影の国と難儀な男
空間が急激に、塗り替えられる様に全く別の次元に飛ばされた。そして俺はナニカに貫かれた。
「げっふぅ!?」
「雇い主さん!?」
既に意識が朦朧としているが胸に刺さったのは因果逆転必中の伝説上に登場するとんでもチート、
「ゲイ・ボルグ…暇に任せて造ればこんなものが出来上がるというのはなかなかにすごいと思わないか?」
「ぐっはぁ、まじ、そうっすね。」
(神様ではないにしろ心は読めるのか・・・ちときついなぁ)
ヒミツは魔槍を引き抜き、左腕の魔力炉を全力発動、常時無意識下で発動している生命活動維持魔法の強制稼働を開始、自身の肉体ではなく自身の魂を無理やり肉体に縛り付け聖剣を抜刀、星の魔力を開放し魔法耐性を強制的に上げ呪いをかき消し全損傷を回復、因果逆転の呪いは解除できなかったが魔力炉を擬似心臓とし魔力と一緒に血液を全身に送る。
「がブッふぅう…あ゛あー、吐血きついなぁ。」
「や、雇い主さん!」
さらに連続して投擲されてきた魔槍をほぼ無限に広がる出口のない影の中に収納しつつアリスを安全な場所に下げ、ロングソードと黒剣に聖剣の魔力を押し込んだ付与聖剣にして構える。
「流石…と言ったところか、態々槍の投擲を受けたのもあの少女を護るためだな。」
クルンクルンとバトンの様に槍を回す彼女は先ほどの獰猛な笑みを引っ込めて、彼女の世界に相応しい月明かりもない暗闇にとても映える白い肌を撫でうっとりとしている。
ヒミツは金属質な籠手の感触に顔をしかめながら口に着いた血を拭い、鎧を換装する。
「俺も男の子ってやつでしてね?」
「それにしては老成しすぎじゃないか?ヒミツ。」
凡ゆる動作が滑らかでそれが恐ろしいほど洗練された達人のソレ、しかしその闘気を浴びその獰猛に歪む顔を見て、俺はきっと…
「クハハハハ!」
笑った。その動きを読めることに、まだ生きる術が残っていることに歓喜しそして死なない程度に稽古をつけてくれるという彼女の好意に甘えてその胸を借りることにする。
「全力でくるがいい、」
「ああ、そうさせて貰う。」
音が消えた。
亜音速、人が通常経験することのない速度域、音を置き去りに空気を割り、突き進む。幾千幾万自在に投擲されてくる魔槍は致命だけを避ける。出血は有り余る魔力で塞いでより堅牢な魔力障壁を張り巡らせる。剣は逆手と順手両方黒剣を順手に、ロングソードを逆手に、空中を跳ねる様に槍の濁流を受け流す。
「『|月の加護:身体強化《ムーンブレス:フィジカルアップ》』」
俺は常時きっている加護の一つを受注、アーカイブスと接続した状態での申請はほぼノータイムで受諾され、俺自身の魔力から天引きされるがそれは魔力増幅炉でどうにか補える。
支援魔法と加護には大きな差がある。規模、威力、様々な要素があるが一番はその強化率、勇者が勇者たる所以は召喚時もらえる召喚陣に刻まれた神からのお粗末ながらも丁寧な加護、如何な一般人でも化け物級に強化してくれるその効率は大凡100倍、それも身体能力に準拠するためモヤシならモヤシが100倍に、筋肉モリモリマッチョなナイスガイならその屈強な体の凡ゆるモノが100倍になる。
またそこに魔力循環による強化が重複するというのも加護の強みだ。俺は常人普通のと言っては語弊があるが高純度な魔力精製をする過程で生じる高速の魔力の循環が素の状態の10倍程度まで強化してくれる。それに言っちゃ悪いが俺はかなり鍛えている。元の状態でも自身の5倍程度の重さならどうにか持ち上がる。つまり体重60キログラムの5倍300キログラム、つまり魔力循環による強化のみで3トン程度の物を持ち上げられる筋力やその他諸々がある。
俺が100倍って言うともうそれは怪獣レベルのバケモンである。実際その状態をあの偽聖剣を持っていた時は制御できないと確信したため加護を切ってあったのだが、本来の姿に戻った俺の預かる聖剣は支援型、凡ゆる演算や制御を肩代わりし、魔力を借受ける。
つまり、今の俺は加護込みのその化け物じみた力を王都などの建造物の多い場所ではまだ扱えないものの、こう言った異界や開けた場所なら。
「フッ!」
全力で!
「はぁあ!!」
思い切り振るえる!
しかして、デメリットもある。一つに勇者は加護ありきの身体能力だし、通常加護というのは生まれ持つものであり後から試練や神から認められることで貰えるというのはなかなか無い、なので体がその負荷に耐えられないということ。
金属音的なぶつかり合いの音というより巨大な質量同士がぶつかり合うもっと大雑把な音、所謂破壊音と言うのが彼女との打ち合いで生じる。
しかし届かない、このレベルの身体能力は普通に有している様で受け流すでもなく正面から撃ち合われる。つまり、彼女はこの状態でも、その達人レベルの技量を完璧に行かせるのだ。
彼女の槍が曲がったかの様な錯覚はしなやかにうねる生物の様な軌跡を生み出し複数の残像を見せながら俺に襲いかかる。が、
「ぬん!」
「グッ!?」
俺の技量が彼女のソレに遠く及ばないのはよく知っている。だからこそ策を講じ、道具を使う。
不可視にして自立思考する魔剣のヤイバは盾となり、矛となり、そして相手の気をそらす手品のタネにもなる。
全くの死角から現れる刃の軌道やl出現、消滅は俺の思考の中ではなく、俺の背負う透華の精霊であるトオカの思考だ。
俺はそれを綺麗さっぱり忘れることで思考の先読みを破る。
見えないヤイバに一瞬の隙を見せる彼女の腕を左腕を異形と化すことで狙い撃ち、それを防御しようと槍を地面にさして飛ぼうとしたところを魔法で撃ち、影から彼女の投げた槍をお返しする。
「クフ、クフフフハハハ!少々油断したかと自分を戒めようと思ったが、なかなかにやるものだと褒めることにしよう。」
「そりゃどうも。」
全身に槍が刺さり、透華による刺し傷も複数、魔法はあまり効果がなかった様だ。ライダースーツの様な皮鎧が裂け、白い肌が赤い血のコントラストと共に露わになっている。エロい。
スカアハは槍を抜いていき、何のこともない様に体を魔法で修復し立ち上がる。
「ふむふむ、では、、次は・・・」
言い忘れていたが二つ目のデメリットは筋力や各種身体能力が向上しすぎるため心臓が無くなるようなことがない限り戦闘レベルまで自身を強化した場合、心臓から弾け飛ぶということだ。
「何をやっとうですか!この戦闘狂が!!」
そして何かを言いかけて彼女めがけて飛来してきた白い何かの膝蹴りで吹き飛んで行った。俺はそれを呆然と見ながら胸にようやく心臓を据え付けたのだった。




