専心と生存
取り敢えず飯を食い、場所を変える。本当はもう今日は迷宮に入っているつもりだったのだ。
何故か、それはこの一週間のうちに魔物産の素材を大量獲得するためである。いや、確かにまだ影の中には大量の魔物素材が眠っているが、最近装備新調が重なり、金は問題ないし減ってもどうということはないんだが、ともかく素材がガリガリ減って仕方がない、主に卑金属系や竜や希少金属、魔法金属、血液などなどなど、俺の鎧や武器、左腕の犠牲となった素材が減ったまま補填できて居ないのだ。
いや、まあ普通に考えて一週間で補填できる量ではないのだがここは迷宮都市、それも最も規模が大きく最も大量の産出物を出す大迷宮だ。ギルドでの講習後に少し見た迷宮の内での産物記録書には通常、外には存在し得ないような希少な魔物や深層にて連続で現れた龍の大行進など、久方ぶりに心踊る知識の吸収が出来たと喜んだものだ。
だがまあ、ね、人生とはうまくいかないものである。
「絶対!弟子入り!する!」
「もう止めようよ山田ちゃん!ヒミツさんが切れそうだよ!」
「ヒミツー!ぱふぇっていうの食べていい?」
なんで俺は幼女に飯を食わせながら剣バカとそれに頭を悩ませる愉快な勇者一同とテーブルを囲んで、1時間んも時間を無駄にしているんだろうか?
「取り敢えず、お前がお前である限り、山田鏡花が山田鏡花である限り弟子にはとらない、後そもそも俺は旅人であって別になんかの流派の師範代でもなんでもない、修行ごっこがしたいならそこらの道場でも入って居てくれないか?あと、其の小さいやつにしときな、これから運動するから。」
「いや、ヒミツさん、あいつこの街の道場それも剣術と名のつくところのは全部道場破りしに入って全戦全勝勝やで?」
狸川・・・なんで自慢げなんだ?ていうかそもそもお前らのクラスメイトじゃろが!なんとかしてほしい、マジで、そう思いながらもう何度目かわからない断りの理由を述べる。
「ああ、本当にどうしようもないが才能はあると思う。だが、其の剣に生への執着が感じられない、これは致命的すぎる。」
「えへへ、そんな、性への執着なんて・・・じゅるり。」
本当にどうしてくれようか?いや、マジで、というかマーリンとかだって魔法使いとし・・・いや、そうか魔法使いは自分自身が其の魔導の深淵を探るのを目的とするなんでもやりたい研究者タイプだ。そんな奴らは弟子入りなんか目指さないか・・・くそ!面倒臭い!ていうか早く迷宮行きたい!マジで!
ていうかなんか案出せよ神凪君と狸川孤空君よぉ〜、マジでさ〜!
「・・・気は進まないでしょうが、一つここは賭けをしていただけませんか?ヒミツさん。」
「ほう?どんなのだい?」
神凪は神凪桐江は考えた。
(最も安全に山田を処理しつつこの場を乗り切る方法は・・・)
目下問題なのは山田を弟子にとりたくないヒミツ、そしてそれに無理矢理にでもそれこそ噛み付いてでもなにをヤッテでもついていこうとする弟子入り志願の山田という全くあい入れなさそうに見える二人が、実際全くあい入れてなくて山田が食い下がるのを辛抱強く断っているヒミツの堪忍袋がいつ爆裂するかわからないというところだ。
判断を誤れば、そして対応にこれ以上遅れれば元の世界へ、日本へ帰れるかもしれないという可能性を、一縷の望みではあるが其の展望を失いかね無い、人格的に問題なく、むしろお人好しに入る彼が感情論で動く可能性は低いがそれでも彼も人間だ。
(はぁ…彼の心が広くて助かった。貴族とかだったらもう取り返しがつかなくなりすぎてどうしようも無くなるところだった。)
実際彼は貴族としての地位もあるのだが、それを使うことはないだろう。
