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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
戦場の歌姫編
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第99話 歌声

お待たせしました。この話から新章となります。

それとブクマがまた増えてました!ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

 どこからか声が聞こえた――いや、これは歌だろうか。


 広大な土地に森林入りまじる平野――雷平野。


 【七つの大罪】との戦から時が経ち、12月。


 アルヴィスはクランリーダーとしての指揮能力を培うため、アリスとルナ、そして新しくサーヴァントとなった元【七つの大罪】メンバーであるエレナを連れて、雷平野で起きている戦を近くの丘から眺めていた。以前の戦でローランが布陣していた丘だ。


 眼前で戦を繰り広げているのは、ラザフォード王国からはクリストフ・シルヴァ率いる5000の隊と、敵は帝国領から攻めいってきた5000からなる隊だ。


 超大国である帝国は、ラザフォード王国等隣国にとっては脅威の存在である。現3大大国――ロシア連邦、アメリカ合衆国、そして、帝国だ。その帝国から、雷平野を取ろうと5000の隊が侵攻してきたのをクリストフが迎撃に当たっているのだ。


 クリストフは隊を2つに分け、片方をエレナと同じく元【七つの大罪】メンバーであるニコデモスに将を勤めさせていた。現在はクリストフ隊の副将ということだろうか。


 帝国隊5000を2方向から挟み込むように仕掛けるクリストフの5000隊。アルヴィスは丘から、その内2500を率いて馬を走らせるクリストフを観察していた。


 最中、どこからか女性の歌声が風に乗ってアルヴィスの耳に流れ込む。


 アルヴィスはなんだ? という風に辺りを見回すが歌っている人物らしき姿を見つけられない。


 アリス達も同じくキョロキョロとしていることから、歌声が聞こえているのはアルヴィスだけではないことは確かだ。


 だがある変化に気が付いた。


 アルヴィス達は再び戦場に視線を移すと、なんとその勢いが収まりを見せていた。


「何が起きてんだ!?」


 アルヴィスは眼前の光景に思わず声を出していた。


「何かこの歌と関係しておるかもしれぬのう」


 応えたのはアリスだ。


「歌と?」


「そうじゃ。距離のせいか効力は弱いが、歌から微かに魔力を感じる。恐らく洗脳か幻覚といった類いの魔法じゃろう。いずれにしろ、脳に直接影響を与える力は厄介じゃぞ」


 魔力に最も敏感なアリスは、少し頭を振りながら説明をした。アルヴィス達他のメンバーは何も影響らしきものは出ていないが、アリスだけは少なからず魔法が効いているのか、頭を振って抗っている様に見える。


 改めて戦場をよく見ると、クリストフやニコデモス、そして恐らく敵将であろう人物達も、アリス同様に頭を振っている者や纏う魔力量を増加させている者がいた。抗う手段として思い付くことを各自行っているのだろう。


 各将級の魔法師たちとは違い、大多数の一般兵――魔法師兵や普通の人間兵のことだ――は、歌声の影響をダイレクトに受けているのか手にする武器を下げ、戦う手を止めていた。


 この変化に焦りを感じたのか、クリストフは直ぐに隊をこの場から離れさせるようにニコデモスにも指示を飛ばし、乱戦する2隊は帝国隊から距離を取り始めていた。


「ご主人! 見つけたにゃ!」


 「あそこにゃ!」と指差し叫ぶルナに言われた方向を見ると、起伏が激しくなり始めた山地へと続く途中にある、まるで平野を見渡すためにあるような場所に位置する棟型展望台の上に人影があった。


 見渡すためとはいっても、周りの山地は傾斜がキツく、展望台自体も小さい。布陣するには不向きだろう。もともとは見渡すために造られた、というべきだろうか。


 観察台のようなそれは、戦場からは起伏のせいか見つかりにくいようで、同じくらいの高さである丘にいたアルヴィス達だからこそ見付けられたのだ。そこから歌う1人の女性もしくは少女は、祈るように両手を合わせて小型のマイクを手にしていた。凛としたその表情に、けれどどこか切なさも感じる瞳で精一杯に歌っていた。


 藤のような紫色の胸元まである髪はゆるくウェーブがかり、黒と赤を基調としたドレスは、胸元と太腿の素肌を大胆にも表していた。腰元の大きめなリボンがアクセントだ。


 とても戦場に似つかわしくない身形の女性の様子を見ていると、背後に立つエレナから怖い台詞が飛び出した。


「主人殿、私が仕留めましょうか? 私の水柱ならこの距離でも狙えます」


 敵か味方かわからないとはいえ、まさか見付けたばかりの人を簡単に殺ってしまおうという発想を持つエレナに、主人殿と呼ばれるアルヴィスは驚いていた。


「いやいやいや、いいから! いきなり仕留めるとかしねェから普通!」


「む、そうだろうか? 仮にもここは戦場、いつその身が狙われようとそれは覚悟のはずでは?」


「うっ……たしかに……」


 正論を言われ、アルヴィスは返す言葉を言い淀んだ。


「カッカッ、まあそう苛めてやるなエレナよ。我が主人さまはうたれ弱いのじゃ」


「む、そうであったか主人。――すまなかった主人殿」


「いや、いいんだエレナ」


 主人であるアリスの言葉で、アルヴィスに向き直って頭を下げたエレナ。


 サーヴァントとして仕えるようになったエレナは、アルヴィスのことを主人殿、アリスのことを主人と呼んで高い忠誠心を見せていた。ちなみに、ルナのことは猫殿だ。ルナ殿ではない。そしてなぜか、相手が女性でも殿と呼んでいる。


 再び視線を戦場へ戻すと、どうやら敵地で異常状態のままでは危険と判断したのか、帝国隊も退却の様子を表していた。


 なんと、展望台に立つ謎の女性が歌うその声だけで、戦ひとつを終わらせてしまったのだ。


 アルヴィス達はクリストフ隊が離れた段階である程度の予想をしていたとはいえ、この事実に驚きを隠せずにいた。


「すげェ……」


「やりおるのう」


「にゃぁ」


「脅威だな」


 何故か1人だけ鳴いただけの者がいたが、それにはメンバーは気にした様子もなくもう一度展望台へ視線を移した。


 すると――


「なんだ?」


 向こうもアルヴィス達の存在に気付いたのか、呆然と眺めるアルヴィスに指で作った銃で「バーン!」という口の動きと一緒に撃ち抜く動作をしてきた。


 その行動に何の意味があったのかさっぱりと解らないアルヴィスは、ただ首を捻りながらその場から去っていく謎の少女の姿を見ていた。


「……やりおるのう」


「にゃぁ」


「脅威だな……」


 そんなアルヴィスとは違い、周りにいる女性陣は行動の意味を理解したのか、先ほど漏らしたばかりの台詞に今度は違う意味を込めて呟いていた。


 これが、アルヴィスと謎の少女との、半月程前に起きた初めての出会いであった。

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