英雄作成と英雄の師
「さてさてさて、どうするかな?」
「考えなしかよお!」
ヒミツの言葉に凄まじい剣幕でツッコミを入れるデイン、これがツッコミ属性だと言うのか・・・許せる!
「まあまあ、落ち着け、ちょっと作戦考えるだけだから。」
俺はマントを無駄にひらひらさせながらどうするか考えた。
考えることはただ一つ、この局面においてどうやって聖剣やら極大魔法やらを使わずに乗り切るか、だ。
さて、なぜ目立ってはいけないのか、だが、これにはさほど理由はいらない、ただ単純に俺が束縛されない為に目立たないことが必要なのだ。
もちろんこの国に因縁があるとかそう言うことはない、ないのだが、此処で目立つわけにはいかないのだ。何故ならこの国家はダンジョンを攻略するため、心血注いで、金も注いでいろんな囲い込みの制度を作り上げて来た。そしてその本質は強力な戦力を自国に引き込む為、である。
ぶっちゃけ、この国は迷宮に依存しきったダメ国家である。この迷宮を攻略できたら次はどうするだろうか、此処からは想像だが恐らく現実化するだろう。
そう、戦争だ。
もし此処で俺が聖剣なぞ解放しようものなら、この黒い冒険者タグについた裏機能『隷属』が発動しそれこそこの国に何が何でも縛り付けられる事になりかねない、もちろん自由と平穏と命を大事にする俺は最初からその機能を見抜いていた。
改めて解析の有用性に惚れ惚れする。まあ、以上の理由から面倒な話だが、適度に魔法で援護して・・・そうだな、デインあたりを英雄にしてしまおうか・・・うん、それがいいな!
そう決心するとヒミツは魔力を練り上げ魔法を組み上げる。定型の既存魔法ではなくオリジナルの魔法だ。同時に魔法名は言わないが無詠唱で呪いの回避を実行、隠蔽系の魔法を待機する。
「んじゃ、身がわ・・・げっふげっふ、デイン!君に決めたあ!『全能力超強化』!」
「う?おおおお!!み・な・ぎ・る!」
俺は完全オリジナルの支援魔法、『全能力強化』を発動、効果は身体能力の強化・・・ではない、実際は俺の力の一定時間付与、今回は俺の魔力を含めた身体能力の十分の一を貸し出し彼を英雄に仕立て上げる。
ニヤリと口を歪めるヒミツを見て驚きと憧れを混ぜた視線を送るのは両目が妖しく輝くアシェイラ、そして恐らくヒミツのおかげでこの先苦労するであろうデインは全身に満ちる全能感のまま巨人に突っ込んでいく。
「ふふっ、強化は得意なんだ。」
「うにゅ?・・・ああ、そう言う事なの。」
いつの間にか黒い鎧と黒い外套から魔導師らしいローブの様な布製のロングコートとトンガリ帽子を身につけ適当に趣味で作った素材と能力のは一級品な宝珠をはめた木製の杖を構え、隠蔽系の魔法を全力発動させるヒミツを見て、幼いながらもそう言うものを何度も見てきたアリスはそのローブの内側に入り、今回の茶番をやり過ごす。
「うふふっ、やっぱりぃ、外に出てよかったぁ。」
うっとりとそれでいて静かな吐息の様なアシェイラの声は、デインに続いて突っ込んでいく勇敢な冒険者たちの喧騒の中に溶けて消え、その目は確かにヒミツを、完璧に周囲の空間に同調し、そこから的確かつ完璧な支援をするヒミツをバッチリと捉え、彼女は自分の世界へ一人浸っていた。
戦闘を終えると彼は一躍英雄として祭り上げられた。冒険者と恐らくだがその中に紛れている国の暗部によってだがね、しかしそれが国中に広がるのにそう時間はかからないだろう。それまでに彼に俺の身体能力が馴染めばいいが…
「それは安心てくれて構わないよぉ、彼、素質だけはピカイチだからぁ、一度能力を開放できれば後はいつでも、いつまでもそのままなんじゃないかなぁ?」
「・・・それは興味深いな。」
「雇い主さん〜唐揚げ食べていい〜?」
時刻は夜、どんちゃん騒ぎの冒険者ギルドで俺は黒いタグを破損、という名目でギルドに返還し端の方でデインが担ぎ上げられているのを晩飯を食いながら見ていたのだが、いつの間にかアシェイラは一緒の席に座っていた。
「うふふっ、興味深いのは君の方だよぉ、ヒミツ・ムカイザカ君、元王国衛兵隊員にして邪神殺し、名誉貴族章と超級冒険者章授与者…おっとぉ、怖い顔になっているよぉ?」
「いや、すまない、美人に俺のつまらない経歴が知られているというのが少々不思議でね?」
「雇い主さん〜ヤキトリも頼むね〜?」
自慢じゃないが俺くらいの経歴のやつは普通にいる。むしろそれくらいに調節した。多くないが珍しくもない、そんなの平凡な、経歴のはずであり決してどこかに漏れたり特別知られている様な物では無いはずだ。
「クフフ、改めて名乗ろうか、私の冒険者としての登録名はアシェイラ、だけどねぇ、そんなのはもちろん偽名だよ、珍しくは無いだろう?」
「へぇ、てっきり本名かと思ってたよ。数瞬前までは、はぁ、なんなのかな、俺の周りのやつ偽装能力高すぎじゃないか?」
「・・・乙女には秘密が似合うって花街のおねいさんも言ってたよ?」
取り敢えず後で念話越しにまだ見ぬ暗殺者カザマ君を弄るネタを記憶しつつ全くもって警戒していなかった目の前の魔法使いを装っていた何かに注目する。
そして同時に周囲の動きが静止した。
そしてまず見た目が変わった。黒く長い髪は毒々しくも妖艶な紫に、深淵の様な昏い瞳は燃える様な闘志を宿しつつも理性的な光を見せる朱色になる。
次に凡ゆる装いが変わった。ダボついたローブはきっちりぴっちりと体に沿ったライダースーツの様な魔物の革製の鎧に、箒は紅く禍々しい魔槍に、帽子は消え去り革製の鎧に合わせた紫の様な黒の様な色の手袋や長靴が身につけられ、そのいでたちは戦士のそれとなる。
最後に強烈にして鮮烈にして心地の良い殺意じみたその闘気を魔力を開放した彼女は、戦闘態勢をとったアリスと悠々と飯を食うヒミツを見て少し笑って間延びしないきっちりとしたしゃべりでこう言った。
「我が名はスカアハ、スカト、スカーサハ、様々名はあるが人は皆『影の国の女王』と呼ぶ。・・・少し、驚かせただろうか?」
なんというか驚かせる以外の目的がない様な気がするぞ?というか女神っていう生き物はどうしてこうも・・・アレ?
「神様じゃない?」
「ふむ…それはまたおいおいとしよう。ひとまず、そうだな。」
やり合って貰おうか?
そういう彼女が酷く美しく見えたのはきっと俺が人外だからだろう。




