ぱわーいずじゃすてぃす。
「よいしょっと。」
ヒミツは迷宮に入ると同時に迷宮出入り口を封鎖、驚いた様にこちらを見る勇者や冒険者のアホズラが見ものだったが、これにはきちんと理由がある。
「・・・封鎖完了、さ、折角使い魔契約したんだ短い間がよろしく頼むぜ?」
一応いらないと思うが魔力を供給する。
「あはー、こき使う気満々かな?」
「・・・折角お披露目もしたというのにお仲間と一緒のは来ないんですか?」
すると外套の内側から出てきた黒い仔犬が一瞬で元の姿を取り戻し、呆れた様にヒミツにちょっかいをかける。どうやら服は魔力で編んでいる様だ。ショタにタキシード、つり目美人に男物、というよりは男装の麗人風の黒服、なかなかに良い光景だ。が、ヒミツは意にも介さず迷宮内の構造解析をする。
青白い月の魔力でヒミツの周囲が照らし出され、聖剣を媒介に月の女神の分霊を召喚する。
《呼ばれて飛び出て・・・うぇ、最悪、何でこんなじめっとしたところに呼び出すの!?》
相変わらず著作権に引っかかりそうな登場方法だが、ここが邪神の領域内、しかもダンジョンの中であるのに気付き機嫌が急転直下で落ち込んでいく。
「どうどう、落ち着け、目麗しい神様を他の人に見られるわけにはいかないだろう?」
《・・・そ、そんなこと言っても、騙されないんだから!》
が、ちょろい。それでいいのか女神様。
「で、我が麗しの女神殿、今回の騒動についてお話をもらえるか?」
《ムゥ、折角いい気分だというのに、事務的だねぇ!ま、いいさ今回は色々と伝えられない事情もあって呼んでもらうしかなかったんだ。移動しながらでいいかな?》
どうやら珍しく急ぎの用らしい、女神のアホ毛がアンテナの様に反応しその方向へフヨフヨと高速移動し始める。
《時間はそれほど無い、けど焦ってはダメだ。今回神託ができなかったのは、精神体のみの転移とか、空間跳躍の類は一切できない様にされていたからだね、寂しくなかった?》
「それほど、月の賢者の知識から賢者と間接的に意思疎通できるし。」
《(賢者・・・アトデコロス。)》
「何だろう、何故か肌寒いんだけど。」
「素晴らしい殺気、流石は古くからある衛星の神、創作系の我々とは格が違いますね。」
とりあえず神様に今回の騒動についての概要を聞いて見て、神託がなかっただけで今回も正しく世界の危機らしいというのを把握、どうやら時間制限付きらしいので今回はチート級の能力を大盤振る舞いである。
初手は俺の魔力が増幅器と月の魔力のコンボでほぼ無尽蔵に近くなったからこそできる、というかいつの間にか搭載されていた女神様(分霊)の新機能、『邪神探知機』で姑息にも塔の最上階でなく地下の方にいる複数のティンダロスの王を襲撃することに決定、未だ神格封印状態でちょっと死なないだけの獣人になっているミゼールを背中に背負い、領域内に戻ってきたため権能全開の覚醒キティと透華の自立攻撃、タヌキチの自律防御と高度魔法制御に任せて迷宮を最短距離で走り抜ける。
「で、何でここを封鎖したか、だったな?」
「いえ、大体わかりました。みなさん啓蒙、狂気への耐性が低いのですね。」
お、流石はキティ衛門秘書属性なだけある。
「それに俺が聖剣を持ってるのは百歩譲っていいとして邪神や神様をよびだせるってのはかなりまずいし集団精神汚染とかしかねないからな。」
「ふぅん、強すぎるが故の気遣いってやつ?」
というよりむしろミゼール達が戦うとなってあらゆる制限を外した場合味方の魔力と威圧で全滅なんていう間抜けなオチになりそう、いや、マジで。
宮廷魔道士であり賢者レベルのマーリン、外界からの汚染がかなり進んでいる彼女ですら彼らの姿を見て数瞬固まったのだ。言い方は悪いが木っ端冒険者では周りにいてもダメかもしれないし、勇者のほとんどは狂気に対抗する強靭な精神など持ち合わせていないし、肉体的にも精神的にもこちらに染まりきっていないのが多い、ま、おそらく最後に待ち構える怪物狩りは手伝ってもらうが、狂気と、そして旧主を仕留めるのは俺の仕事、全力でワンマンアーミーごっこを楽しむとしよう。
「・・・ところで何で壁とか床を破壊していかないんだ?いや、古典的な迷宮は好みだけどさ。」
《・・・え?》
どうやら女神様は頭が固かったらしい。
「・・・普通無理なんじゃなかった?」
「確かそうですね、この数千、数万と続く歴史の中でも稀な事例であることは確かです。」
「凄いパーンチ!」
どゴォ!
