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【番外編】ガラクタ道中拾い旅番外編集  作者: 宗谷 圭
最終章後日談
21/24

真の平和は目前に?

 ホワティア国。

 大国であるヘルブ国の北西にある国で、領土拡大の野心を隠さない国。そして、目的の為なら手段を択ばない、陰謀術数の国でもある。

 ……いや、そのような国〝だった〟。三十年ほど前までは。

 今から三十年ほど前、先のホワティア国王はそれまでの仕込みが終わり、機は熟したとばかりに、ヘルブ国に攻め込んだ。

 しかし、様々な誤算が重なり、戦争は敗北。王は、ヘルブ国に囚われてしまう。

 その数年後、ヘルブ国とホワティア国は形ばかりの和睦をし、王はホワティア国へと戻された。

 その時のヘルブ国王の名は、ワクァ=ヘルブ。現ヘルブ国王でもあり、先のホワティア国王による〝仕込み〟の最大の被害者でもある。

 その被害者であった筈のワクァの活躍により、その後もホワティア国の目論みは全て失敗。十五年前には暗殺まで試みたが、それすらも徒労に終わってしまった。

 度重なる敗北に、王が虜囚となってしまった事による、国民からの信頼低下。とてもじゃないが戦争などしていられない状態となり、早十五年。今、ホワティア国には新たな問題が浮上していた。



# # #



「これ……ヘルブ国王の呪いとかじゃないよなぁ……?」

 窓際で頬杖を突き、ホワティア国王ヒャリミル=ホワスノウティアは深い溜め息をついた。目の前には、一メートル以上はあろうかという長い長い人名リスト。そこに書かれた全ての名前が、線で消されている。

「本当にどうしよう……このままだとこの国、自然消滅しかねないんだけど……。もしこのまま私が死んだりしたら、王不在で王朝消滅、だよなぁ……?」

 そう、このホワティア国。現在、後継ぎがいない状態となってしまっている。王妃は、妾も含めて何人もいる。しかし、子に恵まれなかった。先の王が残したたくさんの兄弟は、流行病やら何やらで、現王ヒャリミルを除き全てが早死にしてしまった。子も残っていない。

 辛うじて娘が一人いるのだが、ホワティア国では王女に王位継承権は無い。それに、王女にも王位継承権を与えられるようにしたところで、そこで世継ぎが生まれなければ、結局はそこでストップしてしまう。

 そこで、ヒャリミルは優秀な世継ぎを確保するべく、近隣諸国――ただし、散々痛い目に遭わされているヘルブ国とテア国は除く――に使者を発し、王女の結婚相手を探す事とした。

 結果、全滅である。

 ただでさえ、これまでの評判が悪い。おまけに、近年はヘルブ国やテア国に散々に打ちのめされて、国力も低い。どこの国からも、婿を出す事を渋られてしまったのである。

 このままでは、本当に長くてもあと五十年もしないうちに、ホワティア国は消滅してしまう。

「……やっぱり、ヘルブ国王の呪いだよ、これ……」

 先のホワティア国王が、ヘルブ国に対して仕込んだ罠。それは、幼子であった唯一の後継者――現国王のワクァを攫い、ヘルブ国から世継ぎを無くしてしまうというものだった。

 その仕込みを行ったホワティア国が、現在世継ぎ問題に悩まされている。呪いと思いたくなるのも、仕方が無い。

「先王陛下が亡くなって、ようやく思い通りに政治をできるようになって……もう無駄に戦争とかしなくても済むと思ったら、これだよ……」

 どうした物かと頭を抱え、再び深い溜め息をつこうとした、その時だ。

 部屋の外から、バタバタという騒がしい足音が聞こえてきた。そして、部屋の前で一瞬止まったと思うと、勢いよく扉が開く。開いた扉から、今まさに心配していた唯一のホワティア国王の子……ホワティア国王女リターシャが姿を現した。

「お父様、お話しがあります!」

 今年十五になるリターシャは唐突に話を切り出した。そして、ヒャリミルが何か返事をする前に、用件をさっさと口にする。

「私、ヘルブ国の第二王子、コウ=ヘルブ様に心を奪われてしまいましたの! ですから、ヘルブ国にコウ様を婿養子に頂けるよう、使者を出していただけません事?」

 ヒャリミルは、一瞬で言葉を失った。何かを言おうにも、口をパクパクと開閉するだけで言葉が出てこない。

「……リターシャ……これまで、歴史はちゃんと勉強してきたのかな……?」

 やっとの事でそれだけを言うと、リターシャは「勿論!」と強く頷く。

「……つまり、ホワティア国と、ヘルブ国、テア国の関係の歴史はわかっているんだね? それで、ヘルブ国の王子と言えば、当然ヘルブ国王家の血を引いていて、ついでにテア国王家の血も引いているって、勿論知っているんだよね? ……と言うか、何でいきなりヘルブ国の王子に好意を寄せてるの? どこで会ったの……」

 問うと、リターシャは「何の事は無い」とでも言いたげに首を振った。

「数日前、国境沿いまで遠乗りしましたの。その時たまたま、あちらの方々も国境沿いまで見回りにきていらっしゃいました。同行されていた幼さが残りながらも凛々しい殿方は、周りの方々に呼ばれていた名からも、コウ王子に間違いございません」

