ラスボス系俺氏2
「正義が死んだ!」
「この人でなしめ!」
忍者と陰陽師の絶妙な連携、掛け声がふざけているのを除けばおおよそ暗殺技としては満点だ。が、
「まるでバターも切れないなまくらだな。」
「なに!?」
忍者のつきたてようとする刃は、この世界でも最強と謳われる竜種、その首すら両断する一撃は男の鎧の隙間を抜いて彼の体に到達する。しかし、到達しただけなのだ。その刃は一部たりとも彼の体に突き刺さっていなかったのだから。
「このドッキリびっくりな異世界っていうのは意外となんでもあるもんでな?」
ヒミツヤイバをいつの間にか納刀した左手で掴み忍者の青年ごと持ち上げ、地面に叩きつける。
「がはぁ!?」
「この前知り合いが使ってたんだよ、生命エネルギーの余剰分、所謂『気』って奴をな?」
正確には彼が使っているのは気ではない、アレはそんな短期間で身につけられる様な物ではない、今の彼が使っているのは考え方、一種の概念を魔力という可能性の塊にこじつけた結果だ。
「まあ、パチモンだけど訓練にはちょうどいいと思わないか?」
地面に叩きつけられ跳ね上がった忍者を陰陽師の方へ投げ飛ばす。
「まじか!?」
認識可能かつ避けれる距離と速度だが、実際には車の様な勢いで吹き飛んで人間が無事なわけがない、が、
「避ければ致命ダメージで服部がフェードアウト、受ければ俺がフェードアウト、ってか!」
そうだ。地面にそのまま激突すれば気を失っている忍者は吹き飛ぶし、陰陽師が受けた場合でも運が悪ければ二人とも吹っ飛ぶ。
しかし、彼は白い着物の袖から五芒星の描かれた札を取り出し投げ飛ばす。同時に魔力を高め地面を大きく踏む。
「ええい!『稲荷の神に畏み畏み申す』!ウケ!ミケ!頼むで!」
地面にはいつの間にか召喚陣が展開され手元に刀を持つ陰陽師、更に投げた札が2個とも二尾を持った白い妖狐となり地をかける。・・・事もなく無様に忍者に押しつぶされる。
「うぶぇぇぇぇぇ!?」
ウケと呼ばれた方は胴体がそのまま忍者の鍛え上げられた胴体と衝突し身体中からスゴイ音を立てながら吹き飛ぶ。
「術師ィィィィィ!」
ミケと呼ばれた方は尻尾と全身を使ってウケと忍者を受け止め地面を削る。
「アハっ!堪忍な!」
最後に陰陽師が受け止め、ウケとミケは魂の様なフヨフヨとした塊になり霧散し、刀に吸い込まれた。そうしてなんとか勢いを殺し受け止めると忍者を地面におろし緑色のわかりやすく『治癒』と描かれた札を貼り付け放置、そして本人は魔法少女や復帰した筋肉魔法使いと山田が吹っ飛んだり、ピンクやなんかのファンシーな魔力弾がはじかれたりしているのを観察していた。
いや、ただ見ているわけではない、勝つために必要な情報を、負けないための手札を揃えているのだ。
「どうだ、狸川、隙は見つかったか?」
気がつけば無表情の青年が狸川と呼ばれた陰陽師の様な格好の青年の横に立っていた。銃弾による偏差射撃や魔法を込めた銃弾での高速援護、更に小型のシールドビットの様な魔道具を飛ばし彼女らのダメージをなんとか防いでいる。
しかし、それを聞かれた狸川は渋い顔だ。
「ダメやな、奴さんまだまだ引き出しいっぱい仕込んでるみたいや、少なくともいまの奴さんに魔力弾やら、パチモンの霊力擬き、実験してる余裕まであるみたいやし、これはもう、素直に胸を借りるくらいの勢いがないとダメちゃう?」
「そうか・・・」
狸川の話を聞き、いや、それよりも前からやはり無表情な彼は治癒の札が貼ってある服部に緑色の液体をかけ、回復を促す。暫くの間ヒミツが手を抜いた状態での拮抗が続いたが魔法少女は既に魔力が枯渇気味だったため跳ね返された自身の魔力弾にあたり損傷過多で場外、もう既にたった五人である。
実は戦いは始まってからそこまで経っていない、ぶっちゃけ十分ほどだ。しかしそれで七人が五人、五分で一人吹き飛んでいる計算だ。
実際、二対一、三対一いまの様に四対一で連続戦闘しているというのに息の上がらないヒミツと既に玉の様な汗を止め処なく流す前衛二人、一撃で戦闘不能の服部、現在無傷で残っているのは現在勇者達の中で最も強いであろう義手義眼の男、そして似非関西弁の狸川、
「なぁ、神凪君、ちょっと本気、出しません?」
しかしその二人の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
「ほぅ、いいじゃないか狸川、君がそんなことを言うなんて珍しい。」
二人は魔力を高め自身の持てる力を出すことにした。
「魔力回路、起動『擬似魔眼:フラガラッハ』起動・・・魔力炉点火『|起動、神腕ヌアザ《スイッチオン、アーガトラム》』、全魔導補助ブースター起動、全装備。」
中二病な見た目にあった中二病全開な装備や義手義眼が全起動され、膨大な魔力を放つ神凪と呼ばれた無表情の青年。右目から白い炎を噴き出し右腕からは赤く輝く魔力ブレードを展開、逆噴射している。
「はぁー、んじゃいっちょ派手にやられますかね、ウケ、ミケ、おきいや、出番やでぇ?」
『ったく、俺らはクッションじゃねえの!そこらへんわかってんのかー?』
『全くだな。』
陰陽師の様な青年はいつの間にか手に持った刀、正確には軍刀と呼ばれるものがよく似合う黒い革製の軍服を着込み、袖と同じ様な目くらましの効果を持つマントを翻らせる。下半身のない半霊の様な状態の狐二体を周りに浮かばせ狐の面をかぶる。
「第十二近衛師団、大隊隊長が一人狸川孤空参るで!」
なかなかに壮観だが、その変身の合間に山田と筋肉魔法使いがまた吹き飛ばされていた。
「ふぅむ、いいじゃないか、本気ってやつ。見せてくれよ?」
ヒミツは彼らを見て笑みを深めたのだった。