《ワー、創造神サマー。》
通常、神によって造られたあらゆる物は破壊不能の物質であり、何かしらの干渉ができるのは最低でも神であるということが条件である。少なくともどんな歴史書にも、そう記してあるし、この世界の聖書にもそうある。
「トンファーキック!」
バゴォオオン!
「・・・トンファーの意味とは。」
しかして現実は残酷だ。構造体である以上、生物であると判明している以上、破壊できない道理などない、それはこの邪神の領域となった鋭角の多い構造の迷宮でも同じであった。
「正確には邪神が迷宮を支配している。つまり迷宮が正常な状態ではないからできる芸当だ、が、な!」
《それでも人間はそんなに簡単に厚さ10メートル以上の謎合金製の壁や床を粉砕したりできないと思うよ?》
「それは・・・まあ、アレだ。修行の成果だな。」
「便利な言葉ですね。」
いや、むしろこれが修行である。
彼にとって使えるものが使えないというのはひどく非合理で、気に食わないことであった。
それ故に聖剣と同じ理由で封印してきた加護の身体能力強化の機能をこの完成しきってはいないものの既に通常の物理的法則が支配する世界においてその強度や操作性、筋密度や能力的ピークを迎えつつある筋肉質な青年の体で少しづつ小出しにしながらも制御し体が壊れないギリギリのラインで剣戟や蹴撃、打撃を行う必要のある迷宮破壊はまたとない修行の場であった。
《近いよ!真下!》
「オッケィ!」シュワ感
(魔力による身体強化全開、加護の倍率50%、身体制御オールグリーン!いける!)
もう既に最下層付近、いや、最下層の一層上で彼は上層から落下してきた勢いをそのままに拳の部分に局所的な魔力強化を付与、圧縮された魔力といつの間にか起動していた聖剣による身体強化が重なり赤い閃光を放っている。
「これが!」
《ちょ!?》
空中での姿勢制御は完璧、振りかぶり、自身に荷重魔法と重力操作、そして無駄に豪勢に擬似太陽を爆発させブースターがわりにする準備が全て完了、ミゼールとキティは既に黒い仔犬モードに戻り外套の中へ、人もいない、遠慮の必要もないこの迷宮、既に彼はおじさんが久しぶりに趣味に没頭できてリミッターが完全に解除されてる状態だった。
「俺のぉぉぉ!」
《あ、》(察し)
「全力!全開!」
瞬間、音は消え、周囲には光が溢れた。外からはヒミツが入って数分経った頃にとつぜん地面が割れ、塔の頂上が吹き飛び巨大な火柱が立ち、塔本体が音もなくかけらも残さず消え去った。
遅れて凄まじい轟音と下に押し付けられた熱量が後方に吹き返し、先ほどよりもずっと高く、ずっと太い火ではなく光のようなナニカの柱が出現、衝撃波で周囲が軽く吹き飛ぶが、迷宮という亜空間の中だったためそれ以外に大した被害はなかった。
「あー、やってしまったな。反省だ・・・」
《そうだよ!何これ!まるで人間業じゃないよ!いつの間にか人間卒業しちゃったの!?》
その以外にも深くないクレーターの中央で、上手に吹き飛び戦闘不能になったティンダロスの王、3人を縛り上げ、ミゼール達に丸投げしながらヒミツは頭を抱えていた。
最近ようやく自分の身体能力や魔法、おおよそのスペック概要が見えてきたと思ったらコレである。亜空間である迷宮をそれ自体を消しとばすなど思いもよらないこの惨状にこれから先加護が本当に必要なのかわからなくなってきたヒミツは、珍しくまともな女神様にミゼール達の尋問が終わるまで説教をされたのであった。