「……第二王子のコウ=ヘルブと言ったら、あれだよね? まだ十四歳なのに滅法強くて、剣の腕ではもうヘルブ王族以外に勝てる者がいないって言う? 体付きも、小柄なヘルブ王家の人間なのに大き目で、将来確実に武人になるだろうとか言われてる、あの?」

 その問いに、リターシャは「はい!」と目を輝かせる。ヒャリミルとしては、「よりにもよって……」と頭を抱えるより他に無い。

「ヘルブ国とは長年わだかまりがある? 良い機会ではありませんか! この婚姻を切っ掛けに、友好を深めていけば良いのです! ヘルブ国の国王とて、真の平和を望んでいない筈がありませんもの!」

 言っている事は間違ってはいないのだが、やはり釈然としない。……と言うか、心情的に受け入れ難い物があるし、国民感情だって同じだろう。

「えぇっと……どうしても、コウ王子じゃなきゃ駄目なのかな? 他の人とでは……」

「嫌です」

 一瞬も考える事無く、リターシャは即答した。その決意は、どうやら固い。

「お父様が、コウ王子を婿に迎えるのが嫌だと仰るのであれば、私がヘルブ国に参ります。永遠の愛を誓う証として、お父様の首を持ってでも!」

「そんな血腥い結納品は止めなさい! ヘルブ国王だって、流石にそれは喜ばないだろう!」

 血の気が引いた顔で叫び、ヒャリミルは深い溜め息を吐いてから言った。

「わかった……わかったから。娘に寝首を掻かれて結納品にされたりしたら、堪った物じゃない。婿養子の件は早急に検討して、ヘルブ国に使者を送る事にする。何なら、お前も一緒に行って、ヘルブ国王とコウ王子を説得してきなさい……」

「本当ですわね? 約束ですわよ、お父様!」

 念押しをして、リターシャは跳ねるように部屋を退出していく。その後ろ姿を見送って、ヒャリミルはもう一度深い溜め息を吐いた。



# # #



 ホワティア国王ヒャリミルが、王女リターシャによって深い溜め息を何度も吐かされていた、その頃。ヘルブ国でも、似たような騒ぎが起こっていた事を、ヒャリミルは知らない。

「そういうわけですから、トヨお兄様、コウ! 私は、バトラス族次期族長のリン殿に降嫁したいと考えております。お父様を説得する事、勿論協力してくださいますね!?」

 ヘルブ王家の三兄弟、長男のトヨ、長女のテル、次男のコウが中庭に集っていた。声高らかに宣言しているのは、テル王女だ。尚、テルとコウは双子である。

 三人全員が両親に似て美しく、剣の腕も立つときている。現在二十五歳の長男トヨは、既に政務を手伝い始めていて忙しい。しかし、歳の離れた妹と弟が可愛いらしく、ついつい抜け出しては相手をしに来ている。

「姉上……バトラス族に降嫁したいなど、本気ですか? たしかに、性格だけ見れば姉上はバトラス族の集落でもやっていけるでしょうし、ヨシ小母上とも仲が良い。ですが……今まで城で育った姉上が、遊牧民族であるバトラス族の生活に馴染めるとは……」

「コウ、姉に口答えをする気ですか? 私の意思は変わりません。決めたからには、必ずや添い遂げてみせます!」

 そう言うと、テルは踵を返し、城の中へと行ってしまう。そう言えば、そろそろ楽器の稽古の時間だ。

 後ろ姿を見送りながら、トヨはため息を吐きつつ苦笑する。

「バトラス族の……ヨシの息子のところに降嫁、か。父様が聞いたら卒倒しそうな話だね」

「姉上は、何故このように育ってしまったのでしょうか、兄上? 父上は、唯一の娘だからと言って、別段姉上を甘やかして育てたようには思えないのですが……」

「たしかに、甘やかしてはいないよね。それどころか、母様には厳しく躾けられたし、ウトゥアにも色々言われているし、時々遊びに来るヨシやファルゥにも散々鍛えられて……」

 そこでトヨは言葉を切り、「あ」と呟いた。トヨとコウ、二人揃って顔を見合わせ、苦笑する。

「兄上……それです」

「それだね」

 物心つく前から、気の強い、我の強い、とにかく強い女性達に触れ続けてきたのだという事に、今更ながら気付く。

「……兄上。私はこれまで、母上のような女性と出会い、仲睦まじく添い遂げている父上は運の良いお方だと思っていたのですが……今初めて、実は父上の女性運はそれほど良くはないのではないだろうかなどと考えてしまっております」

「……まぁ、良いんじゃないかな? 父様自身はそれで何か困っているわけじゃないんだし」

 そう言って伸びをすると、トヨは「さて」と言って城へと足を向ける。

「僕は、そろそろ政務に戻るよ。コウも勉強の時間に遅れないようにね?」

「はい、兄上!」

 力強く頷き、コウも城へと駆けてゆく。

 この数ヶ月後、ホワティア国からの使者としてやってきた王女リターシャが謁見の間で爆弾発言を投下し、ならばとテルも爆弾発言を繰り出して誘爆させ、ワクァを酷く疲れさせた……というのは、ここだけの話である。




(了)

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