「ええ、彼女は弟子入りしたい、あなたは生きる気のない者に教えるものはない、なら、ある一定の期間を設け其の間に彼女が生きる気力を、それこそ剣にこだわらずなにをしてでも生き残ってやるという気概を手に入れれば、弟子入りを考えてもらう。というのはどうでしょう?」
(もちろん、それはないだろう。ぶっちゃけ十数年間そういう生き方をして居たんだ。劇的に、ドラマチックにそれが解決するなんてそれこそありえ無い。)
いわゆる試練というものだ。こう入った類の試験や試練は合否がはっきりしているため相手に取り入るとかそれ以前に自身の能力がひいては自身を見つめる力がいるのだ。
それを汲み取ってか兜越しに少しくぐもった笑い声をあげるとヒミツは契約書を書き上げた。
「くくく、じゃあ、山田鏡花、お前さんへの試験はこいつだ。」
そう入って提示した内容はいたってシンプルかつ難題だった。
『弟子入り試験。
契約書署名 ヒミツ・ムカイザカ
一つ、1日一時間、刀を手放す時間を作る。
一つ、1日一度は戦闘する。
一つ、あらゆる手段を用いて迷宮の奥地で生き残れ。
一つ、上記の条件を満たした状態で一週間迷宮に潜りそこから脱出しろ。
一つ、上記が達成された場合ヒミツ・ムコウザカはその者を弟子にする。
上記の契約を結ぶ者
________。
契約者ヒミツの魔力により瀕死の重傷を負い心が折れた場合ヒミツの影の中に転移させられる。
契約者が契約違反をした場合
ヒミツは強制的に其の者を弟子にする。
無記名はヒミツの半径2メートルに侵入できなくなる。』
「こんなもんかな?」
詰まる所山籠りならぬ迷宮篭り、ヒミツは念話でなにやら日程の調整をしているがそれより山田の反応だ。
「ふむふむふむ・・・この迷宮奥地とは?」
「十層より下、初心者コースの終わりあたりにしようかな?まあ、そこから下ならなんでもいいよ。」
「わかりました。弟子入りに条件はつきものです。やってやりますよ。」
(なんとかなったか…)
この瞬間から神凪は山田が居なくなる可能性を勘定に入れながら一応立会人として名前を入れ、この契約が不当な者でないことを確かめた。
「んじゃ、一週間後、ね。」
そう入ってヒミツはパンケーキを食べる幼女を連れ颯爽と迷宮へ消えていき、ほどなくして簡単に荷物を整えた山田が迷宮へ消えて行った。
「狸川。」
「わーってるって。ミケ、行ってきな。」
『狐使いが荒いのう。』
「服部は……」
「もう行っちゃったよ、でもどうなるかな〜、ていうかあの人相当な条件を付けたねー」
残った勇者たちは一応の保険をかけつつ、剣バカこと山田の無事を祈るのだった。
「あっは。そういうことですか…ちょっとまずいかもですね。」
彼女は剣以外に興味がない、それ故に彼の思惑に気付かなかった。
「十層から下には自然環境型の階層が二十層からしか無い上に、十層から砂漠だなんて・・・容赦ないですね!」
迷宮がいかに恐ろしい所であるかを、そこが何故未だ攻略され無いのかを、
「さて、何日持つかな?」
「知〜ら無い、それより未来の雇い主さん、カザマは大丈夫そう?」
「ちときびしいかもしれん、がまあ同じ故郷のよしみだし、何より愚かにも化け物に片足突っ込んだ俺を殺そうとしたんだ。俺のために働いてもらうまではなんとかするさ。」
ヒミツは呑気にそんなことを考えながら鼻息まじりに現在の迷宮最深部、第四十階層までノンストップで駆け回り、今、三十九層目のボス『憤怒のミスリルゴーレム』を瞬殺し、ドロップであるミスリルといくばくかの宝石を陰に押し込んだ。
こうして彼の迷宮都市2日目は終わったのだった。




