族だったり、彼自身暗殺者としては最近、しかも他者によってギルド加入させられた新参者であったり、どうにも何かで脅されている風であったり。
「うーん、神様って何がしたいんだろうか?」
まあ、けど、だ。
「彼、大丈夫かな。俺への指名依頼とかすごい高い筈だけど。」
実際このあと冒険者ギルドで試算してもらったら彼は顔を蒼くしていたが、それも若さと時間が解決できる額である。それまでタダ働なのを考えれば得か損かは知らないが。
「ま、こう言うのも悪くはない。」
この日俺を題材に書かれた冒険者伝記に忌々しいことに誰かが嗅ぎつけページを足した。
「さぁて、正義の味方やったろうじゃないか。」
全く。俺のどこが罪を赦し、裁きを与える天の使いのような人間性なんだか、こちとら行き汚いおっさんだってのによ?
その日のうちに一つの暗殺者ギルドが消滅、逃げ延びた悪徳貴族はお縄になり、誰も気にもしなかった小さな団欒がなんとか守られた。
運がいいとしか言いようがないが彼の母と妹は無事であったのだ。少々記憶のない部分もある上に不自然なほど綺麗な体だったが、それを気にするものはいなかった。




